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『1章完結!』光と闇の継承者 〜神に選ばれた少女の物語〜  作者: 加藤 すみれ
2章 歪みの中で出会う者たち

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記憶の森、紅蓮の歌

新たな仲間、マイを加えた一行は、次なる目的地――獣人の国リベリオへ向かっていた。


馬車は三日間、森の間を揺れながら進む。外では小鳥の声が聞こえ、葉のざわめきが夜風に混じる。しかし、車内の空気は重く、誰も口を開かない。窓の外を見つめる者、目を閉じる者、手元にある小物に触れる者。それぞれが思い思いに、内なる緊張を抱えて時間を過ごしていた。


「ねぇ、スイレン。ずっと聞きたかったんだけど……どうして、あなたは私のことを、こんなにも慕ってくれているの?」

スミレの声は控えめだが、確かな熱を帯びていた。

数日しか共に過ごしていないのに、スイレンの細やかな心遣いや視線の先に、確実に彼女への想いがあることが伝わる。


シュンも、口を開いた。

「俺も、思ってた。姉上と長く過ごしていたから、良いところは知ってる。でも……最近会ったばかりのあなたが、なぜ……」


――“あなた”という言葉に、スイレンの瞳が一瞬揺れた。

スイレンは深く息を吸い、遠い記憶を呼び起こすように口を開いた。


森の奥深く、夜の闇に沈む木々の間で。スイレンたちは反逆者として王国の追手に追われていた。

父と離れ、一人になったスイレンの心臓は耳に響き、手足は震え、冷たい夜風が頬を刺す。足元の落ち葉の音が、自分の不安を増幅させる。


「はぁ、はぁ……」


小刻みに体を震わせながら、必死で前へ進む。

追手の気配が近づくたび、胸の奥が凍る。魔法はまだ未熟で、確実に敵を足止めできるわけではない。逃げ場はない――焦燥と恐怖が絡み合う。


「蒼バラの森!」


紙を空に舞わせると、青いバラが雨のように降り注ぎ、追手の足を絡め取る。

「今のうちに……!」


逃げようとするも、その魔法は瞬時に破られ、足止めは叶わない。

「くっ……どうすれば……」


背後からぶつかり、ドサッと音を立てて転倒する。

「あっ……」

振り向く間もなく、追手の影が迫る。


心臓が喉にまで跳ね上がる。――絶望の中、少女の声が響いた。


「なぜ、魔人族が魔人族を?」


車いすに座った小さな少女が、夜の森に立っていた。

「おっ! 女神族じゃないか。一緒に殺せ!!」


(――関係のない子を巻き込んでしまった……)


胸が締め付けられ、手が震える。

その少女の口から信じられないほど強く、そして美しい歌声が流れ出す。


『焔よ、紅蓮に咲き誇れ

傷だらけの翼を焦がし

破れた運命を塗り替え

この手で未来を取り戻す

散ること恐れず、咲き誇れ

私は、紅蓮の華』


弱々しい体から溢れ出る圧倒的な力。

スイレンは、思わず目を見開き、全身の力が引き寄せられるように感じた。

(――この子を、絶対に守る……!)


その直後、アイビスが慌てて駆けつけ、スイレンを連れ去る。

振り返ると、少女は小さな体で静かに立っていた。

胸が痛む。巻き込んでしまった――守るべき者を危険に晒した罪悪感が、胸の奥で燃え上がる。


「あの子……知ってるの?」

「もちろんだ。お前の三つ子の姉だ。よく似ているだろう?」


「そっか……あの時の子はスイレンだったんだね」

スミレの声に、スイレンは少し嬉しそうに微笑む。


「覚えてるの?」

「もちろん。あの時、どこか懐かしい感覚があったんだ。妹だから……なんだね」


スミレの頬が自然に緩む。

その笑顔に、シュンが思わずぶっきらぼうに訊ねた。

「俺とお前、どっちが先に生まれたんだ?」

「私」

フッと笑うスイレンに、シュンは舌打ち。

しかし周囲はそのやり取りに笑い、和やかな空気が広がる。


こうして旅の序盤に束の間の休息が訪れた。

だが、リベリオへの道は険しい。困難を知っている者たちにとって、今の穏やかな時間は、未来への力を蓄える貴重なひとときだった。

そしてスイレンの胸の奥には、あの少女を巻き込んでしまった罪悪感と、守る覚悟が静かに燃え続けていた。

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