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元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?  作者: 雨宮羽那
第4章

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33・宰相の妻はなにかしてあげたい③


 そうして夜も深け、時刻は午後10時。

 私はマグカップが二つ乗ったトレーを持って、書斎の前にいた。片方はブランデー入りのホットミルク。もう片方は普通のホットミルクだ。


 リシャルトは夕食を食べたあと、仕事をすると言って書斎に入っていった。

 ハーバーさんに聞いたところまだ仕事をしているようだったので、これは差し入れチャンスだ。と勢い込んでホットミルクを用意してきたはいいものの。

 

 ――少し、緊張する……。


 こんな夜遅くにリシャルト様のところへ行くのは初めてだった。

 私とリシャルト様は書類上夫婦ではあるが、夜を共にしたことはない。手を繋いだり、キスをされたことはあるけれど、この20日間かなり清らかな結婚生活を送っていた。


 ――夜に夫の部屋に行くって、()()()()意味に取られないかな……。


 私はこれでも一応、前世では22年、今世では16年生きてきている身だ。

 経験は無いけれど、恋人や結婚した夫婦がするであろう営みの知識だけはある。

 ああ……。ちょっと切ない……。貞淑と言えば聞こえはいいけど、こんなの胸を張って言えることじゃないんだよなぁ。

 相手がいるけど操を守った、とかではなく、そもそも前世も今世も相手がいなかったんだから。


 まぁ、それは今までの話だ。

 今は一応、両思いで結婚をしている旦那様がいるわけだ。

 別にリシャルト様と一線を超えたくないというわけではないし、もしそういう行為をするならリシャルト様がいいけれど……。

 そういうつもりで訪問するのではなく、差し入れをしたいだけだから、ここで一線を踏み越えたくない、というのが本音だ。

 

 まぁ、リシャルト様だから大丈夫でしょ。

 なんの根拠もなく私は思う。

 今までそういう手出しをされたことはないし、あの人はきっと私が嫌がることはしない。

 この短期間急速に縮められた距離だが、私はリシャルト様のことを信頼していた。

 

 そんなことよりも、ホットミルクが冷める前に持っていかないと。


「リシャルト様、入ってもいいですか?」


 書斎の扉をノックをして呼びかける。

 すると、すぐに扉が開いた。


「キキョウ? こんな時間にどうしたのですか?」


 寝る前だからか軽装のリシャルト様は、私の姿を見て少し驚いているようだった。いつもつけている片眼鏡(モノクル)も外していて新鮮だ。

 だが、リシャルト様の顔色があまり良くない。

 やっぱり疲れている……。


「差し入れを持ってきたんですけど、いかがですか……?」


 私がトレーを持ち上げると、リシャルト様は嬉しそうに目元を緩めた。


「ありがとうございます。どうぞ、中へ」


 リシャルト様に促されて、私は書斎の中に入る。

 書斎の中は屋敷の他の部屋と同様に、アンティーク調の家具で揃えられていた。

 暖かな橙色のランプが、部屋を取り囲むように配置された本棚を照らしている。

 部屋の奥には執務机があり、リシャルト様はどうやらそこで仕事をしていたようだった。机の上には書類が散らばっている。


「お仕事の邪魔をしてしまいましたか……?」


 部屋の中央にあるソファにリシャルト様が腰掛ける。

 私も続いて隣に座った。

 トレーはローテーブルの上に置かせてもらおう。


「いいえ。あなたが来てくれて良かったです」


「どうしてですか?」


 微笑むリシャルト様の言葉に私は首を傾げた。

 私が来てよかった、とはどういうことだろう。


「ここ最近の状況を考えて、さすがの僕も、今後が怖くなってしまいまして……」


 リシャルト様は自嘲気味に笑う。指を組んでどこか遠くを見る横顔には、疲れが滲んでいた。


「エマ様が今、聖女代理になっていることはご存知ですよね?」


「え、ええ」


 私はリシャルト様の言葉に頷いた。

 城下街でニコラと遭遇した時、そのことは聞いた覚えがあった。


「エマ様が聖女代理でいられるのは一ヶ月の間なんです。それまでに聖女の力を示さなければ、エマ様もエマ様を推薦したアルバート殿下も破滅するでしょう」


「……っ」


 静かに告げられた内容に、私は思わず息を飲んだ。

 私の知らないところで、そんなことになっていたのか。


「その一ヶ月の期限が、あと10日に迫っている」


 リシャルト様は私に視線を向けてきた。彼の青い瞳が心配そうに揺れている。


「未だ聖女として力を示せていないエマ様やアルバート殿下からしたら、もう後がない状況です。つまり――」


 リシャルト様はそこで言葉を止めた。まるで、続きを言うのを躊躇っているかのようだ。私がリシャルト様の瞳を見返すと、覚悟をきめたようだった。


「――何をしてくるか分からない。もしかしたら、あなたに危害が及ぶかもしれない。そう考えたら不安でたまらないんです」


「リシャルト様……」


「もちろん、すでに裏で色々と手は打っています。あなたのことは必ず僕が自由にしてみせますし、守ります。ですが――、もしエマ様やアルバート殿下が接触してきたら、逃げてください」


 リシャルト様に真っ直ぐな瞳を向けられて、私は困惑してしまった。

 

 エマ様やアルバート様が、私になにかしてくるかもしれない?

 そんな馬鹿な、と思う。だってあの人たちは、私のことを散々『お飾り聖女』だとバカにしてきたはずだ。念願通り、私を解任したのだからもう用はないだろう。


 だけど、と思う。あの二人に時間が残されていないのなら、確かに何をしてくるか分からない。


「分かり、ました」

 

 私はリシャルト様にそう返すしか無かった。


 


 

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