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『1章完結!』光と闇の継承者 〜神に選ばれた少女の物語〜  作者: 加藤 すみれ
2章 歪みの中で出会う者たち

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獣王の門

馬車が重い石の門の前で止まった。木で作られた扉は天を突くように高く、両脇の壁には鋭い牙や鋼の装飾がはめ込まれている。門の高さも装飾も、街全体の威圧感を象徴していた。門の先には、こちらを鋭い目つきで見つめる獣人たちがずらりと並ぶ。尾をピンと立て、耳を大きくそばだて、身構えた姿は言葉にできないほど威圧的だ。門前に立つだけで、自然と肩に力が入り、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。空気が重く、まるで息をするたびに街全体の視線が体に突き刺さるかのようだった。


「……ここが、リベリオ」

スミレの声はかすかに震え、額の汗が頬を伝う。手は小刻みに震え、無意識にこぶしを握った。視界の端で獣人たちの尾や耳の微細な動きを追うたび、胸の奥に緊張が波のように押し寄せる。呼吸がわずかに早くなる。まるで、街そのものが息を止めてこちらを見守っているかのようだ。


スイレンも窓の外をじっと見つめ、眉をひそめる。

「何か……街全体の雰囲気が重いわね。空気が張り詰めて、ちょっとでも動けば崩れそう……戦いの前みたい」


その言葉にマイは小さくうなずき、深く息を吸った。耳をぴくりと動かし、周囲を観察する。獣人たちの視線は馬車に集中し、わずかな動きでも飛びかかりそうな緊張感を放っている。

「……本当に。今の街の空気、何だか息をするのも怖いくらい」


マイはさらに口を開いた。

「リベリオでは年に一度、獣王決定戦が行われるの。今がまさにその時期だから、街全体が次の王は誰になるかでピリピリしているのよ」


馬車にいる者たちは自然と背筋を伸ばし、息をひそめた。緊張感に押しつぶされそうな空気が車内を覆う。外から漂う匂いも、鉄と獣の混ざった独特な匂いが鼻をつく。小さな葉のざわめき、尾の擦れる音、遠くから聞こえる戦闘準備の金属音にも、耳が過敏に反応する。


「獣王決定戦? 一番強い奴を決めるってことか?」

シュンは眉をひそめ、声を低くした。その声にも無意識に緊張がにじむ。


「えぇ、正確には王国最強を決める戦い。優勝者は国の新たな王に匹敵する力を得ることもある。だから、街の住人も王宮も警戒態勢を強めているの」

マイの額には汗がにじみ、指先まで力が入り込んでいる。呼吸もわずかに早く、体全体が緊張に張り付いたようだ。


馬車はゆっくりと門をくぐろうと進む。通り過ぎる獣人たちの視線は刺すように鋭く、尾を尖らせ、耳を立て、眼光をこちらに向けてじっと監視している。目を合わせただけで体が硬直し、心臓の鼓動が耳にまで響く。スミレは無意識に肩の力を強く握り、深く息を整えた。


「これは……ちょっと厳しいかもね……」

マイが小さくつぶやく。声は緊張でかすれ、微かに震えていた。


スミレは額の汗をぬぐい、深く息を吸った。

「それでも……仲間を見つけて、グレイルを、現況を倒さないと」

その声には強さと覚悟だけでなく、焦りや恐怖も混じっていた。馬車の窓から見える獣人たちの視線に、胸の奥で緊張がさらに膨らむ。鼓動が耳元で跳ねる感覚が足先まで伝わる。


その時、門番の鋭い声が響いた。

「止まれ!!」


鎧を身に着けた獣人の門番が馬車を制止する。耳を立て、尾を硬直させ、全身から威圧的なオーラを放つ。視線が一点に集中し、心臓が跳ねる感覚が増す。馬車の中に静寂が広がり、誰もが息をひそめた。鼓動の音だけが、妙に大きく響く。


スミレは立ち上がり、額の汗をぬぐい、紙を差し出す。

「私たちはアクア王国の使者です。どうか通らせてください」

紙には王の署名と印が押され、通行を許す証明となっていた。


門番は紙を受け取り、じっと見つめる。数秒の沈黙の後、深くうなずき、声を落とした。

「……聞いた。通れ」


馬車が再び動き始めると、街中の獣人たちの視線が一斉に集まった。尾を振る者、耳を立てる者、体を硬直させる者……まるで生き物の壁に包まれたかのような圧迫感が馬車を取り囲む。遠くからは戦闘準備の音や金属の擦れる音が聞こえ、街全体が戦闘前の緊張に包まれているのを感じる。


「……歓迎されるわけ、ないよね」

マイが小声でつぶやく。

「えぇ、こんな時期に来てしまったんだもの。歓迎されたら、逆に怖いわ」

スミレは肩の力を少し抜き、こぶしを握りしめた。


馬車は街の奥へゆっくりと進む。リベリオは城があるわけではなく、村のように家が並んでいるだけだ。しかし、そこに建つひときわ大きな家の前で馬車は止まった。警備をする獣人たちは尾を厳しく振り、鋭い眼光で馬車をにらむ。


建物からは、ただならぬ気配と魔力が漂う。空気が重く、胸の奥まで圧迫される。壁の装飾品や魔獣の生首が醸し出す恐怖感は、まるで静かに牙を剥き出しで待っているかのようだ。スミレは深く息を吸い、覚悟を決めた。


「私たちはアクア王国の使者です。この国の王に会わせてください」

警備兵はうなずき、中へと案内する。中には威厳を感じさせる装飾品が飾られ、魔獣の生首や腕が整然と並ぶ。心臓の鼓動だけが響く空間に、二人の獣人――外からも感じられた気配と魔力を持つ男女――が立っていた。


スミレは小さく息を吸い、仲間の背中を見つめた。

――この街で起こる試練に、臆せず立ち向かう。仲間を守り、任務を果たすために。


1年に一度の緊張が街全体を包むこの時期――獣王決定戦の季節。

馬車の中で、彼らの心臓は静かに、しかし確実に高鳴っていた。

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