「悪くない」
dungeonは地下界、ダンジョンはUtopiaにあるものと、英語とカタカタで分けてますので、混乱しながら読んで下さい。すいません。
「…はぁぁ」と深いため息をついたのは、未だアリスと共に飛行するノクスだ。
服を掴まれて飛行しているので、荷物の様に運ばれている感覚が強い。
宙ぶらりん状態である。
もう何度目のため息になるのか定かではないが、おそらく十回は超えている。
どうしてこうなった?
その疑問が湧いては消える繰り返しだ。
聖騎士になる為にリリィと闘って、リリィの龍の息吹を受けた。
そこから意識が朦朧としていた記憶だけがあり、おそらく今自分を荷物の様に持って飛行している魔族に助けられたのだろう。
そうして意識が戻った時に、知らないスキルと魔法を使い、リリィを撃ち落としたのだ。
「…はぁぁ」
「…ため息ばかり付くと幸せが逃げていくらしいわよ」
ノクスため息の多さに見兼ねたのか、或いは煩わしく思ったのかアリスは事が落ち着いてから、初めてノクスに話しかけた。
「幸せかぁ…俺にとっての幸せってなんだろうなぁ?」
「…魔王になることとか?」
「それだけはないな」
即答するノクスに頬を膨らませてアリスは尋ねる。
「むぅ、どうしてそんなになりたくないの?」
「まず、なるならないじゃなくて、なっちゃいけないだろ。
魔王って事はつまり地下界dungeonの王って事だろ?
Utopiaの驚異になる相手に進んでなるはず無いだろ」
「じゃあ、別に魔王になりたくないわけじゃなくて、Utopiaの敵になりたく無いって事?」
「ん?そうなるのか?まぁ、どっちにしろUtopiaの敵にはなりたく無いから魔王にはなれないな。
なれるとも思えないし、聖騎士になる約束もある。魔王になりたいと思える事が無いな」
「…わ、私を、好きに…で、できるとしても?」
そんなに顔を赤くしてまで無理して言わなければ良いのに、と思いながらノクスは強めの口調で応える。
「どこかで一度聴いた覚えがある台詞だなぁ…。
そういう事はあまり言わない方が良いと言ったと思うんだけど?」
「と言うか貴方!私にあんな事をして責任を取らないつもりなの!?」
「はぁ!?俺、何かしたの!?全然記憶に無いんだけど…」
「えぇ!?わ、私が…あんなに恥ずかしい思いをしたのに!?
こ、公衆の面前で…な、何度もっ…ふぇ…ぐずっ…」
自分で言っていて羞恥を思い出したのか、アリスの目から涙が溢れてきた。
「えぇ…な、何をしたのかわから無いんだが、わ、悪かったな…」
記憶が曖昧なのだ。
いろんな事がありすぎて考えること自体を放棄したい。
「ところで、どこに向かって飛んでるんだ?」
「Utopiaで言う所の第二帝都、サラマンドラよ。
dungeonでの私の管理区なのよ」
第二帝都サラマンドラは別名、炎帝都市と言われるドワーフが多く住む都市だ。
都市の周辺にある鉱山から、あらゆる鉱石採掘して、ドワーフ独自の加工技術により栄える都市だ。
「dungeonでの管理区?
dungeonの上位魔族にはUtopiaの都市に偵察?みたいな役割があるのか?」
「偵察っていうか現魔王の娘、私を含めて六人居るんだけど…、丁度六大帝都の数と同じだから、帝都にあるダンジョンをそれぞれが管理しているのよ」
そして、私の担当が第二帝都、炎帝都市サラマンドラなのよ。とアリスは続ける。
「第二帝都は行ったことがないな。
というか、どうして俺は君に連れて行かれてるんだ?」
救われた覚えはある。
しかし、良く覚えていない。
考えてみれば、どうして自分はこの魔族に捕まって?いるのだろう。
「え、それは…魔王になるように説得しようかと思って…」
「いや、だから魔王にはならないって!
だいたい俺は魔王になれる程強くないんだ」
「強くないって…ドラゴンを撃ち落として言える台詞なの?」
「いや、あれだってどうやったのか、わかんないしなぁ…」
本当にどうやって使ったのだろう?
