少年のスタートライン
「ただいま戻りました~!」
「おう!早速準備してくれや!」
家に帰ると早速ガッソおじさんが声をかけてくる。うちは宿屋。しかも冒険者が多く利用するため食堂やら銭湯やらが付いてるそこそこ大きい宿屋だ。
僕は現在料理番としてここで住み込みで働いている。
「そういえばウォルク!天職はどうだったんだ!?」
「いやぁそれが重戦士だったんだよー」
「あー、まぁ気にすんな!……てお前さんあんま気にしてなさそうだな」
「まぁねー」
ぱぱっとお昼に出す定食の準備しつつ答えていく。本日の昼食のメインは鳥の股肉をじっくりコトコト煮込んだクリームスープとパンのセット。昨日うちで宿泊してた冒険者がくれた鳥の魔物の肉を骨と一緒に臭み消しの香草、玉ねぎ、人参も合わせて二時間ほど煮込んでみたんだ。後はどんな味になってるかな?楽しみだ。
そもそもなんで重戦士が不人気かって話なんだけど。ほぼ職業・騎士の劣化版だからなんだよね。しかも騎士の方が攻撃力もあるっていう。防御は一応勝ってるけど防具でなんとかなるってのが通説だからあんまり重視されないし。
総じてちょっと残念な天職が重戦士なんだ。
ま、こんな話は置いといて、そろそろお昼時だ。近場に狩りに行ってた冒険者が帰ってくる頃合いかな?
「おーぅ、もうやってるかー?」
「いらっしゃーい、お昼できてるよー」
「お、じゃあエールも頼むわ」
おや、この冒険者は確かあんまりお酒飲まない人だったはず。てことは何かいいことあったかな?
そんなことを考えつつ後から来たお客の対応をしていく。今帰ってきてるのは6人。全員スープセットね、分かったー。
「あぁそうだ、おめぇさん天職は?」
「残念ながら重戦士ですねー」
「……全然残念そうじゃねぇけどまぁいい。どっかでレベル上げに行くのか?」
「今日の午後くらいに行く予定です」
初めての実戦だし近場の草原かな。あそこは初心者でも倒せるような低レベルの魔物しか出ないから。
「無理せずゆっくりやってくつもりです!」
「ハハッ、堅実なこった。ガッソさんの教えか?」
ガッソおじさんには冒険者のイロハを叩き込まれたからね。僕が天職を知った後もあんまり気にしないで普段通りいられるのはそのおかげかもしれないな。ガッソおじさん曰く「天職に頼るな」とのことなので。
「おうウォルク!」
「あ、はいはーい!すいません、呼ばれたんで失礼します!」
「おーい、こっちにもエールくれ!」
「ただいまー!」
「セットのおかわり頼む!」
「少々お待ちくださーい」
「おーいまだやってるかー?」
「大丈夫ですよー!空いてる席にどうぞ~」
「ふい~、終わった終わった」
やっぱりお昼のこの時間は人がちょっと多いなぁ。ガッソおじさんは接客あんまり得意じゃないから基本一人で回さないといけないし。まぁ食材取りはガッソおじさんがやってるし役割分担だよね。
お客が帰った後のテーブルを拭きつつこの後の予定を考える。
草原かぁ。まずは装備を準備しないとだよね。部屋に置いてある鉄の剣と木の盾は持ってかないと。後は回復薬でしょ?素材を入れるバック、後は───
「よし!テーブル拭き終わり!」
さーて準備していきますか!
ということで。やってきたぞー!近場の草原!
正式名称は知らない!なので近場の草原と呼ぶしかない!
ここで出てくる魔物はスライム、リトルアルミラージくらいかな。どちらもレベル2~5の弱い部類だ。
さーて、近くに魔物はいるかな?と、辺りを探し始めてすぐに。
ポヨンポヨンと特徴的な音が聞こえてくる。
「あ、いた。スライム」
青みがかった半透明の丸い体に小さな核。うん、間違いなくスライムだ。初戦としては丁度良い。ほんの少し震える手をギュッと握り直して武器を構える。
「よ~し、やるぞ!」