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タイムアップ  作者: 川里隼生


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10/11

アディショナルタイム

「辞めてくれますよね?」

女性店員は俺に念を押した。これで断りでもしたら、セクハラで訴えるとでも言われそうだ。俺はまだ22歳。人生を棒に振るには早すぎる。

懐中時計のボタンは押していないのに、時が止まったように思えた。


結局、断ることはできなかった。俺がゆっくり頷くと、彼女の顔に笑みが浮かび、ようやく右手を解放してくれた。

店長からはなぜ辞めるのかとしつこく言われた。後輩の女性店員に脅されたとは言えなかった。

仕事がなくなると、家にいることが長くなった。幸か不幸か俺には懐中時計があった。物に困ることはなかった。


今年の初場所は横綱が優勝した。このモンゴル人力士が勝つのはよく見ているので、他の力士にもっと頑張りを見せてもらいたい。

俺が住む浜松市から最も近い所で行われるのは、7月の名古屋場所だ。しかし、どうせやる事がないなら3月の春場所を見に大阪まで行くのも悪くないだろう。小学生の頃に確かめたように、時間を早めることはできない。俺は3月を待った。


3月30日。春場所千秋楽。春場所で優勝した例のモンゴル人力士と日本人の横綱力士が13勝1敗で並んでいた。若乃花以来の日本人横綱ということで、国内の注目も高かった。俺は前日には東海道新幹線で新大阪駅に着いていた。

大阪府立体育会館には満員御礼の旗が掲げられていた。俺は行事と向かい合う席に陣取った。残念ながら最前列は年季の入っていそうな好角家の老人が座っていた。


幕下の力士から取り組みが行われ、いよいよ横綱の土俵入り。モンゴル人力士は雲竜型、日本人力士は不知火型という方法で土俵に上がった。

行事の甲高い声で、両者が一斉に踏み込んだ。衝撃が俺にも伝わるかのようだった。つい、「おおっ」と声が漏れた。一種の膠着、そこからモンゴル人力士が徐々に押していく。とうとう土俵際。もはやここまでかと思われた。

日本人力士は、モンゴル人力士のまわしをしっかりと掴んだ。そして足を徳俵に付け、相手ごと左に倒れこんだ。


「ただいまの決まり手は、うっちゃり」

若乃花以来、久々の日本人横綱の優勝に立ち会えた。俺は意気揚々と東京行き『ひかり』に乗り込んだ。車内の電光掲示板ではセレッソ大阪が所属するサッカーリーグの試合速報が流れていた。今年からJリーグとJRが協力して実施しているそうだ。その後はプロ野球の結果が流れ、政治のニュースに移った。阪神は負けたらしかった。大相撲の話題は出なかった。やはり相撲は国技とはいえ、マイナースポーツということなのだろうか。


新幹線は名古屋駅に停まった。発車までしばらく待った。

次回いよいよ最終回です。

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