あれは魔法?それともスキルだったのか?
使った事のないものだから、全くわからない。
「それに、魔王の素質は絶対にあるわ!
あなたの魔力は、良い意味で異常なのよ」
「異常ねぇ…。
確かに異常なのは知ってるけど、昔からモンスターを倒すどころか、強化しちゃうからなぁ…。
聖騎士になる為に必要なのは光属性の魔法なのに、闇属性の魔法しか覚える素質ないらしいしなぁ…」
「そ、そんなに遠い目をしないでよ!
す、凄いじゃない!モンスターを強化出来るなんて、上位魔族どころか、最上位魔族にも滅多にいない能力じゃない!」
「へぇー、聖騎士になりたい俺には宝の持ち腐れだなー」
「そ、それに…わ、私は、あなたの魔力を浴びちゃったから…、もう、あなたが居ないと、生きていけない体にされたんだから…責任、取ってよね」
「…その、俺の魔力を浴びた?って何?
どんな不都合があるんだ?」
「えぇ!?そ、そんな事言わせるの!?」
「言いにくい事なら、無理にとは言わないんだが、俺はその辺の事を良く知らないからさ。
教えてもらわないと、対策とかも立てられないだろ?」
「う、うぅ…、そ、その、あなたの魔力は異常って話はわかってるのよね?
魔族が特殊な魔力に触れると、そ、その、定期的にその特殊な魔力に触れないと…そ、その…オカシクなっちゃう…から…」
「その、オカシクなるっていうのは、具体的にどこまでのレベルなんだ?
自我が保てなくなるレベルなのか?」
「あ、当たり前じゃない!
死んだ方が楽になれる、ハズよ!
わ、私は今回が初めての経験だから、その、良くわからないけど…」
あれだけの快楽を知って、その禁断症状となると想像絶するのはわかりきっている。
「そうか…、その、治せないのか?」
「わからないわ…。
前例はないけど、より強い特異魔力に触れれば、書き換えは出来るかも、だけど…」
アリスにとっての書き換えは選択肢にはない。
ノクス以外の存在から受ける魔力は受けたくないと、強い気持ちがあるからだ。
もしもそんな時が来たならば、迷わず死を選べる。
アリスはそう確信していた。
「で、でも、書き換えるくらいなら、私は死を選ぶわ」
「…簡単に…、いや、簡単じゃないのか…、でも、死ぬなんて言って欲しくないな」
「だ、だから責任を取りなさい!
ノクスは魔王になって、私を、そ、そのパートナーにしなさい!」
「…わかった。魔王にはならないけど、君の症状が治るまでは聖騎士になる事は置いておく事にする」
「…今は、それで良いわ」
正直な話、アリスにとってノクスが魔王になるという話より、自分と一緒にいるという方が今は重要になっていた。
少なくともしばらくはノクスが自分と一緒に居てくれる。
アリスはその事が嬉しかった。
「ところで、君の名前は?」
「え?アリスって名乗ったでしょ?
私の顔を忘れたっていうの!?」
「いや、顔見えないし、アリスはスカートだから…俺が上を向いたら…」
「っ!?絶対に上向かないでね!?」
こうして、ノクスはなし崩し的にアリスと行動を共にする事となった。
通常、帝都に入るにはそれぞれの帝都での許可が必要とするのだが、アリスの高度の飛行により城壁や見張りを無視してサラマンドラに入ることができた。
地上に降りてからアリスの顔を見たがノクスには、心当たりがない。
帝都であったアリスとは似てる気はするが、全く印象が違う。
帝都で会ったアリスはそもそも金髪だったし、表情も固く、クールな印象だったが、魔族のアリスは白髪で表情も豊かだ。
同一人物とは思えないのだが、後で聞いてみる事にしよう。
現在は人気のない山中を徒歩で移動していた。
「もう少ししたらダンジョンがあるから…」
とアリスはノクスを誘導する。
「今更なんだけど…俺にダンジョンの場所とか教えて良いのか?
