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最終話


 ―――この日、多くの者が集まる中、式典が開かれていた。

 多くの人々の注目を集めた式典は謁見の間では足りず、王都の広場で行われている。

 貴族と民衆が見守る中で、その式典は行われていた。


「ルーティア・リーンイアよ。そなたを英雄と認める!」

「謹んでお受け致します」


 俺は立ち上がり、王を見上げた。

 横に立つ大臣から、王へと豪華なティアラが渡される。

 普通は冠なのだそうだが、俺は女なのでティアラを作らせていたそうだ。


 それをゆっくりと俺の頭の上へと持って来る。

 王は小さく「この日をどれだけ待ち望んだか。やっとお前を称えることが出来る」と呟くように言った。


「えっ―――」


 その意味を理解する前に、ティアラが載せられた。

 その瞬間、歓声が巻き起こる。


「さぁ、皆に顔を見せてやりなさい」


 そう言われて振り向くと、皆嬉しそうに手を挙げている。

 その嬉しそうな顔を見渡して漸く実感する。

 うん、俺はやり遂げたんだ―――。


「次に、エクレア・レディタック。前へ―――」

「待たれよ!」


 エクレアが前に出ようとしたそのとき、どこからか声が掛かる。

 前に出てきたのは隣国の王子だった。


 まぁやっぱり出てくるよな。

 エクレアが英雄になってしまえば、国は決して手放せなくなる。

 そうなってしまえば当然婚約など破棄されるだろう。

 それを阻止したければ、エクレアが英雄になることを認めるわけにはいかない。


「エクレア王女は俺の婚約者だ。国同士の取り決めを無視するおつもりか!」


 王より先にエクレアが前に出る。


「丁度良い機会ですから、言わせていただきましょう」

「一体何を―――」


 王子が困惑したように声を上げる。

 だが、王子の言葉を待たずエクレアは、


「私エクレア・レディタックは、シューザー・ローデンフェルトとの婚約を正式に破棄します!」


 と宣言した。

 国交破棄にも繋がり兼ねない宣言に、広場は静まり返る。


「何故だ!」

「真実の愛を見つけたからです」


 激昂する王子に、エクレアは事も無げにいうと俺に近寄り手を取った。

 ―――真実の愛とはまた凄い言い方だな。

 王子との婚約が偽物の愛だって言いたいんだと思うが。


「お、女同士ではないか!」

「ルーティアはこの小さな体で、討伐を成し遂げました。ただ私を幸せにしたいが為に」

「だから何だというのだ!」

「何もしなかったあなたと、一生懸命戦った小さき英雄。どちらを選ぶかは明白―――」


 そこまで言ったエクレアは思い立ったように言葉を切った。

 そして「いえ、違いますね」と前置きした上で続けた。


「その思いに応えるのは王族の義務です!」


 エクレアが俺の顔を覗き込んでくる。

 ―――だけど。

 俺はまだ結論を出せてはいない。

 女の俺にエクレアを幸せに出来るのだろうか?

 いくつもの間違いをしてしまった俺に、エクレアを幸せにする権利はあるのだろうか?


「ルーティア、愛しています」

「ですが、私は女で、私にあなたを幸せにすることなんて……」

「では問いましょう」


 エクレアは起き上がって観衆に向かって大声で言った。


「小さき英雄に応えるのが正しいか否か!異議がある者は声を上げなさい!」


 静まった広場には足音すらも聞こえない。

 時間が過ぎ、俺が辺りを見回してもそれは変わらなかった。


 ―――なんで?

 貴族はそういうのうるさいんじゃなかったのか?

 いや、それ以前に、俺にはエクレアを幸せにすることなんて……。


「で、でも、お前を守ることが出来なかった……」

「私はあなたのことが好きですよ。ずっと、ずっと―――。私があなたを恨むわけないじゃないですか」

「そんなこと……」


 どうやって信じれば良い?

 相手のことを気遣うことも出来ず、我を押し通すことしか出来ない。

 それどころか頼れるような力も失ってしまった。

 今の俺に出来るのは不安を隠して強がることだけだ。


 いや、エクレアだけなら積み重ねた信頼関係がある。

 でも他の人は?

 こんな頼りない令嬢が相手だなんて一体誰が認めるんだ?


「それにお父様もルーティアのお父さんも既に私たちを認めていますしね」

「―――いつ?」

「王女が付き従うのは結婚を認めた相手だけですよ?」


 それってもしかして授与式のこと?

 父が認めると言っていたのは、俺とエクレアの関係のことだったんだ―――。


 近くにいる父に顔を向けるとゆっくりと頷いた。

 王へと振り向くと、同じようにゆっくりと頷く。


 ―――本当に?

 俺は、ルーティを好きでいて良いのか?

 ―――幸せになっても良いのか?


