第4話: 交わる感情
静かな夜が続く中、怜司は自室で再び机に向かっていた。書類の山に囲まれ、何度も頭を抱えたものの、どうしてもその先に進むことができなかった。家族の重圧、外の世界の期待、すべてが彼を圧迫し続けている。
「……はぁ。」
彼は深いため息をつき、椅子に座り込んだ。心の中では、静馬の優しさを感じつつも、それが彼にとってどれほど心地よいものなのか、今もはっきりとはわからない。
その時、ドアの向こうから静かな足音が聞こえた。静馬だろうと思い、怜司は顔を上げずに言った。
「静馬、もう少し待てって。すぐに片付けるから。」
だが、ドアが開く音がしたとき、怜司は少し驚いた。静馬が何かを持ってきたのだろうか、彼の姿はどこか少し緊張しているように見えた。
「怜司様。」
静馬は一歩踏み出すと、丁寧に声をかけた。
「少しお話をしたいのですが。」
怜司はその言葉に少し戸惑う。しかし、静馬の目にはいつもの落ち着きがあり、それが逆に怜司を不安にさせた。
「……何かあったのか?」
怜司は口調を変えずに言うが、その心の奥には警戒心が芽生えていた。
「いえ、ただ……少しだけ、私の気持ちをお伝えしたくて。」
静馬は静かに言った。その目は、怜司を見つめるその先に、彼の本心を込めていた。
怜司はその言葉に驚いた。静馬が自分の気持ちを語るということは、普段なら考えられないことだ。それは彼にとっても予想外の展開だった。
「お前の気持ち?」
怜司は少し警戒しながらも、静馬の目を見つめた。彼の表情が見えなかったからこそ、その言葉には不安と期待が入り混じっていた。
「はい、私の気持ちです。」
静馬はゆっくりと歩み寄り、怜司の前に立つ。彼の目は、普段の冷静さを保ちながらも、深く決意を秘めたものだった。
怜司は息を飲んだ。これまで自分を支え続けてくれた静馬が、ついにその胸の内を打ち明ける時が来たのだ。それは、どこか恐ろしいことでもあり、同時にどこか嬉しいことでもあった。
「静馬、まさか……お前、俺に……」
その言葉を続ける前に、静馬は怜司の手を取った。彼の手のひらには微かな温もりが感じられ、怜司はその温もりに一瞬心が揺れるのを感じた。
「私は、あなたをただの主人としてではなく、もっと深くお慕いしています。」
静馬の言葉は、怜司の心に深く響いた。今まで感じたことのない感情が、怜司の胸を打った。それは、驚き、戸惑い、そして少しの安堵が入り混じった複雑な感情だった。
「お前が俺を……?」
怜司はその言葉を理解しようと必死に思考を巡らせた。しかし、静馬の言葉が一度自分の心に届くと、その意味を受け入れるのに時間はかからなかった。
「はい。」
静馬は、今度は怜司をしっかりと見つめた。怜司の瞳に映る自分を確かめるように。
「怜司様がどんなに強くても、どんなに冷たくても、私はあなたを支え続けます。」
その言葉が、怜司にとっては重く、そして温かく感じられた。
「……お前、どうしてそんなに俺を支えたがるんだ?」
怜司は、静馬の思いに対する答えを求めていた。その問いには、心の中で感じる少しの期待と、強がりながらもそれを認めたくない気持ちが混じっていた。
静馬は少し間を置いてから、優しく答える。
「だって、怜司様は私にとってかけがえのない存在だからです。」
その言葉は、怜司の心を動かした。
静馬はさらに静かに続ける。
「私は、あなたがどんなに弱くても、どんなに傷ついても、側にいさせてほしいと思っています。」
その言葉に、怜司はしばらく無言で立ち尽くしていた。しかし、次第に彼の表情が柔らかくなり、静馬を見つめる目が少しだけ変わったように感じられた。
「……俺も、少しだけお前を頼りたいと思ってる。」
その言葉は、静馬にとって大きな意味を持っていた。今まで感じることのなかった、怜司の気持ちを確かに感じた瞬間だった。