勢力的にはUtopia側の人間なんだけど?」
「言い忘れていたけど、ノクスには私の魅了がかかっているから、他の人には言えないと思うけど?」
「はい!?聞いてないぞ!?」
「だから、言ってないってば、まぁ、私もノクスの魔力と一緒に魅了の反動が来てるみたいだから…何だかお揃いみたいね!」
「お揃いみたいね!じゃないだろ!?
どんな効果があるんだ?」
「私も初めて使ったからわからないんだけど…、普通は魅了にかかった相手は、かけた相手を好意的に感じる位なんだけど…あと、絶対服従とか?」
「絶対服従!?」
「だ、大丈夫よ!ノクスは私の言葉に従おうとはしないでしょ?
魔王にもなりたくないって言ってるし…」
「た、確かにそうだけど…、本当に大丈夫なのか?
いや、でもそれだと結局は俺にダンジョンの場所を教えても良い理由はなくならないか?」
「え?だってノクスは誰かに言いたいの?」
先を行くアリスは振り返りノクスを見つめる。
純粋という表現が適切なのだろうか?
その目は綺麗だった。
なるほど、これが魅了なのかもしれない。
不思議と彼女の言う事は間違っていないと感じる。
きっと俺は誰にもダンジョンの事は言わないんだろう。
もしかしたら、俺は魔王にもなれるのかもしれない。
そう思った。
彼女の、アリスの顔を見てそう思ってしまった。
彼女の、アリスの声を聞いてそう思えた。
自然と笑いがこみ上げてくる。
ははっ、悪くない。
そう、気分は悪くなかった。
例えこれが魅了の影響だとしても、
きっとこの「悪くない」気持ちだけは俺の気持ちだろう。
「…急に笑い出すなんて、変な人ね」
「ははっ、悪い。なんだか気分が良くて、笑うのを我慢できなかったんだ。
アリス、俺は君の事を好きになれそうだよ」
「き、急に何を言い出すのよ!?」
そんなやりとりを終えて、しばらく歩くと洞窟らしき祠が見えてきた。
「着いたわ、ここよ」
「ダンジョンか、初めて入るな」
「そういえば、どうしてUtopiaの人間はダンジョンを制圧しようとしてるのかしらね」
「え、いやそれは、モンスターが湧いて襲われる人がいるからだろ?」
「確かにダンジョンは自然とモンスターが湧くけど、魔族に管理されてるモンスターは人を襲ったりしないはずだけど?
むしろダンジョンを制圧した後、放置したダンジョンから湧いたモンスターの被害なんじゃないかしら?」
住みかを追われて恨みはあるけど、恨まれるいわれは無いはずなんだけどなぁ、とアリスは続ける。
「え?」
それが本当ならば、Utopia側のダンジョン制圧は逆効果になってしまう。
本来ならば魔族がモンスターを管理している所を制圧、魔族を追い払い、そこから管理されてないモンスターが湧いて被害が出るって事になる。
「いや、でも、魔族はUtopiaを攻め込む為にダンジョンを作っているんじゃ無いのか?」
「Utopiaを攻め込む?私達が?どうしてそんな事をしないといけないの?」
「じゃ、じゃあ、何の為にダンジョンを作ってるんだ?」
「それは、Utopiaに行き来しやすいようによ。
dungeonにないものは当然Utopiaから仕入れるからね。
結構魔族ってUtopiaに紛れて暮らしてる奴も多いと思うわよ」
何だそれは、勘違いとかの話じゃ済まされないだろう。
勝手にUtopiaが魔族を敵として攻め込んでいるって事じゃないのか!?
だとすれば、Utopiaに完全に非があるとしかノクスは思えない。
ノクスはもともと魔族やモンスターを嫌いなわけではなかった。
むしろ協力し合えるのであれば、協力してモンスターを管理できないかと考えていた。
生態系のわからないモンスターの情報や、互いに利益が出る条件だって有るはずだと思っていたのだ。
しかし、こんなに長いないだすれ違い、争う事があり得るのか?
魔王の考えはアリスと違う可能性?
