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『1章完結!』世界を見ることができない少女は、光と闇の力を宿していた 〜神に選ばれた少女の物語〜  作者: 加藤 すみれ
2章 歪みの中で出会う者たち

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宣告の視線

三日後。

ついに、獣王決定戦の日が訪れた。


闘技場を包む空気は、張り詰めていた。

獣人たちの熱気と闘争心が混ざり合い、重たい圧となって肌にまとわりつく。観客席では無数の尾が揺れ、耳が立ち、低い唸り声が渦を巻いていた。


このトーナメントで勝ち上がった者が、新たな獣王となる。

そして――その獣王と、スミレは翌日戦う。


開会式の中央に、現獣王ガルムが姿を現した。

岩のような体躯。その存在だけで、胸の奥が圧迫され、呼吸が浅くなる。


「さぁ!」


ガルムの声が、闘技場全体を震わせる。


「今年の獣王決定戦――開始だ!!」


宣言と同時に、歓声が爆発した。



第一回戦。

猫族の少女と、狼族の男性が向かい合う。


「剛体!!」


狼族の男性が叫び、全身を硬化させて突進した。

だが次の瞬間、猫族の少女の姿は視界から消える。


「……速い」


スミレの喉が、無意識に鳴った。


少女は一瞬で懐に潜り込み、低く身を沈める。

足払い。狼族の体が宙を舞い、鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。


闘技場がどよめく。


「年齢なんて、関係ないのね……」

リリナが小さく呟いた。


「……ええ」


スミレは短く答え、自分の手を見つめる。

胸の奥に、冷たいものが沈んでいった。



試合は次々と進み、やがて七回戦目。


現獣王、ガルムの出番だった。


「始め!」


合図と同時に、ガルムは地を蹴る。

踏み込みだけで、床が低く震えた。


拳が、金色の鎧に包まれる。


次の瞬間。

衝撃音とともに、対戦相手の体が宙を飛び、場外へ叩き出された。


攻防すら、成立していない。


「……一撃」


スミレは、知らぬ間に息を止めていた。

あれと――明日、戦う。



トーナメント終盤。

ガルムの傍らにいた、狐族の少女が姿を現す。


「始め!」


合図が終わる前だった。

少女の脚が閃き、対戦相手は為す術もなく吹き飛ばされる。


ほんの一瞬。

それだけで、試合は終わった。


ざわめきが広がり、観客たちの視線が一斉にスミレへ向けられる。


言葉にされずとも、その意味ははっきり伝わってきた。


スミレは視線を逸らさず、闘技場を見つめ続ける。

その中央で、狐族の少女が静かに立っていた。



最終戦。


残ったのは、ガルムと狐族の少女。


「始め!」


最初に動いたのはガルムだった。

全身を覆う金色の鎧が、眩く輝く。


拳を振り上げ、叩きつける。


だが――


少女の体が、炎に包まれた。


熱気が、闘技場全体を焼く。

炎をまとった拳が、連打となって鎧に叩き込まれる。


「……溶けてる」


スミレの声は、かすれていた。


金の鎧が歪み、音を立てて溶け落ちていく。

防ぎ続けていたガルムの体が、ついに耐えきれず――


次の一撃で、吹き飛ばされた。


闘技場が、静まり返る。


勝者――狐族の少女。


彼女はゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐにスミレを見る。


スミレも、目を逸らさなかった。

喉が乾き、指先が冷える。


それでも、逃げなかった。


この視線は、宣告だ。


――次は、お前だ。


スミレは小さく息を吸い、胸の奥で確かに思った。


それでも、立つ。


明日、自分が折れるかどうかは――

まだ、決まっていない。

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