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第四十九話


「急に呼び出して悪かったね」


 大規模戦闘訓練を始めてから約三ヶ月後、俺はエドマンに会うために王城を訪れていた。


「いえ、どのようなご用件でしょうか?」

「訓練の調子はどうか聞きたくてね」


 ―――なんでそんなことを聞くんだ?

 防衛大臣であれば他の者から既に報告を受けているだろう。

 だから、俺がどう思うかを聞いている。


 普通だったら指揮官としての適性を測ったりするのだと思うが……。

 そういうのは代わりがいなければ意味がない。

 まさか数ヶ月間で俺を育てようなんて考えているわけでもあるまい。


「何か返答に迷うことでもあったのかい?」

「防衛大臣が何を知りたいのかを考えていました」

「ふむ、それなら今の戦力で討伐出来るかを教えて欲しい」


 討伐が出来るか、ね。

 それだったら今のままでも成功するだろう。

 魔物が増えていることから核の魔力が増えていることは容易に想像出来る。

 だが、こちらの戦力だって前回より遥かに多い。

 更に魔法も使えるし、俺は通常はあり得ない二度目の討伐だ。


 最悪でも魔法使いだけを守って、相手を釘付けにしていれば討伐だけなら成功するだろう。


「討伐なら今のままでも確実に成功出来ます。しかし、生還するには少し足りないと思います」

「―――なるほど」


 本当ならば聞かれたらすぐにでも行ける状態にしておきたかった。

 その瞬間はいつやって来るか分からない。

 まだ足りないって思っていても、やらなければならなくなることもある。


「申し訳ありません」

「いや、こちらも装備の手配等が終わってるわけではないからね。最低でも三ヶ月は先になる」


 装備の手配は早い方が助かる。

 傭兵たちの武器は何年も使い続けて、修理では誤魔化せない者も数多くいる。

 そのために装備の手配は大分前に済ませていた。

 本番までにボロボロにするわけにはいかないので何度も使うわけではないが、新しい武器に慣れておくことは重要だ。


「それだけあれば、最低限形にはなると思います」


 期限まで半年を残して形になる。

 だが、それで十分と言えるかは分からない。

 それを確実なものにしていくには細かい調整が必要だからだ。


 新たな問題が見つかれば進捗が後退してしまうことあり、先を読みづらい。

 それに、一年という期限が確実に担保されているとも限らない。

 ギリギリになってしまうことは避けたいが……。


「ふむ、期限のことを気にしているのか?」

「―――そうですね。討伐しても間に合わなかったのでは意味ないですから」

「期限は大事だが、まずは確実に討伐することを考えてくれ」

「ですが―――」

「それを何とかするのが私たちの仕事だ」


 エドマンが気を使ってくれているのは分かる。

 間に合わないとなれば、それこそ何でもしてしまいそうだ。

 だがそれは、俺の望むところではない。


「いえ、やれるだけやらせていただきます」

「そうか、その気持ちは受け取らせて貰おう」


 エドマンはそう答えてくれたが、少し残念そうな顔をした。

 ―――少し意固地になり過ぎたかも知れない。

 折角善意で言ってくれているのだから、素直に受け取っておけば良かった。


「―――その、気を悪くされたのでしたら申し訳ありません」

「いや、良いんだ。君を見ていると昔を思い出すよ」

「昔とはエクレールのことですか?」

「あぁ、その通りだ」


 俺にエドマンと会った記憶はない。

 傭兵と貴族という身分の差があったため、俺はほとんど王としか話すことはなかった。

 後は当時騎士団長だったコルツくらい。


 だが、それは俺から見えないというだけだ。

 エドマンは俺の話を聞く機会もあっただろうし、同席したこともあったのだろう。


「真面目というか頑固というか、兎に角一直線な男だったよ」


 ほとんど会ったことがない筈のエドマンも、俺をエクレールに似ていると言うのか。

 俺はかなり分かりやすい性格だったらしい。

 ここで俺がエクレールだと言ったらどんな反応をするだろうか?