アリスが嘘をついているとは考えられないが、それも魅了の力により、そう思うようになる可能性はあり得るのかもしれない。
「ま、とりあえず入りましょう。
私が一緒だからモンスターに襲われる事もないと思うわ」
考えがまとまらないノクスだったが、今はコレだと断定できる要素がない。
これはいい機会なのかもしれない。
アリスを通じてdungeonのことを良く知ってから、自分なりの決断をしようと、ノクスはダンジョンに足を踏み入れた。
「このダンジョンは5階層になってるけど、3階層にしかモンスターはいないのよ」
「結構暗いな…。
ただ、思ったより居心地はいい気がするよ」
「それだけの闇の魔力を持ってればね。
Utopiaよりdungeonの方が住みやすいでしょ」
「そうなのか?dungeonに住むなんて発想がなかったからな」
しばらく降りて3階層から至る所にスライムが生息しているようだった。
「3階層には上位魔族のドロップっていう、スライムの管理を任せている魔族がいるから紹介するわね」
「上位魔族って、このダンジョンの難易度はかなり高めなんだな」
「それは、サラマンドラにはこのダンジョンしかdungeonとの繋がりはないからね。
最後の砦なのよ、ここは…」
「おいおい、他のダンジョンはどうしたんだ?」
「油断したら全部、制圧されちゃって…。
私、ダンジョンの管理は向いてないみたいなのよ」
「いや、だからってココだけって、かなりヤバくないか?」
「それも私が魔王候補を探してた理由の一つなのよ。
だから、ノクスにはここのボスをお願いしたかったんだけど…」
「うん、悪いけど、それは遠慮しておく」
「まぁ、しばらく私と一緒にいてくれるなら、今はいいわ」
「アリス様は絶対、経営とかは向かないタイプですからねー」
突然の頭上からの声と共に、周りに液体が散らばり、やがて一か所に集まり人の形を形成していく。
「どうも、こんにちはー。
魔王候補さん、スライムのドロップですー」
澄んだ青い髪と目の色をした少女へと、形を変えて液体がそう告げる。
「彼女が上位魔族のドロップよ。
元はモンスターのスライムだったんだけど、魔力が高まって自我が芽生えたらしいわ」
「へぇ、モンスターから魔族になることがあるのか」
「結構稀なことですよー。
だから私はかなりレアな女の子ですー」
「失礼だけど、スライムに性別はあるのか?」
「液状になれるので、大抵の姿にはなれるんですけど、理性で男性にはなりたくないので、多分女の子ですよ、私ー」
「やっぱり曖昧なんだな」
ドロップと別れて4階層まで降りてきた所で、アリスから階層の説明を受ける。
「4階層はボスがいる5階層に行かせないために、最大戦力をおいているわ。
上位魔族でミノタウルスのミノさんとワーウルフのウルフェンが控えているわ」
「お、これはアリス嬢、お帰りなさい」
「アリスさんが留守の間は特に何もなかったぜ」
ミノタウルスはノクスの3倍は大きいだろうか、ドラゴン程ではないにしろ、この巨体で戦うとなると確かに猛威を奮いそうだ。
ワーウルフはノクスの背より少し高いくらいなので、平均的な人間の背と変わらないのだが、見るからに俊敏な様で、足にはかなり筋肉がついている。
鋭利な爪と牙は、触れただけで切れそうだ。
「おお、流石は魔王候補さんじゃねーか!
大した魔力だぜ!」
「うむ、よろしく頼むぜー、兄弟!」
「あ、ああ、よろしく」
かなり馴れ馴れしいな、ここの魔族は…。
アリスがいるからだろうか?
そして、5階層目に降りて、ノクスは息を飲んだ。
先ほどの階層とは明らかに空気が違う。
玉座の様なオブジェに座る、禍々しい魔力がこの空間を満たしていた。
「彼女がここのボスをお願いしいるクロよ」
「にゃーん」
「…」
どう見ても黒猫だった。
展開早いと感じた方、すいません。
書きながら省いている部分も多い気がしているのですが、表現が下手なので申し訳…。
アリスの描写クドイと感じた方、すいません。
アリスに強い印象を持って頂きたかったのですが、表現が下手なので申し訳…。