闇に棲む
コンクリートの床に横たわり
天井の一点を見つめる
壁の向こうに何があるかは知っている
嘘に満ちたモノクローム
この床や壁と何ら変わらない色彩
それが太陽の下に生き 社会を作っているらしい
街では誰もが屍のように歩いている
ショートした思考回路 麻痺しかけた感情
笑顔の作り方を忘れて 人は仮面舞踏会
誰かが足を引っ張って
お嬢様を転ばそうとしている
気分の悪い道化師が 私の地獄へ共に来いと
無理矢理に手を引くようだ
しばらくすれば 別の誰かが
彼の頭を撃ち抜くだろう
45口径の立派なピストルで とろけ出した彼の頭を
きっとその銃を持っているのは 似たような顔の悲しき道化師
同族を嘆き 同族の犠牲者を嘆き
贖罪を代行する
私は屍 あるいは闇の囚人
感情は麻痺していないが 逃げる気もない
やがて全て白に包まれるまで
ここで倒れているつもりだ
太陽は遠く
いつか高く消え去ることを
私はただ 感じている
不意に手を伸ばし 掴もうとするが
私はイカロスにさえなれない
冷えた冬の日 雪も降らず
ただ空が遠いだけ
昼ですら 春の灰
夜はより冷え込み 星が見える
遠い光がこの闇を知ることはない
彼らが唯一知っているのはほかの光と澄んだ闇
煙に巻かれたこの地の灰色を彼らには知る由もない
時計の針が音を立てる
ずいぶんと長く無機質なそれは まさしく時間の象徴
長ったらしい葬列 同様に感情を消す存在
彼らが顔を隠しているのか それとももう顔がないのか
私にはわからない
純粋無垢な天使の落とし子は この闇を知るより前に
神の使者たちが回収を試みた
私はその前に闇を知り 天使は私を残した
やがて私は彼の元へ行き
この地に全てを伝えるだろう
酷く詩的に 酷く悲観的に
その時彼は私に楽園への鍵を渡す
そういう夢を見る
神々は全知全能
されど 世の理を覆せはしない
彼らの多くは私と同じく悲観主義者なのだろう
その抱擁は悲しみさえ抱いてしまった
神はそれを包容し 同じように扱った
毒を取り込んみ されど死なぬ
それを私は哀れむが おそらく彼は悲しまない
私は神ではないから
私は神になる器でないが もし私が神であれば
もし悲しみを殺せるのなら 胸の奥までナイフを刺して
冷たい目をして殺しただろう
私はそんな空想にも飽き 虚構の死体を放り出す
罪に濡れた不純な身体で ふと自己嫌悪なんかに浸る
まだわずかに 心臓が温かいらしい
感情が迷宮へと入り
やがては 無へ還る
そこが 私の感情の住処
家に帰れば またもう一度
旅に出ようと感情は動く
私を構成するそれの一部が ぐるぐるぐると回りだす
答えのない問いという概念が 自らを生かす血液を求めて
誰も知らぬ哲学者の墓からDNAを持ってくる
悲しみはどんな眼で生きているだろう
悲しみとして生まれた存在を 怒りを超えた今は憐れむ
悲しみや苦しみ ありとあらゆる痛みが
アニミズムの考えのもとに魂を宿すのであれば
私は彼らを憐れまぬことに この生を終えられない
彼らの死は 彼らの望みか
彼らの死は いづれ来るか
哲学者ぶった私は 暗緑の樹海の中
同じように墓石を刻んでいる
憂鬱な思考回路 科学曰く脳の機能不全
インパーフェクション
それさえ私と知っている
私は孤独であり ゆえに人らしくある
私は憂鬱であり ゆえに人らしくある
私は不完全ゆえ 人である
人とは 不完全である
神さえ 不完全である
埋めるかけらの見つからぬ 欠けた存在である
されども それを埋める欠片が
どこにも見つからないゆえに 半ば結果論的に
宇宙はそれがわれらの完全体だという
完璧主義者はおおよそ卒倒するであろうが
私はもはや驚かぬ
大きく感情が動かなくなり 液体金属のように
緩やかな安定が 私の今の住所なのだ
もはや 脳みそは海である
私の身体はいづれは溶けて やがて液体か気体となる
私はその時 海になる
海になり、宇宙を呑む
そして 新たな宇宙になる
私の輪廻はきっとそう
そうであったら面白い
ユーモアのかけらが笑っている
冷たい風が人を殺めそうな 悲しい歌を歌っている
月は黙して ただ微笑を浮かべる
やはり そのわけは
そうせざるを得なかったからだろう
今宵はここらで眠りについて
宇宙のラジオに身をうずめよう
明かりを消して ダイヤルを回し
ホワイトノイズに溶けこんでいく
接続の成功は 視界のホワイトアウトが
代わって伝えてくれるだろう
この色味のない灰色の部屋で唯一の 黒を含まぬ色が




