友達の方程式1 ―俺という存在―
―俺という存在―
俺と矢吹はすっかり仲良しになった。
こんなに心から仲良くなれたのって生まれて初めてかもしれない。
俺ってさ、今まで結構仲良くしてた奴とかに、よくこう言われてた。
「お前ってさ、なんつうか…何も考えてないみたい。つーか、軽い」
とか、
「なんか、悩み事とかお前に相談するの悩むんだよな。お前はいつも悩みがないみたいだし、相談しても何言ってんのかわかんなさそう」
とか、
「冷めてるよなぁ〜春木って。なんか、よくわかんねぇ」
とか…よく言われてた。
でも、そんなこと言われたってどうしたらいいのかわからない。
俺が悩みないだなんて、どうしてお前らにわかるんだよ。
軽いって何?
冷めてるって何?
さっぱりわかんねぇよ。
一体俺にどうして欲しい訳?
だから俺は…なんとなく、友達ってもんがよくわからない。
みんな俺をイメージだけで見て、色々言ってくる。
俺が傷付かないとでも思ってるのかな?
でも、矢吹は違った。
俺に矢吹は言った。
「俺達って物事深く考えすぎなのかも。損してるよなぁ〜俺達」
いつもお前、とは言わない。矢吹はいつも俺達、なんだ。
だからホッとする。
俺だけじゃないんだって。
やっぱり人間って型にはまりたがる生き物なんだなぁと思った。
型っていうか、枠…?かな。
一人ってつらいよ。
省かれたらキツイよ。
お前は違うよな、人とは違うよな、って俺は今まで言われてきた気がして…凄い嫌だった。
寂しかった。
何でわかってくれないんだろう?って本気で思ってた。
だから…
自分でも驚くくらい、矢吹との出会いは俺にとってはでかいものだったんだ。
俺は今、珍しく授業を受けている。
いや、そう毎日、毎時間サボってるわけではないけど。
今日は矢吹が学校を休んだ。
…矢吹がいないって、こんなにつまんなかったっけ?
「なぁ」
すると急に後ろの席の奴が身体を前に寄せて俺に話し掛けてきた。
振り返ると顔が近い。
何だ、こいつ。
「何?」
「最近さ、三年のあの学校黒スプレーで真っ黒にした奴。あいつとつるんでるよな?」
…みんなあの事件のこと知ってんだ。
実は矢吹ってこの学校の有名人?
「…何で?」
「いや、最近よく一緒にいるとこ見掛けるからさぁ〜」
「うん、つるんでるよ」
俺はそう答えて前を向いた。
こいつ何が言いたいんだ。
「あいつとあんまりつるまない方がいいと思うけどねぇ〜俺」
「あ?」
俺は思わず振り向く。
そいつは黙々と黒板に書かれたのを書き写しながら、さりげない調子で言う。
「あいつは危険だよ」
「は?」
「だってさ、あいつの親、二人とも自殺してんだぜ?なんか危険じゃねぇ?」
「…え?」
「何、知らねぇの?本当にお前って周りのこと興味ねぇよなぁ〜。あいつの親、二人とも自殺して何年か前に死んでんの。だから今あいつ女の家渡り歩いてるって噂だぜ?」
そんなの…初めて聞いた。
矢吹からそんなこと一度も聞いたことがなかった。
「あいつもいつキレるかわかんねぇじゃん?なんかいかにもって感じするし、学校の壁黒くしたりもしてるし、なんか頭おかしいよなぁ〜。俺はあんまりそいつと関わんねぇ方がいいと思うけど…」
それからもブツブツと何かを言っていたが、さっぱり頭に入らなかった。
でも、俺の中の何かが音を立ててキレた。
ガタガタンッ!!
気付けば俺はそいつの胸倉を掴み、持ち上げていた。
「なっ…何すんだよ…!」
そいつは苦しそうに声を振り絞って言った。
「春木!何やってんだ!やめろ!」
教師の声。
…どうでもいい。
「てめぇ、矢吹の何知ってるっつーんだよ、あ?親がどうとかどうでもいい。てめぇらよりよっぽどまともだよ、矢吹は。本当のことかどうかもわかんねぇくせに、デタラメ言ってんじゃねぇよ」
「春木!」
教師が俺を押さえ付ける。
俺は胸倉を掴んでいた手を離して、教師を振りほどいた。
そして教室から出た。
俺は今どうしてキレたんだ?
友を馬鹿にされたから?
それとも…知っているようで俺は矢吹のことを何も知らないから?
…どうでもいい。
とにかくむしゃくしゃする…。
気付いたら俺は図書室の前に立っていた。
俺と矢吹の部屋。
二人だけの秘密の場所。
いつの間にか、二人部屋になっていた俺の部屋。
それまではずっとここは俺一人の部屋だった。
なにもかも嫌になったとき、馬鹿みたいなこと言う奴にむしゃくしゃしたとき、俺はいつもここに来ていた。
ここは俺の安らぎの場所であり、俺が一人になりたいときに来る俺の部屋だった。
でも、いつからかここは一人になりたいときに来る部屋じゃなくて、話を聞いて欲しいとき、同じ考えを持つ人間に共感して欲しいときに来るようになっていた。
矢吹…俺はお前の何なんだろう?