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タイムアップ  作者: 川里隼生


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3/11

第1コーナー

中学生になり、背の高さを買われてバスケ部に入った。いや、正確には背の高さ『だけ』で入部を決めたわけではない。

「練習おつかれ!」

同じクラスのサオリ。彼女が女子バスケ部に入ると聞いて、俺もバスケ部に入った。


サオリとは中学校で初めて出会った。入学式でスピーチを聞いただけで、「あ、かわいいな」程度しか思っていなかったが、何となく近くにいたかった。実際、俺ともよく話してくれた。と言うか男子バスケ部全員とよく話していた。


さて、中学生になるといろいろ大人の妄想をする時期に入る。具体的には言わないが、あの女優の貞操がどうとか、女子生徒の着替えがどうとか……。特に男子は教室でも堂々とエロ談義をしていた。ある日の昼休み、その話に花を咲かせていたタクミが言った。

「俺が時間を止められればなあ。(ピー)とか(自主規制)ができるのに」

俺はそのグループから少し離れた机に座っていたが、いかんせんタクミたちの声が大きいので話の内容がよく聞こえた。


そして気がついた。いや、むしろ中学生にもなって気がつかなかった今までがどうかしていたのかもしれない。

早速ボタンを押した。遅い台風の接近によってガタガタと鳴っていた窓が急に黙った。教室も担任が怒鳴った直後かと思えるほど静まり返る。

時計の針が止まっているのを確認して、いよいよ実験を開始した。いきなり(カタカナ4文字)はやめておこうと思って、目の前に座っていた女子生徒の右脚をつついてみた。ここで一旦机に戻り、またボタンを押した。今はその生徒の名前も覚えていない。


女子生徒は一瞬硬直し、机の下を見た。そして後ろの俺を怪訝な顔で見つめた。

「なに?」

俺の質問に、その生徒は「なんでもない」と答えた。真後ろの俺が椅子に座ったままでは触れない位置を触られたからだろう。

もちろん平静を装っていたつもりだが、内心は恐ろしくてたまらなかった。

大丈夫、偽装工作は完璧だ、と自分に言い聞かせて、その日の授業は終わった。


体育館に入ると、いつも通りの風景が広がっていた。荒ぶるコーチ、顧問の咆哮、恐怖に怯える部員、やり場のない怒りを後輩にぶつけるしかない先輩……。俺も部室で体操服に着替えた。鞄はよく跳び箱に置いていた。


3年生が引退した直後に顧問が言った。

「あの連中は負け癖が付いていた。これからは勝ち癖を付けるべく、日々の練習から徹底的に変える。覚悟しておけ」

その時から練習は地獄になった。もはやバスケが楽しい者など、この体育館にはいなかった。部員は1人、また1人と消えていった。

ふと、俺に良からぬ考えが浮かんだ。あの女子生徒は時間を動かすまでは反応しなかった。ならば……。


練習が終わった午後7時。制服の左ポケットに入れた懐中時計のボタンを押した。跳ねるバレーボールが空中で静止した。

足元のバスケットボールをサオリに向かって蹴飛ばし、意気揚々と職員室に引き上げようといていた顧問の足取りも止まっていた。顧問と関係するのかは知らないが、サオリの腕には到底普通の練習では付かないであろう切り傷が無数にあった。

バスケ部全体に対する理不尽な態度も加え、俺は顧問の後頭部を強く殴った。

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