Ep2 魔王様
美幼女、そう言っても過言ではない程の美貌。肩まである髪はスカイブルーで、瞳は燃えるような紅。可愛らしい丸顔に整った目鼻。どこを取っても満点である。
ただ一つ、残念な所を挙げるとすればその身に纏っているどす黒いオーラだろう。一般人の俺でも分かる程の殺気、憎悪の念が感じられる。
ヤバイ、死ぬ。
瞬時に本能が警報を鳴らすが、それをロリコンパワーが抑え込む。
そうして葛藤しているとーーー
「いらっしゃい。貴方は勇者...では無さそうね」
そう言って幼女は微笑む。だが、目がヤバイ。殺気しかねぇ。
一か八かここは...
「ぇ...えと、ま、迷っちゃって。道を聞こうとして...」
「へぇ...まぁいいわ。...そうだ!賭けしない?」
「へ?...何の?」
「そうねぇ...私が勝ったらウチで働いてくれない?最近人手不足なのよ。貴方が勝ったら何でもしてあげるわ。拒否権は無しね」
「ん?今なんでもって」
「勝負はタイマンね」
彼女がそう言った瞬間ーー腹に衝撃が走る。
拳が腹にめり込む感覚。そして浮遊感。
吹き飛ばされながらも咄嗟に受け身を取る。
ドゴォォォォォォォォン!
背中に衝撃。壁に叩きつけられたようだ。
不思議と痛みは無い。だが確実に恐怖が心を蝕んでゆく。
マズイ、マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ。
でもーーーーーーー逃げない。
震える膝を叱咤し、立ち上がる。はたしてそれは男の意地か、それともロリコンの矜持か。
そして眼前に美幼女ーー否、幼女の姿をした化け物を見据える。
取るポーズは染谷流総合格闘術の構えだ。
まさか活用する日が来るとは思わなかったぜ。教えて貰ってて良かった。
「あら、頑丈ね。遊びがいがあるわ。それにしても...変な構えね。我流?」
「いんや。親友に教えて貰ったのさ」
「へぇ...次は止められると良いわ...ねっ!」
そう言いつつ接近して拳を繰り出してくる。落ち着け、対処出来ない早さではない。
さっきは見蕩れていただけだ。
「ふっ!」
相手の連撃を躱すなり受け流すなりしながらカウンターを放つ。
これでも免許皆伝は貰っていたのだ。この程度造作も無い。
相手に集中しながらも勝ったら何を言おうか考える和也であった。
ーー数十分後ーー
「はぁ...はぁ...」
息を切らしながらも立っているのは一人ーー和也だった。
地に倒れ伏しているのは幼女。勿論掛けは和也の勝ちである。
勝敗を決した差、それは二人の戦闘スタイルの違いだろう。
和也が最低限で躱すか受け流したのに対し、幼女の方は力とスピードでゴリ押しである。
先に幼女の体力が無くなるのは必然だろう。
「はぁ...ところでさ、名前なんてーの?」
「...四代目魔王、セクラト・E・サタナスよ」
「へぇ~...ん?魔王?」
「なによ、何か問題あるの?これでも700年は魔王してるわ」
「なっ、ななひゃっ!?ってか魔王って何!?」
「知らないで来たの?まぁいいわ、話してあげる」
要約すると、魔族と言う種族がいて、その高い身体能力と魔力を恐れた人族によって迫害を受けたらしい。
それにブチ切れた魔族が人族と戦争を始めた。そして魔族の中でも特に秀でた者を魔王としている。
「...と言う事よ」
「へぇ~、大変なんだな。見た目は変わんないのにな~」
「でしょう?嫌になるわ、本当に。それで?どうするの?」
「ん?...あぁ、賭けか」
「早くしてくれない?最近また新しい勇者が出張ってきたらしくてね、準備しないといけないの」
「ん~...よし、決めた!一緒に旅しよう!」
「...は?」
「え?駄目?」
「別にいいけど...本当にそれでいいの?」
「いいんだよ!傍にずっと幼女とか俺得じゃん!」
「変な奴ね...」
「よし!早速行くぞ!」
「えっ!?ちょっ、待ちなさいよ!」
駆け出す和也について行くセクラト。
この異世界に来たばかりの和也と戦闘しか出来ない世間知らずの魔王様。
これは、そんな二人の旅の物語ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
補足 染谷流総合格闘術...剣や飛び道具、組手などの様々な技術が詰まっている格闘術。どんな相手でも基本的に対処可能。