VSゴリ山最終決戦の巻3 ―天罰―
―天罰―
次の日の放課後、矢吹がゴリ山を呼び出した。
そこはあまり人が寄り付かない場所、資料室。
「久しぶりだな、あんな事件を起こしたお前が俺に何の用だ?」
汚い笑みを浮かべたゴリ山。
俺は資料室の扉の外にいて、扉をほんの少し開けて、成り行きを見守る。
矢吹はいわゆる囮って奴。
「先生…。俺、前の続きがしたいんです。前は逃げてしまってすいませんでした。」
迫真の演技とは程遠い、棒読みの言葉。
でも、ゴリ山にはこれで十分みたいだ。
「…いいだろう。前のことは許してやる」
そう言ってジリジリと矢吹に歩み寄る…。
矢吹は話題をふる。
「先生は、俺以外にもこういうことすんの?」
そしたらゴリ山は嬉しそうに笑った。
きっと、矢吹が自分にヤキモチでもやいてるんじゃないか、なんて勘違いしてるんだと思われる。
「まぁね、可愛い男の子にならたまーにするわよ。でも、あなたほど綺麗な人はいないわね」
「今までこの学校の奴何人くらいとやったの?」
「…そうね…一人、二人…う〜ん、六・七人くらいかしら…」
こらこら、喋り方がカマ口調になってるぞ、ゴリ山。
「そんなことはどうでもいいじゃない。そう焦らさないで」
そう言って矢吹の体に触れる…。
ヤバイな。
でも、まだ決定的なことがこのままじゃわからない。
「待って先生。あと一つ聞かせて。先生は、どんな奴がタイプ?俺、先生のタイプの男になるよ」
さっすが、矢吹。やるな。
すると、ゴリ山の手はピタリと止まった。
「そうねぇ〜…物静かで、素直な可愛い子がいいわね。あ、でも少し抵抗してくれた方が萌えるわ。沢山鳴いて、おねだりして欲しいわね。…でも、あなたはこのままで良いわ」
おえっ…きもちわりぃ…。よく堪えられるな、矢吹の奴。
「さぁ、もう焦らさないで」
さて、この辺でもういいでしょうか。
という目で矢吹が扉の隙間から見ている俺に訴えてきた。
もうちょい見たい気もするけど、さすがに矢吹が可哀相なのでここでストップしましょう。
ガラッ
勢いよく扉を開けた。
矢吹に触りまくりのゴリ山。
矢吹に口付けをしようとしているゴリ山。
焦るゴリ山。
俺はまるで強盗が顔を隠すのにするような、両目と口のところだけ開いた袋を頭に被っていた。
そしてカメラを構える。
パシャッ
明るいフラッシュ。
矢吹とゴリ山が眩しそうな顔をした。
「ごっつぉさんでーす!!」
そう言って次の瞬間走った。
続いて矢吹も見られたのをわざと恥ずかしがるように、ゴリ山を突き飛ばして、俺とは反対方向に逃げた。
笑いが込み上げてくる。
ゴリ山のあのアホ面見た?ば〜か、いい気味だ。
次の日の昼休みの放送でゴリ山の人生は終わる。
『は〜い、今日もお昼の放送の時間がやってきました。今日のリクエストは一杯きてますねぇ〜何から行きましょうか。じゃあ、これ!ポン太さんからのリクエストテープから行きましょう。【これは私の初めて付き合った時の思い出の曲です。未だに大好きなこの曲、是非お願いします】では、どうぞ』
そしてポン太さんのリクエストの曲が流れる。
「早く流れねぇかな」
俺達は屋上に向かう階段のところに座って今か今かと期待している放送を待った。
「そんなに焦んなくたって流れるって」
矢吹は紙の束を扇子のようにして扇ぎながら涼しげに言う。
「こんな青春ぽい歌聞きたくねぇよ」
「じゃあ耳塞げば?」
俺はじっと矢吹を見た。
俺の方をちょっとも見ない。
俺は言われた通りに耳を塞いだ。
そしたらそんな俺を見て、矢吹は何かを言って笑った。
でも、耳を塞いでいる俺には聞こえない。
それから二曲くらいリクエストの曲が流れた。
すると、急に矢吹が俺の手を引っ張り耳から離した。
「…きた?」
俺がそう聞くと、矢吹は八重歯を出して笑った。
『匿名希望さんからのリクエストは〜【こんなの聞いたことない!みんなにも是非この衝撃的な声を聞いて欲しいです!】う〜ん、何でしょうね、気になります。では、どうぞ!』
俺達は急いで階段を駆け上がり、あらかじめ鍵を開けておいた屋上の扉を開けてフェンスに登った。
「ひゃっほぉ〜」
俺達は奇声をあげながら、紙を階下へと撒き散らした。
その紙には昨日撮ったゴリ山が写っている。
あの、矢吹をこれから食べようとするゴリ山の姿が。
うまい具合に矢吹の顔は隠して撮ったから、ゴリ山の姿しか写っていない。
そして今頃放送では、昨日の資料室での矢吹との会話が流れているはずだ。
俺が録音したテープ。
きっと今頃学校中がパニックに違いない。
ゴリ山のカマ口調。
そしてもう六・七人の生徒を食ったという問題発言。
そして気持ち悪いゴリ山の男のタイプ。
いい気味だ。
ちなみにこの録音テープは佐々木のところにも郵送した。
あのゴリ山の写真も。
そして手紙なんかも入れてみた。
【仇はとったぞ。遅れてごめんな。 ジェイソン&矢吹】
これを見て、佐々木はどう思うかな…。
これで、佐々木がまた前を見て歩いていけたらいいんだけど。
佐々木、俺のメッセージ伝わった?
お前の目の前に立ちはだかっている問題の一個。
たった一個だけど、叩き壊せてやれたかな?
それからゴリ山のことはすごい問題になった。
彼は
「誰かに仕組まれた。こんなことはしていない」と言い出した。
でも、それからというもの、匿名で被害者が名乗り出たりして、先生達も真剣にこの問題について話し合いとかを始めたらしい。
そして気付けば、ゴリ山はこの学校から姿を消していた。
いい気味だ。
でも…少しやり過ぎたかな?
別に俺は、ゲイが駄目だとかそういうことを言いたい訳じゃない。
ただ、あいつを…懲らしめてやりたかった。
佐々木やそれ以外の被害者達の傷みをわからせてやりたかった。
飄々として、綺麗事ばかり並べている奴に、本当の現実を見せてやりたかった。
…ただそれだけ。