神となる資格と少女の覚悟
「ねぇ、スミレ。あなた、何か私たちに隠していない?」
その言葉を聞いた瞬間、スミレの肩が小さく跳ねた。
びくりと震えたその反応が、何よりの答えだった。
「……なんのこと? 別に、何も隠してないよ?」
そう答えながらも、顔色は明らかに悪い。
唇はわずかに震え、視線は定まらなかった。
「スミレ、何を隠しているの? お願い、教えて」
その声に、スミレは言葉を失う。
そこへ、イレイナが姿を現した。
「スミレはね。私と契約したとはいえ、その寿命は――」
「イレイナ!!」
鋭い声が、言葉を遮った。
イレイナは目を伏せ、口を閉ざす。
「スミレ? 寿命って……いったい、どういうことなんだ?」
嫌な予感が、部屋を満たしていく。
「っ……」
言葉を失ったスミレの手を、メイサが強く握った。
「お願い。話して。
自分の娘のことを、何も知らないままでいるなんて……私は嫌なの」
その真剣な眼差しから、スミレは逃げられなかった。
「私は……」
震える声で、スミレは口を開く。
「私の命は、もう……そんなに残ってないの」
絞り出すようなその一言に、誰もが息を呑んだ。
そのとき、扉の向こうで何かが落ちる音が響いた。
直後、シュンとリリナが駆け込んでくる。
「姉上!! 本当なのですか!?」
「姉さま! 説明を求めます!!」
シュンとリリナは焦った顔をして部屋に入ってきた。
その額には、汗がにじんでいる。
逃げ場は、もうなかった。
スミレは小さく息を吐き、すべてを語り始める。
「私の魔力は、イレイナと契約したことで、足と目が使えるくらいには制御できるようになった。
でも……それでも、完全じゃない」
一瞬、言葉を区切り――
「私は、もっても三年の命よ。
もし、これ以上魔力が増えるようなら……私は、すぐにでも死ぬわ」
その言葉に、メイサ、シュン、リリナは力を失ったように崩れ落ちた。
他の者たちも、声を出せず、ただ涙を流すことしかできなかった。
「なぜ……」
ルイの声は低く、震えていた。
「なぜ、そんなことを黙っていたんだ?」
その声には、怒りよりも痛みが滲んでいた。
「だって……心配してほしくなかったから」
スミレは、静かに微笑もうとした。
「あなたたちには、ずっと笑顔でいてほしかったから」
その頬を、一筋の涙が伝う。
しばらくの間、誰も何も言えなかった。
重苦しい沈黙を破ったのは、アイビスだった。
「お前は……
魔力が増える可能性があると言ったな」
静かな問いかけ。
「それはどういうことだ?
普通なら、魔力は増えないはずだろう?」
その言葉に、誰もが一筋の希望を見出した。
魔力さえ増えなければ、三年は生きられる――。
だが、その希望は、すぐに打ち砕かれる。
「グレイルが言っていたでしょう?
『今は未熟。だが、その器はすでに完成している。
いずれ――“そこ”へ至る力だ』って」
その名が出た瞬間、空気が凍りついた。
「グレイルは、魔神王を名乗った。
だったら……女神の神が生まれても、おかしくはない」
「……その神が、君だというのか?」
―違うと言ってくれ―
誰もが、そんな目でスミレを見つめていた。
「そう」
スミレは、はっきりと頷く。
「私は、もう資格を持っている。
神となる資格を」
静かに、だが確実に言葉を重ねる。
「私は、いつでも神になれる。
でも、神となって、一日経てば、この命は……」
その先を、誰も聞けなかった。
自由に世界を見て、自由に歩けるようになった少女は、
もうすぐ、その命を失う。
その事実を、誰も信じたくなかった。
「スミレ……やっぱり、あなたは……」
「行きますよ。下界へ」
はっきりとした声だった。
その言葉に、周囲は怒りと悲しみの入り混じった視線を向ける。
「そんな顔をしないでください」
スミレは、まっすぐに皆を見つめた。
「残り少ない命なら……せめて、大切な人のために使いたい。
それが、私の願いです」
その表情に宿る決意を、誰も否定できなかった。
「……わかったわ」
メイサが、震える声で言う。
「その代わり、一年で帰ってきて。
仲間が全員集まらなくてもいい。
最後の二年は、私たちと過ごして」
「わかりました」
スミレは、力強く頷く。
「一年で戻ります。
仲間を全員集めて――この戦いを、終わらせてみせます」