 涙が零れる。

 滲んだその先には、いつも俺の側に居てくれたルーティの優しい笑顔があった。


「異議はないようですよ。ルーティア?」

「おれ―――わ、私は、お前のことが―――」


 もう景色が滲んで何も見えない。

 ルーティ、お前はどんな顔をしている?


「お前のことが好きだっ!誰にも渡したくない!」

「ええ、私もです」


 その言葉と共に唇が塞がれた。

 思わず、力いっぱい抱きしめる。


 辺りからは、大地を揺るがすかというほどの歓声が響いた。

 その歓声はいつまでも止むことはない。


「み、認めないぞ!」


 王子の言葉に場が静まり、仕方なく離れた。

 王子が青筋を立ててこちらを指差してくる。


「お前が今何をしたのか理解しているのか!これは我が国への宣戦布告に等しいぞ!」

「構わん」


 その言葉と共にコルツとセルフィが俺たちの前へと躍り出た。

 少し遅れてウィルも壇上に登る。


「英雄に救われた命だ。英雄の為に捨てられるならば惜しくはない」

「あら、私は惜しいわよ?だけどね、大事な弟子を不幸にするのはもっと嫌」

「俺はもう傭兵を引退した身だが、仲間に危害を加えるならば別だ」


 すると、討伐に参加した他の者も集まり、王子との間に壁を作る。


「戦争をしたければ勝手にするが良い。だが、お前に俺たちを越えられるか?」

「な、な、な―――」

「あなたにその覚悟はあるのかしら?」


 格好良く決めているところ悪いんだが、壁が高過ぎて全く見えない。

 ―――王子はどうなったんだ?

 まぁ攻め込んでくるっていうなら迎え撃つだけだ。

 そこへ同じく向こうが見えないエクレアがこっそり話しかけてくる。


「攻め込んでくることは恐らくありませんけどね」

「そうなの?」

「未だ誰も成し得なかった、討伐から生還した軍団ですよ?」


 この王子は知っているか分からないが、魔物の巣を討伐するために出来ることは何でもやった。

 禁忌と言われる魔法でさえも。


「―――確かに、戦いたくないわね」

「お体を悪くしている王には、申し訳ないことをしてしまいました」


 あぁ、廃嫡か。

 式典を邪魔した挙句に、勝手に宣戦布告までしたんだもんな。

 そんな奴を次期国王になんて絶対無理だ。

 もしかしたら廃嫡では済まされないかも知れない。

 でもまぁ近々王の病気を治しに行く。そうすれば次を見つけられるだろう。

 

「隣国の王子など、どうでも良いではありませんか」

「まぁ、そうですが……」


 それは流石に失礼じゃないだろうか?

 いや、それは俺がルーティを幸せにするための最大の障害と考えていたからそう思うだけかも知れない。

 エクレアにとってはどうでも良いことなのだ。

 「もう十分相手をしてあげたでしょ?」とでも言いたげだ。


「でも彼のお陰であなたの本心を聞くことが出来ました。その点では感謝ですね」


 そういうとエクレアは「んっ」と顔を近づけてくる。

 これは俺からしろってことか……。

 今度は俺から口づけを交わす。


 遠くで王子が喚く声が聞こえる。

 多分「絶対後悔する」みたいなことを言ったと思う。

 しかし、王子の声に耳を傾けていたのがバレたのか、エクレアが首に手を回してきた。


 少ししてから離れると、皆こちらを見ていた。

 皆の目には心なしか呆れが混ざっているように感じる。


「お、王子は!?」

「帰ったぞ。それより割と良いこと言ってたと思うんだがなぁ」


 コルツが拗ねたように言う。


「あら、もっとしてて良いのよ?」


 セルフィが楽しそうに笑う。


「これだけの苦難にも負けず結ばれるなら最早運命だろう。どうかお幸せに―――」


 ウィルが相変わらず信仰の強そうなことを言う。


「二人とも、反対はしないがもう少し場を弁えるように」


 後ろからは王がそんなことを言って来た。

 王はずっと見えてただろ!見てないでもっと早く止めろよ!


「もう知りません!」


 皆が一斉に笑う。

 最早厳正な雰囲気など微塵もない。

 続けられた式典は、和やかな雰囲気の中進められた。


 ―――これが俺の矜持を貫いた結果だ。

 ルーティが幸せになればそれで良いと思っていた。

 でも、皆が笑って、俺も笑って―――。

 俺は、もっとルーティを幸せに出来るかも知れない。


 だから俺は新たな目標に向かって、矜持を紡ぎ続ける―――。


これで本編は終わりとなります。いかがだったでしょうか?

少しでも面白いと思っていただけた方は評価、感想など、よろしくお願いします!

後書きは長くなりそうなので活動報告に書こうと思います。

よろしければ読んでください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです きれいに纏まっていて、文章が読みやすかったです
[良い点]  完結お疲れ様でした。  20万文字を超える小説をこの短期間で執筆したのは素晴らしいです。  次回作にも期待します。
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