46・宰相の妻は断罪に立ち会う①
アルバート様が衛兵に連れていかれたその翌日。
私はリシャルト様と王城前で待ち合わせをしていた。
朝いつものようにリシャルト様は仕事へ向かっていったのだが、昼過ぎに王城へ来てほしいと指定されたのだ。
「一体何があるんですか?」
「国王陛下より、アルバート様とエマ様の処遇の言い渡しが行われるんですよ。キキョウも関係者なので、出席が義務付けられています」
なるほど、そういうことか。
確かにこの約一ヶ月、アルバート様とエマ様には散々な目に合わされた。私は思わず遠い目をしてしまった。
リシャルト様に連れられて、私は王城内を歩く。
城の入口付近はそれなりに人がいたのだが、さすがに城の最奥までくると人気が少ない。開放感溢れる廊下の脇には中庭が広がっていて、おだやかな陽の光を浴びて花が揺れていた。
何度か国王陛下への謁見で王の間へは来たことはある。
だが、その時はいつも一人きりだった。
それが、今回はリシャルト様が一緒だ。いつもは国王のそばにいた人が、今は自分のそばにいる。そのことに少し不思議な感じがした。
リシャルト様が王の間の入口前で立ち止まる。大きな両開きの扉の横には扉を守るように二人の兵士が立っていて、私たちが近くに行くと静かに扉を開けてくれた。
扉を開けた先には金で縁どられた赤い絨毯が伸びていた。絨毯が伸びた先には数段の低い階段があり、その上の少し開けた空間に玉座が置かれている。
私とリシャルト様は部屋の端に移動した。
程なくして国王が玉座の脇から現れた、のだが……。
え、なんか、やつれてるんだけど。何があった?
現れた国王は顔に覇気がなく、目の下には信じられないほどのクマができ、痩せ細っていた。顔色はまるで土のようだ。
ええ……。前に見たときはこんな感じじゃなかったはずだけど……?
威厳溢れるオーラに、少しふくよかな体型といった、絵に書いたような王様だったはずだ。
「り、リシャルト様。国王陛下の様子が変な気がするんですけど、何かあったんですか?」
こそっと小声でリシャルト様に尋ねると、リシャルト様はにっこりと笑って「さぁ」と言った。
「僕のキキョウによからぬ事を言った天罰でも当たったんじゃないですかね」
あくまでもさわやかに。リシャルト様は笑顔を浮かべている。
――あ、これはこの人が裏でなんかやったんだな。
悟った私はもう触れないことにした。
よれよれの国王が玉座に座ったと同時、私たちが入ってきた方の扉が開かれる。
部屋に入ってきたのは、両腕を紐で縛られ衛兵に連れられているアルバート様とエマ様だった。
中央まで連れられると、二人は衛兵によって膝をつかされた。
エマ様はこの間と同様に元気がない。アルバート様は捕まっているというのにまだ元気いっぱいなようで、衛兵に対して「離せ無礼者」などと、ぎゃーぎゃー言っている。
「うるさいぞ、アルバート」
国王が持っていた杖でどんと床を叩く。
「お前には見損なった」
たった一言。アルバート様に向けられたその一言は、効果抜群だったらしい。アルバート様はピタリと動きを止めた。
「な、何故ですか……、父上。俺は、父上のようになろうと常々努力してきました!」
「わしの許可無く勝手に聖女との婚約を破棄し、推薦した聖女代理は役に立たず、挙句の果てに宰相の妻を誘拐するなど……。お前には王太子としての自覚は無いのか?」
「で、ですが……!」
「アルバート。お前から王位継承権と王族の身分を剥奪する。此度の騒動の責任を取るため、国外追放の刑と処す」
「な……っ」
アルバートはなおもいい募ろうとする。しかし国王は緩く首を振って、後ろに控えていたらしいエルウィン様を呼び出した。
「今後の第一王位継承者はエルウィンとし……」
エルウィン様は国王に恭しく頭を下げている。
私はぽかんと事の顛末を見守るしかなかった。
一体これは何が起こっているんだ。歴史的に重大な場面に立ち会っている気分だ。
隣のリシャルト様は平然としていた。これも彼の想定通りなのだろう。
「そして、わしは王座から降りる……。息子の不始末は親の責任。これで誘拐の件を表に出すのはやめてくれ」
「ええ、分かりました。良きご判断ですよ」
私の隣で腕を組んで様子を見守っていたリシャルト様が、国王に向かって返事を返す。
――うわぁ。
リシャルト様がいろいろ裏で動いていることにはもう驚きはしないが、さすがに顔がひきつってしまった。
この人、多分今回の誘拐の件で国王を脅したんだな?
さすが、腹黒宰相……。




