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「金と男と地位に飢えた雌ハイエナどもめ……」
私、ローズ・ディバーナは月に一度に開かれるパーティーに来ていた。
私自身が好んでこんなとこに来ている訳ではない。お父様の命令に逆らえないので、しぶしぶこの糞つまんない集まりに参加しているわけだ。
この社交界は、金持ちの娘や坊ちゃんどもが将来のパートナー探しに集まるor貴族同士の顔合わせパーティーである。
毎回主催者のディビット伯爵夫妻が、懲りなく開く夜の舞踏会みたいなもんだ。しかも、ディビット伯爵夫妻はどちらともかなりの浮気癖があるらしく、おそらく、本当の目的は自分達の一夜の禁断の愛探しではないかと私は思う。
しかし、この世の貴族は腐ってる。別に男同士の禁断のPーーとかそういう意味ではない。絶対に。
私と同年齢らしき女子達は、出来る限りのお洒落していいお家の坊ちゃんを探すべく、目をギンギンさせている。おそろしい、女豹。
私は、バルコニーの隅で一人、料理を食べているところだった。
バルコニーにも、相変わらず男女いるがひとりでディナーを頂いているのは私くらいだろう。
男?そんなもの興味はない。何がいいのだろうかわからない。
(はやく、帰りたいな……)
ある程度食べ、ワインに口をつける。甘酸っぱいワインの匂いが鼻をくすぐる。
ワインを一口のみ、私はガラス製のドア越しに屋敷の中を眺める。屋敷の中では、男女がクラシックに合わせ社交ダンスを優雅に踊っている。
そんな中でも一際目立つのは、豪華な衣装を纏うエリザベス婦人だ。
そのふくよかな体つきに濃い化粧、ある意味人の目を惹くパーツが揃っている。別の意味で完全である。
オバサンが最近流行のドレスなんか着ちゃって馬鹿じゃないかしら?とつい鼻で笑ってしまう
(こんなオバサンに相手する男も物好きだな)
エリザベス婦人の相手をしている男性に目を移した。
あれはたしか、本日の目玉の……アルバート公爵だ。アルバート・アドルフ前公爵の息子の。
金髪のショートで顔立ちもいい青年が厚化粧おばさんの相手か、男も残念。
(!?)
そこから斜め横に、いじめっ子のアリスの顔がちらり見えた。クリーム色のカールが特徴的な髪に童顔の性格最低女だ。
私はとっさに顔を俯かせてしまう。小さいときにアリスに植付けられたトラウマが今も深く胸に突き刺さっていて物凄く会いたくない!
ここは出来るだけ会わないように地味になおかつにやり過ごさなけねば。
「くっちゅん!」
ふと、気づくと風が出てきていた。少し肌寒い。暖かいものを頂こうとスープを店員に頼んだ瞬間
気づくと、後ろからジャケットが降ってきた。というより誰かが私にジャケットを肩にかけてくれた。
「!!」
とつぜんのことで驚いた私は上を見上げる、すると、後ろには思わぬ人物の姿があった。
「あ、あなたは・・・?」
近くから見ると、長身でスラリとした体系に整った顔立ち、金髪がまぶしい。この人は・・・!!
そこには、先ほど厚化粧怪物と優雅に踊っていた物好きのアルバート公爵の姿があったのだ。
「君さ、いつもこの席で一人で食べてるの?」
「え……? あ、はい」
「じゃあ、ちょっとお邪魔するね」
「あ、どうぞ」
アルバート公爵は、私の隣の席に腰を掛けると私の顔に覗いた。
(きれいな、蒼い目)
思わず見とれてしまうほど、
「君さ、さっき俺のこと見てたでしょう?」
「ええ、見てましたけど。なにか問題でも?」
すると、アルバート公爵はため息を付き、うっすらと怪しい笑みを浮かべる。しかし、目が笑っていないかった。
「どうせさ、あんたも、地位と金目当てで俺のこと見るんでしょ? そこらへんの糞女供と同じ目で」
「は?」
思わず咥えていたフォークを落としてしまった。
(何言ってんの、こいつ。私に八つ当たり?)
急に何よ。少しはカッコイイと思った私が馬鹿みたい、売られた喧嘩はご丁寧に安く買い叩かせていただこうじゃない!と私は席を立つとアルバート公爵をにらんだ。
「地位と金だって? そんなもんいらないわ! それにそこらへんの女と一緒にしないで!!
それに親に頼ってばかりのアンタのほうがよっぽど糞よ!!」
ジャケットを脱ぎ捨て、公爵に返しつける。公爵は少し驚いた顔で私の顔を見る。
ふんっ!ざまあみなさいと思う反面 やっちゃった…どうしよう・・と不安の気持ちが取り巻いた。へんな噂が立ってこの後の婚活に影響してしませんように。
(だいじょうぶ このまま振り向かず逃げるのよ)
私は背中に嫌な視線を感じながら、パーティーを後にした。