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第四十八話


「中々悪くなかったんじゃないか?」


 コルツが開幕一番に言った。

 その言葉に周りも頷く。


 大規模訓練の一回目が終わり、五人で反省会することとなった。

 俺は想像以上に魔力を使ってしまい、正直明日にして欲しかったりする。

 恐らくエクレアも似たような状態ではないだろうか。


 でも、そのお陰もあって重傷者は一人もおらず、参加した者の士気も高い。

 早い内に次を考えたいところでもある。


「皆やる気になっているようで良かったわ」

「傭兵たちも課題が見えて大分やる気になってるしな」

「次は魔法使いも戦闘に参加出来るかしら?」


 魔法は当たるとダメージが大きいからなぁ。

 何かしらルールを決めておかないと怪我人が続出しかねない。

 悩む俺を見たエクレアが口を開く


「授与式に使ってた光魔法みたいな攻撃以外の魔法を使えば良いんじゃない?」

「それなら風魔法が良いわね。空気の玉を飛ばして衝撃を与える魔法があるわ」

「衝撃って、―――大丈夫なの?」


 ただでさえ人が密集してるのに吹き飛ばしたりしたら、人に押しつぶされるかも知れない。

 鎧を着ればかなりの重さになる。

 一人二人上に乗っただけでもかなり危ない。


「転ばないくらいに威力を抑えれば大丈夫でしょ」

「それなら大丈夫だと思うけど……」


 受けたら戦闘不能でも良いんだけど、人が密集してるとその場に立ち止まるのも危険だからなぁ。

 想定している陣形ではあまり出来ることがない。


「基本的に弓と同じだから、掃射のタイミングを合わせるとかが中心になると思うわ」

「それは仕方がないけど、乱戦も少しは経験させたいのよね」


 セルフィの言うことも最もではある。

 弓使いは敵に近づかれたら剣を抜いて戦えば良い。

 しかし、魔法使いは剣で戦えるほど体を鍛えているわけではない。


「それなら十人くらいに人数を絞っての戦闘訓練の方が良いだろうな」

「それもそうね」

「あら、魔法なら乱戦でも遠くを狙えるわよ」


 セルフィはそう言うと、手のひらに浮かべた光の玉を飛ばし、俺の周囲を纏わりつかせてみせた。

 その後はセルフィの指に合わせて、光の玉が動く。


「弓と違って飛ばした後も自由に動かせるのね」

「ここまで自在に操れる魔法使いは少ないけどね。でも、一人出来るようになった方が良いでしょ?」


 確かに、今出来なくてもこれから出来るようになれば良い。

 そのために訓練しているわけだしな。


「それなら様子を見ながら少しずつ人を増やして行くわ。それで良い?」

「ええ、お願いね」

「他に何かあるかしら?」

「騎士は特にないぞ」

「傭兵もないな」


 騎士は元から訓練を重ねているし、傭兵はまだ細かく指示を出すより空気に慣れさせる段階だ。

 何より色々やってみてどれだけ動けるか確認しないと、俺たちも指示の出しようがない。


「それなら次はいつにしようかしら?」

「それなんだが、二週間後くらいにしてくれないか」


 コルツがそう言った。

 ―――二週間後か。

 個人的にはもう少し早い方が良いのだが。


「どうして?」

「今日の訓練で各々思うところはあった筈だ」


 なるほど、自主的に訓練させるってわけね。

 大規模な訓練では一人ひとり見ることは出来ない。

 だが、個人の能力も勿論大事だ。


 どれだけ指揮が有能でも、兵が全くやることを把握せず出鱈目に動いてたらまともに動ける筈がない。

 訓練でやったことを個人の実力に落とし込む時間が必要だ。

 でもそれなら騎士よりも傭兵の方が時間が掛かるだろう。


「二週間あれば、ウィルも大丈夫かしら?」

「それだけあれば間に合わせる」


 ウィルはその言葉とは裏腹に自信がありそうだ。

 余裕とは言えずとも十分間に合う算段があるのだろう。


「分かったわ。エクレアもそれで良い?」

「ええ、私のことは気にしなくて大丈夫よ」

「―――本当に?」


 そうは言ってもな。

 ローデンフェルト次第ではそうも言ってられないんじゃないか?


