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第五十二話


 パレードは何事もなく終わった。

 今日はこのまま出発してヴァリアントで一泊し、明日には討伐へと向かう。


 出発する直前、王に呼び止められた。


「―――何かありましたか?」

「家族に挨拶していきなさい」


 良く見ると、隣には両親が立っていた。


「体の弱かったお前がここまで元気になるとは思っていなかった」

「―――少し張り切り過ぎてしまったかも知れません」

「駄目だと思ったら逃げても良いからな」

「いえ、準備は万全ですから」


 前回と同じなら、余裕を持って討伐出来るよう訓練をしてきた。

 核が減った分規模は大きくなるだろうけど、それを踏まえても生還出来る見込みだ。


「それでも、心に留めておきなさい」

「―――はい」


 大丈夫なことは父だって理解している筈。

 それでも心配せずにはいられないのだ。

 俺は逆らわずに頷いた。


 すると、母が一歩前に出る。

 そのまま俺を抱きしめてきた。


「私は今でも行って欲しくないわ」


 母は討伐に関して今まで何も言わなかった。

 公爵夫人として、ずっと我慢していた筈だ。

 でも、遂に我慢出来なくなってしまったのだろう。


 今まで生きて帰った者のいない討伐。

 両親は俺が二度と戻らないことを覚悟しているのかも知れない。


「今まで協力してくれてありがとうございます」

「必ず帰ってきてね」

「はい、必ず戻ります」


 それだけ言うとお互いに離れた。

 このまま一緒にいると離れられなくなってしまう。


「では、行って参ります」


 俺は両親と王に手を振り、馬車へと乗った。



  ◇



 ヴァリアントへ到着すると、多くの騎士たちに迎えられた。

 騎士たちの中心にはフィデリア王国の旗が立っている。

 予定通り城塞都市の防衛に来てくれたのだろう。


 俺は馬車を降りると、エクレアと一緒に指揮官へと挨拶に向かう。


「フィデリア王国の騎士様、この度は援護していただきありがとうございます」

「いえ、討伐の成功をお祈りしています」


 そこへ豪華な服を来た女性が駆けてきた。


「エクレア!」

「お、お姉様!?」


 エクレアが驚いて声を上げた。


「えっ、お姉様って―――」


 フィデリア王国に嫁いだという、あのお姉様?

 でも、言われてみればエクレアに良く似ている。

 エクレアが大人になったらこんな感じになるのかも知れない。

 そのお姉様が、一体どうしてこんなところにいるんだ。


「エクレアが討伐に参加するって聞いて、居ても立っても居られなくて来ちゃったわ」


 エクレアは困ったように笑った。

 そりゃあ次期王妃になるかも知れない人がこんなところにいれば誰だって困る。

 しかもこんな人がいるところでは言いたいことも言えない。


「と、とりあえず中へ入りましょう」

「そうしましょう!」


 俺とエクレアは、お姉様を押すようにして急いで城へと入った。

 慌てて応接間を準備して貰い、息を整える。

 しかしエクレアはそれすらも惜しいかのように声を上げた。


「なんでこんなところにいるの!」

「だって、これで最後かもしれないのよ?」

「だからってこんな危ないところに来なくても良かったじゃない!」

「エクレア、ちょっと落ち着いて―――」


 エクレアの気持ちは分かるけど、もう既にここへ来てしまった。

 それを今更言ってもどうしようもない。

 今は頭に血が上っているが、落ち着いて考えればエクレアだって分かるだろう。


 俺はエクレアをなんとか落ち着かせた。

 エクレアは座って出されたお茶を一口飲んでから、深い溜息を吐いた。


「―――お父様には何か言ってあるの?」

「いーえ、黙ってきたわ」


 エクレアは更に深い溜息を吐く。


「フィデリアの国王は知ってるのよね?」

「いーえ、知らないわ」

「……それって大丈夫なの?」

「手紙を残して来たから大丈夫よ」


 それを聞いたエクレアは頭を抱えた。


 エクレアのお姉様は大分変わり物のようだ。

 フィデリア王国に嫁いだこともあって話題に上らなかったからなぁ。

 ―――ところで名前はなんて言うんだろう?

 困ったな。フィデリアのお偉いさんの名前を知らないなんて言えないぞ。


「ルーティアちゃんも元気になったようで良かったわ」

「―――えっと、ありがとうございます」


 やばい、こっちに話を振られてしまった。

 な、なんとかバレないようにやり過ごさないと―――。


「あら、緊張してるの?」

「そ、そうかも知れません!」

「気にしなくても良いのよ?」


 そんなこと言われても無理だって!

