表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムアップ  作者: 川里隼生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

第4フレーム

「痛え!」

部室で懐中時計のボタンを押した瞬間、ドアの向こうから顧問の悲鳴が聞こえた。この時点では、顧問に最も近かったサオリが疑われることに思い至らなかった。


着替えを済ませ、部室を出ると体操服姿のサオリがコートで泣いていた。それでようやく自らの行いが悪かったと気づいた。だが、サオリに謝罪することはできなかった。

下校は女子バスケ部と同じ時刻だった。12月から3月までは女子が30分早く下校できた。その度に男として産まれたことが損だと感じた。


サオリが泣いていた日、サオリ以外の女子バスケ部と男子バスケ部でバス停まで歩いた。そのときに女子バスケ部の先輩たちが言った。

「あの子、大会で活躍したからって調子乗ってたもんね。これで懲りたんじゃない?」

「でも感謝しないとだよ。あのカスにボールぶつけてくれたんだから」

「ところで誰かボールぶつけた瞬間見た人いる?」

俺はその集団の最後尾にいた。特に話し相手もおらず、罪悪感に押し潰されそうだった。後ろから自転車に乗った老人が来たが、歩道を封鎖しているこの集団を追い抜けずにフラフラとよろめき、最終的には倒れてしまった。

ガシャン、と大きな音が暗い歩道に響いた。集団の足は止まり、背後で腰を押さえている老人を一瞥した。危険が迫る音ではないと確認すると、また集団は歩き始めた。俺もその後に続いた。


翌日、サオリは体育館にいなかった。次にサオリを見たのは2年生の夏休み。中学校に近いアーケードで偶然すれ違った。お互いの目が合ったとき、思い空気が2人を支配した。そのときはもう、彼女が転校したことを聞いていた。


辛い練習と顧問の圧政に耐えられず、2年の2学期からはバスケ部を辞めた。

顧問は理科の担任でもあり、部活を辞めても毎日のように顔を合わせていた。もしかしたらバレているのではないか、その思いが卒業するまで脳に貼り付いた。


その教師とは、1回だけ休日に出会った。バスの定期券を更新しようと訪れたバス会社の営業所にいた。俺の顔を見るなりこっちに近づいてきた。やはり背が高いと目立ってしまう。この頃は既に大人と変わらないほどに成長していた。

「お前、先週の期末テストでカンニングしただろ」

「いいえ。なぜですか?」

実は先週の期末テストで、確かにカンニングはした。ただし、時間を止めて廊下に行き、どうしてもわからない部分を廊下で確認して、また時間を動かしただけだ。教科書を教室に持ち込んだわけではない。そういうことは2年生になってからよくやっていた。正解率を50%程度に抑えているので発覚することはないと思っていたが、どうもこの教師は悪い勘だけ当たるらしい。

そのときは何とか切り抜けたが、卒業するまで俺への疑惑はかかり続けた。


俺は県内でベスト5に入る進学校を進路に決めた。入試も懐中時計があれば簡単だった。徐々にカンニングの罪悪感も消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