「ふふふっ、もう始めちゃったもの。後は転がり落ちるだけだわ」

「転がり落ちるって―――」

「今日の訓練は流石にローデンフェルトも把握してるわよ」


 それもそうか。

 もう後戻りは出来ないってわけね。

 後は俺たちが早いかローデンフェルト王国が早いかの勝負。


「だからって焦っちゃ駄目よ?」

「分かってるわよ」


 エクレアが釘を刺してきた。

 俺だってそのくらいは分かってるつもりだ。

 焦って失敗でもすれば、それこそ相手の思う壺。

 それはローデンフェルトだって同じだ。

 下手にちょっかいを出せば、フィデリア王国だけでなくノースバロニア王国もこちらへ付くかもしれない。


「馬鹿王子だって、これから戦争しようって国に来たりはしないでしょ」


 ……いやー、あの王子だと分からんぞ?

 臣下の者が必死で止めてくれると思いたいが。


「―――本当にそうかしら?」

「そうなったらもう容赦しないわ」

「捕まえて人質にするのね」

「どちらにせよ、もう穏便に済ませる道は無いわ」


 王子を捕まえれば相手を刺激してしまう可能性もあった。

 でも、こちらはローデンフェルトとの約束を蹴って討伐を強硬する。

 その上、禁忌とされている魔法まで投入するんだ。

 王家はこうなる前に何か出来なかったのだろうか。


「ここまで自分を追い詰める必要あったのかしら?」

「―――多分どうしようもなかったわ。元はノースバロニアへの対抗策だったみたいだから」


 そう言えば、ノースバロニア王国とも領地で揉めてるんだったな。

 そこでローデンフェルトに協力を求めたらこうなったってわけか。


「それって向こうが裏切ってることにならない?」

「そうよ。表に出していないだけでね」


 ―――協力する方が賢いと思うんだけどなぁ。

 そうすれば少しなりとも領地が増えていただろう。

 でも、ローデンフェルトは多くの領地を奪い取るために静観する道を選んだ。

 そのせいで俺たちは動いてしまっている。


 でも、それでローデンフェルトの目論見が失敗しても自業自得だ。

 レダティック王国に協力しなかったのが悪い。


「是非とも思い知らせてあげなければならないわね」

「もう既に後悔してるかも知れないけどね」


 エクレアの言う通りかも知れない。

 でも、この程度では反省しないだろう。


「あら、こんなんじゃ足りないわ」

「勿論よ。全部叩き潰すわ」


 人に危害を加えることは好きじゃないが、俺の周囲を脅かすなら別だ。

 二度と攻撃する気も起きないくらいやってやる。


「あなたたちも良いわよね?」


 聞く必要ないと思うが、一応周りにも確認した。


「言われるまでもなく、国を守るのが貴族の役目だ」

「私は貴族のあれこれとは無縁だけど、魔法の発展に邪魔なのよね」

「俺の目的は討伐だけだ。邪魔するやつがどうなろうと知ったことではない」


 三人とも迷うことなく答えた。

 彼らに同意して貰えると心強い。


「―――ありがとう」


 お礼を言うと、三人は照れくさそうにする。


「私からも言っておくわ。ありがとう」

「私たちに出来ることなんて討伐だけよ?」


 国同士の話し合いに俺たちは関与できない。

 エクレアや王家がやることに比べたら、俺たちが出来ることは些細なもんだ。


「それが一番大きいんじゃない」

「そうかも知れないけど―――」

「大丈夫。討伐さえ成功すれば勝ったも同然よ」


 細かいことは俺には分からないが、エクレアが言うならそうなのだろう。


「それならもう勝ちよ」

「ふふっ、自信満々だね?」

「他国との交渉は分からないけど、討伐のことなら分かるわ」


 前回の経験を踏まえても負ける未来は見えない。

 勝つのは当然で、後はどれだけ生還させるかだけだ。


「……一応言っておくけど、相打ちじゃ駄目だからね?」

「分かってるわよ。だからこうして何度も相談しているんじゃない」


 生還となると、流石に絶対とは言えない。

 でも、今回は行ける気がする。

 そう思えるだけの仲間が出来た。


「でも、そろそろ考えるのも終わりよ」

「む、投げやりになられると困るんだが……」

「そうじゃないわよ。あれこれ考えるより体を動かす方が良いわ」


 考え過ぎても動きが鈍るだけだ。

 もう動き出してしまったんだから、がむしゃらに動いた方が良い。


 ―――いや、多分だけど。

 俺は考えたくないだけだ。

 前世だって王や親しい者を残すことに葛藤はあった。

 考え過ぎるとそういうことまで考えてしまう。


「この話は終わりよ!」


 これ以上考えないように、俺は手をパンと叩いて終わりを宣言した。

 

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