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元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?  作者: 雨宮羽那
第5章

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幕間5・エルウィンside


 国王陛下がアルバートに対し、一ヶ月以内にエマの聖女としての力を示すように告げてから22日目。

 キキョウたちがガーデンティーパーティーに出向いていた日、エルウィンは国王の代わりの政務に追われていた。


 (リシャルトのやつ、今日は休暇をとっているからなぁ……)


 いつもであれば政務の補助をしてくれている宰相閣下は今日は不在だ。なんでも、愛しの新妻を連れて、フォート公爵家の茶会に参加するとのこと。


 (羨ましいことだ)


 エルウィンは執務机の上に山となって重なっている書類を見て、大きく息を吐き出した。


 (にしても、あの宰相閣下……。本当に食えないな)


 先日フォルスター別邸に行った時のことを、エルウィンは思い出していた。

 リシャルトとエルウィンはそれなりに長い付き合いになるが、あそこまで一人の人間に固執し独占欲を示しているリシャルトを見るのは初めてだった。

 キキョウの前でのその姿と、エルウィンが間近で見てきた、策を張り巡らし相手が気づかないうちに陥れる宰相閣下が同一人物とはなかなか思えない。


 今回だって……。国王陛下が()()()に体調を崩しているのだって、リシャルトの思惑通りだというのに。

 

  (突然味方が誰一人いなくなり、やることは全て否定され、指示には誰も従わず、挙句夜は毎晩怪異に襲われつづけていればそりゃ気も狂うな)


 国王の周囲にいる人間、というか、王城内の人間と貴族はすべてリシャルトによって買収され、エルウィン派になっている。


 もともと国王の支持率は、貴族・民衆ともに地を這うような低さだったし、アルバートを支持する貴族などはなからいなかったので造作もないことだった。

 

 民衆の支持を取り付けるのはエルウィンが主体となって行った。この国の多くの民は、戦争を望んでいない。エルウィンが和平を取り付け外交上活躍する、それを新聞で報じてもらえれば、あっという間に民はエルウィンを支持してくれた。


 国王のまわりにはもう、誰一人として味方はいなかった。


 (そもそもこれは、父上と兄上が自分で蒔いた種だ)


 エルウィンは幼い頃からずっと、父親である国王陛下のことが嫌いだった。

 エルウィンの母は伯爵家の令嬢で、当時国一番の美女と謳われていた。そんな彼女を、望んでもいない国王の愛妾にし日陰の身にした。そればかりか、彼女が病気になっても国王は一度も面会に来なかった。葬式にさえ。


 エルウィンの母は、最期に言った。

『あなたが国王になって、国を変えて欲しい』と。

 

 彼女は戦争しか頭にない国王のことを、そして自分を孕ませ人生を狂わせた男を憎んでいた。


 母が亡くなり、王家に引き取られた時、エルウィンは誓ったのだ。必ず母の願いを叶えると。

 それがようやく叶いそうだ。


 (それもこれも、リシャルトと利害が一致しているおかげだ)


 たった一人の少女を自由にするためだけに宰相閣下にまでなったのだと、リシャルトから聞いた時は本当に驚いた。リシャルトがそこまでする魅力のある女性は、どんな人なのだろうと、エルウィンはずっと気になっていたのだ。

 そんなリシャルトの想い人が、黒髪黒目で有名な聖女様だと知った時は、ある意味納得がいったものだった。


 (会ってみるとなかなか普通の女の子だった)


 エルウィンはキキョウのことを思い出す。

 興味深そうにエルウィンの外国での話を聞いてくれて、くるくると表情が変わって面白い子だった。


 (あれは、リシャルトが気に入るのもわかる気がするな)


 エルウィンはふっと笑った。

 

 アルバートは本当に惜しいことをしたと思う。もし自分がアルバートの立場なら、あんな面白そうな女性との婚約を破棄したりなんてしないのに。

 

 エルウィンがキキョウに対してこんな風に思っていることがリシャルトにバレたら、速攻で裏切られて破滅させられそうだ――。


 そんなことを考えながら、エルウィンは執務机に山積みになった書類をまた一枚手に取った。



 ◇◇◇◇◇◇


 

 ――アルバートとエマ、そして国王への断罪の日まで、あと二日。

 

 

 

 

 

 

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