奇跡の契約〜大精霊と選ばれし者たち〜
マイとスイレンの戦いを見守っていたのは、スミレたちや人間たちだけではなかった。
「あらあら、懐かしい気配がすると思ったら...
面白いものを見せてもらったわ」
訓練場の空気が一瞬にして変わる。二人の女性が現れると、そこに立っていた騎士たちは無言で武器を構え、緊張が走った。だが女性たちは、まるで何事もないかのように、戦っていた二人にだけ視線を向けている。
「なに者だ!!」
騎士の一人が声を張り上げる。けれど、声は届かず、彼女たちの存在感に圧倒されるばかりだった。
「初めまして。私は、大地の大精霊リレス」
緑の大地の香りを漂わせながら、リレスは静かにマイの前へ歩み出る。地面に触れるたび、わずかに土の匂いと振動が伝わる。
「私は、星の大精霊フィリア」
星空のような青と銀のドレスに身を包み、フィリアはスイレンの前に立つ。微かな光を放つ瞳に、見る者の呼吸まで止まるような威厳が宿っていた。
訓練場に立つ全員が、息を呑む。
「……大精霊?」
思わず口をついて出る声が、空気を震わせる。二柱の精霊の気配は、風のように柔らかく、しかし大地を揺るがす力を秘めていた。
「私たちと契約して」
二人の女性は同時に声を上げる。その響きは心に直接届くようで、胸の奥がざわめいた。
「え?なぜ私と?」
マイは目を見開き、戸惑いを隠せない。
リレスは穏やかに微笑み、首を傾げる。
「あなたの、守りたいという意思に惚れたのよ。本来なら、大精霊がこんな簡単に契約してはいけないのだけれど……どうしても、見ていたくなった」
その言葉に、マイの胸は熱く締め付けられた。守りたい――その強い思いが、精霊を動かしたのだ。
リレスはスミレの方へ視線を向け、瞳を輝かせた。
「私も、契約者が欲しかったのよ」
マイの背筋に戦慄が走る。強く、清らかで、まっすぐな意思を持った存在が、自分に力を預けたいと言っている。
マイは小さく息を吐き、心の中で自問する。
—私は王女。でも持てるものは限られている。王のように、土地や城を渡すこともできない。私にできることは……何だろう?—
その隙間に、フィリアの声がスイレンに降り注ぐ。
「それで?私と契約してくれる?」
スイレンは少し首を傾げ、考え込む。沈むように落ち着いた声が、訓練場の空気を和らげる。
「……私の声を。私が死んでしまったとき、この声をあなたに捧げます」
その言葉に、リレスとフィリアは思わず息を飲む。声だけでなく、彼女の意志そのものが光となり、精霊に届いた瞬間だった。
「今すぐくれないの?」
リレスの瞳がキラリと光る。好奇心と期待が混ざったまばゆい光だ。
スイレンは微笑み、迷いなく答える。
「だって、今すぐ渡したら姉さんと話せなくなるでしょう?」
その潔さに、精霊たちは思わず笑った。
「面白いわね……その声は取らないでおくわ。その代わり、一生そばにいてもらう」
リレスはその言葉を隣で聞き、マイに元気よく告げた。
「私とも、その契約内容でいい?」
「いいのですか?対等には...」
「いいのよ。これよりもおかしな契約をした人もいるしね」
両者が声を揃える。
「我、大地の大精霊リレスは、汝との契約を望む。汝に我の力を与え、共に戦おう」
「我、星の大精霊フィリアは、汝との契約を願う。我は汝と命尽きるその日まで共にいることを誓おう」
マイとスイレンは息を合わせて答える。
「リレス……よろしくお願いします」
「フィリア……私と共に」
契約の瞬間、訓練場全体に光が満ちた。風が巻き、木々が揺れる。空気は温かく、柔らかく、そして力強かった。
立ち会った者たちは、皆、目を丸くして息を呑む。
「……あれは……奇跡の契約だ」
スミレは小さく口を開く。
「……二人とも、すごい……本当に、奇跡みたい」
マイは拳を小さく握りしめ、スイレンはそっと隣で肩を落とす。
新しい力と、これからの戦いへの希望が、一気に世界に広がった瞬間だった。




