ハーフタイム
就職するとすぐ実家を出された。どうせ同じ町に住むのだから家賃代が無駄になるだけだろうに。
俺が就職したのは全国でチェーン展開しているレストランだ。
楽しい職場だなどと「寝言は寝て言え」くらい言いたくなるような言葉を並べて学生を釣り、いざ入社すれば地獄の職場に入れられる。今までの経験から予想はできたが、どこもかしこも似た謳い文句だったので、どこか1社に騙されるしかなかった。
しかし、まさか夜間は1人で店を動かさなければならないとは思っていなかった。いわゆる『ワンオペ』だ。社員がいないのなら24時間営業をやめれば良いのに。
ある休日。ワンオペの翌日には、よく懐中時計を使って休みを延長した。この日もそうだった。
低賃金で働いていた俺だが、食べ物に困ることはなかった。店頭から少し頂いても俺は疑われなかったからだ。
そうして生活していたある日、珍しく寝坊してしまった。久しぶりに走ってバス停まで向かった。ギリギリで間に合いそうだった。
ふと左手でズボンのポケットを確認した。定期入れとスマートフォンはあった。次に右手を右のポケットへ突っ込んだ。何もなかった。
懐中時計を家に忘れた。しかし取りに戻る暇はないと判断した。冷静に考えれば、家まで戻って時間を止め、ゆっくり徒歩でバスまで追いつく方法もあったのだが、そのときはそこまで考えていなかった。
何とかバスに間に合ったが、呼吸が整うまでにしばらくかかった。心臓が止まるかと思った。
懐中時計がないだけで、その日はずっと気落ちしていた。するとやはりミスを連発した。
「お前は一体どうしたんだ! そんなようじゃ出るボーナスも出んぞ!」
店長は事あるごとにボーナスカットや減給をちらつかせ、従業員を脅していた。おかげで学生の間でも「あの店でアルバイトはするな」という噂が立ち、結果として従業員のワンオペが増えた。
典型的なブラック企業でありながら、再就職が難しいこともあって我慢するしかなかった。この店長は勘も鋭く、俺が誰もいないときに店長のエプロンをカレーで汚してしまったとき、俺の月給から1万円引かれていたことがある。
家に帰り、数年ぶりに泣いた。たとえ逆恨みだとしても店長を許すことはできなかった。しかし俺ももう社会人だし、今までの失敗を繰り返すこともしたくなかった。
だから俺は店長に直接ストレスを発散するのではなく、趣味を見つけることにした。
何か面白いものはないかと考えていたとき、ある飲食店のテレビで大相撲中継をしているのを見た。
興味が出たので調べてみた。古代日本の神道の行事を起源とし、江戸時代初めに興行として組織化された。現在の日本相撲協会が開催する本場所は1年に6回。残念ながら俺が住んでいた町では開催されていなかった。
俺には趣味と楽しみができた。いずれ大相撲の本場所を見に行こうと思うと、店長への怒りも忘れていった。