 下手なことを言えば外交問題に発展してしまうかも知れないんだぞ。


「ふふふっ、そういうことね」

「エクレア、何か分かったの?」

「ルーティアったらお姉様の名前が分からなくて困ってるのよ」


 な、ななな、何で言うんだよ!

 このまま緊張してることにすれば誤魔化せたかも知れないだろ!?


「私のこと忘れちゃったの?お姉ちゃん悲しいわ……」

「い、いえ、あのその―――」


 うぎぎ―――、こんなの一体どうしたら良いんだ!


「ふふふっ、ルーティアちゃんすっごく可愛いわね」

「お姉様もそう思わよね!」


 ―――はああぁ。

 とりあえず落ち着け。

 エクレアのお姉様はとりあえず怒っていない。


「い、意地悪しないで教えてください」

「あら、公爵令嬢が隣国に嫁いだ王族の名前を知らないなんて外交問題よ?」

「そ、それは―――」


 そんなこと言うけどその顔は楽しそうに笑っている。

 でも、外交問題を引き合いに出されてしまうと、そんなことないと思っていても何も言えなくなってしまう。


「―――少し遊び過ぎたわね。私はソフィアよ」

「ありがとうございます。ソフィア様」

「あら、昔のようにソフィアお姉ちゃんって読んで良いのよ」

「ええっ」


 俺が昔ソフィアと会ったことがある……?

 そうだとしたらとんでもない大失態をしでかしたことになる。

 ―――いや、俺は昔は特に体が弱かった。

 ほとんどベットから起きられなかったのに、来客の相手なんて出来たとは思えない。


「それ、本当のことですか?」

「ふふふっ、ばれちゃったわね」


 ソフィアはちろりと下を出した。

 おいおい、ちょっと自由過ぎやしないか?

 フィデリア王国も苦労してそうだ。


「そんなことより、エクレアは話をしなくて良いの?」

「そうだった!お姉様!」

「な、なによ」


 ―――ふぅ、助かった。

 俺に向いていた矛先はソフィアに移った。

 これでしばらくは安全だろう。


「ルーティアちゃん助けて!」

「えっと―――」


 そう言われてもなぁ……。

 いくら元レダティック王国の王族とは言え、何も言わずに他国へ来るってのは大問題だ。

 エクレアの方が圧倒的に正しい。


「さっきすぐに止めてあげたでしょ!」

「それは、そうですけど」


 だからって俺がソフィアに加勢するわけにいかないだろ。

 ―――うん、やっぱりここはどうしようも出来ない。


「私も一緒に聞きますから、それで我慢してください」

「もう!ルーティアちゃんの意地悪っ!」


 ソフィアは頬を膨らませながらぷいっと横を向く。

 それを見たエクレアは諦めたように軽く溜息を吐いた。


「―――もう良いわ」

「ホント!?」

「これ以上付き合ってたら討伐に支障が出ちゃうもの」

「やったー!」


 ソフィアは両手を上げて喜んだ。

 ……もしかして貴族ってこんな感じなんだろうか?

 貴族の多くがこんな感じだとしたら、確かに俺は貴族っぽくない。

 でも、これが貴族だとは思いたくないんだが……。


「あれで普段はまともなのよ」

「え、これで?」


 エクレアが小さい声で話しかけてきた。

 とてもじゃないけど、そうは思えないんだが……。


「きっと私たちが緊張しないように気を使ってくれてるんだわ」

「ま、まぁ確かにこんな空気で緊張なんてしようがないけど」


 それが本当なら、優しい姉であることは確かだろう。

 でも、まともと言われてもちょっと信用出来ない。

 こんなにテンションが高いと疲れてしまうから、もう少し抑えて欲しい。


「お姉様、私たちはそろそろ寝るわ」


 ―――あ、もうそんな時間か。

 外をみれば暗くなりつつある。


「え、もう寝るの?」

「はい、明日は夜明け前に出発する予定です」


 巣の討伐は数日~十数日掛かるとは言え、日の出ている時間は長い方が良い。

 日が出ている内に戦闘を安定させないといけないしな。

 魔物を倒せば、消滅して魔力に戻るまで復活しない。最初が肝心だ。


「それなら久しぶりに一緒に寝よ?」

「―――わかったわよ」

「エクレアちゃんも」

「はい、わかりました」


 本当は一人で寝たかったけど、断れる人じゃない。

 諦めてソフィアと一緒に寝ることにした。

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