「―――ふふふっ」

「何か面白いことでもあったのかい?」

「私の名前はルーティアですのに、皆して私をエクレールに似てると仰るからです」

「そういえばそうだったな。公爵夫人は残念に思っているかも知れない」


 母はルーティのようになって欲しいと言っていたからな。

 悪いことをしてしまった。


「母には申し訳ないことをしてしまいましたが、これが私の決めた道です」


 俺の言葉にエドマンは優しげな顔で頷く。

 そして、ふと思いついたようにこちらを見た。


「その話で行くと、王女殿下の方がルーティに似ているな」

「それは私も不思議です。私よりも王女殿下の方が適任でしょう」


 別に俺でなくとも、エクレアなら俺以上に指揮を執れたと思う。

 王女としての役目はあるだろうけど、そのくらいなら周りがサポートすれば良い。

 俺もエクレアなら譲っても一切不満はない。


「そういうところも含めて、ルーティに似たのだろうな」

「―――そうかも知れません」


 あれだけサポートが出来るなら、俺より上手くやれただろう。

 にも拘らず、自分が上に立とうとはしなかった。

 これはもう性分としか言いようがない。


「だが、一つだけ訂正させて貰おう」

「なんでしょうか?」

「私はエクレールが長で良かったと思っている」


 それはつまり、エドマンはエクレアよりも俺の方が良いと思っているということでもある。

 王女を差し置いてやることには抵抗があるが、期待されたら応えたい。


「―――わかりました」

「少し不満そうだね?」

「何故私の方が良いのか、未だに分かっていませんから」


 俺がそう言うと、エドマンは何やら考える素振りをした。

 しばらくそうしていたが、やがて諦めたように口を開く。


「答えるのが難しいな。お前になら任せても良いと思ったのだが―――」


 そう言われてしまうと、俺にはどうしようもない。

 俺は自分のやりたいことをやっているだけだし、言ってしまえばただの我儘だ。

 それがたまたま他の人の意見と一致しただけ。


 これが俺の我儘であることはエドマンも分かっているだろう。

 ヴァリアントでの功績があるとは言え、討伐をしたいとなれば話は別。

 子供の我儘と思われてもおかしくなかっただろう。

 それでも、皆俺の我儘に協力することに決めた。


 そこにどんな考えがあったのかは俺には分からない。

 エドマン自身も言葉に出来ないというなら尚更だ。


「そう思わせてしまうからこその英雄なのだろう」


 それはちょっと酷い言い草だ。

 そう思わせてしまうお前のせいだと言っているようなものだからな。


「英雄と呼ぶのはまだ早いですよ」

「少なくとも討伐は成功するのだろう?」

「それは―――、そうですが」


 確かに討伐すれば、戦死しても英雄は確定か?

 でも、そういう風に言われると少し不安になってくる。


「少し意地悪をしてしまったな」

「本当です!」


 エドマンはからからと笑った。

 落ち着いた雰囲気のエドマンもこれほど笑うことがあるんだな。


「悪かった。今日はこの辺にしておこう」

「はい、承知しました」

「次に会うのは出征パレードの打ち合わせかな?」


 そういうのはちょっと……。

 出来れば断りたいのだが、どう断れば良いのか分からない。

 前世は傭兵だけだったので回避出来たんだが……。


「お前は苦手かも知れんが、何もしないというわけにはいかんぞ?」

「で、出来るだけ小さめでお願いします……」

「善処はする」


 それって「結局駄目でした」になるやつじゃないか?

 顔も口調も出来るとは一切言っていない。


「本当に本当に、お願いします!」

「ま、まぁ落ち着きなさい。陛下には進言しておく」


 エドマンから感じられるのは、見るからに駄目そうな雰囲気だ。

 か、覚悟だけはしておこう……。


「それでは失礼します」

「何か話したいことがあったらいつでも来なさい」


 エドマンに挨拶をして部屋を出た。

 ―――はぁぁああ~、やらなきゃなんないのかぁ。


「大丈夫ですか!?」

「後で話すわ」


 がっくり肩を落としたことで、外で待っていたミーティアに心配されてしまった。

 こんな姿を周りに見せるわけにはいかない。

 俺は足早に王城を後にした。

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