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第四十七話


 戦場に怒声が聞こえる。

 軍団がぶつかり合い剣戟の音が鳴り響く。


 今日は大規模訓練の一回目。

 皆の能力を確かめるために、二つに分けてぶつかった。


「衛生兵!怪我人をこちらへ!」


 衛生兵に連れられて怪我人がやってくる。

 担ぎ込まれた兵は腕に切り傷があった。随分深い。

 俺が手を当てると、スーッと傷が消えていく。

 うん、少し不安だったが、なんとかなりそうだ。


「はい、終わり!次お願い!」

「こちらです!


 そうして来たのは肩に傷を負った者だ。

 これも手を当てると、スーッと傷が消えていく。

 こちらも問題はない。


 俺はこの半月を回復魔法の訓練に費やした。

 モードレットとテオドールにお願いしたら快く請け負ってくれた。

 彼らは本気も本気で訓練し、何度も傷を負う。

 たまに深めの傷を負うこともあったが、俺とエクレアの二人でならギリギリ治すことが出来た。

 致命傷ではないとは言え、かすり傷以外の怪我を治せたのは大きい。

 ただ、残りの魔力からして致命傷になると無理そうだった。


 そんなことをずっとやっていると、もう少し出来そうな気がしてきた。

 これが段階が上がるということなのだろう。

 試しにやってみると、今までは蝋燭の光を照らすようなものだったのが、スッと体の中に入って行くようになった。

 すると怪我がみるみる回復していった。消費する魔力も今までの半分で済む。

 お陰で剣で切られたくらいの傷なら、俺だけでも治すことが出来る。

 エクレアの訓練もあるから一緒にいるけど。


「次お願い!」

「はい、こちらです」


 これは……今日が始めって言ったのにはしゃぎ過ぎよ。

 その患者は胸から血をボタボタと滴らせている。


「エクレア、お願い」

「ええ、任せて」


 エクレアが俺の両肩に手を置くと魔力がどんどん送られてくる。

 その魔力も使って、患者の傷を一気に治す。


 戦争の衛生兵もこんな感じなのだろうか?

 決められた手順通りにどんどん次へ次へと回していく。


「次お願い!」

「こちらです」


 次の患者は比較的軽傷の患者だ。

 このくらいなら余裕余裕。

 でも、やり過ぎないように気を付けて……っと終わり!


「次お願い!――――」


 ―――そうして目まぐるしく体を動かしていたら、鐘の音が聞こえた。


「一度休憩ーーーー!!!!」


 俺の号令を聞いた騎士や傭兵は即座に戦闘を止め、こちらへと歩いてくる。

 モードレットとテオドール、ウィルが一番前に並んだ。


 その三人を手招きして呼ぶ。


「今日が初めてだけど、そっちはどうかしら?」

「まだまだ粗いがまぁ最初だからこんなもんだろ」

「覚えることは多そうです」


 言葉とは裏腹にモードレットとテオドールは嬉しそうだ。

 基本的に努力することが好きなんだろうな。

 それに対してウィルは怪我人が多かったせいか少し暗い顔をしていた。


「少し苦労しているが、ルーティアの回復魔法があって助かってる」

「私の魔法はいつまでも使えるわけじゃないから、なるべく怪我をしないように気を付けなさい」


 あくまで訓練だから、死んでしまうほどに本気でやる必要はない。


「あぁ、先に防御の技術を学ばせようと思ってる」

「そうね、実践はずっと囲まれた状態だから、防御を学ぶのは重要よ」

「指揮官が賛同してくれるのは助かる」


 傭兵たちが騎士への対抗意識を燃やしているのか、ウィルは抑えるのに苦労してそうだ。

 騎士にも防御の訓練をさせた方が良いかも知れない。

 いざとなったら攻撃なんか一切出来なくても問題ないしな。


「防御の技術は重要よ。その内円陣を組んで全周囲への対処もやるわ」

「わかった。それまでに何とかしておく」

「出来れば円は少し小さめにして、交代しながら戦えるようになるともっと良いわね」

「ふむ、それはおいおいだな」


 対魔物を想定するなら、囲まれた状態で耐えるのが前衛の一番重要な仕事だ。

 攻撃するだけならば後ろの魔法使いたちが片っ端から倒してくれる。

 騎士や傭兵は防御さえ出来ていれば、それだけで仕事の七割くらいは終わってる。

 残りは、短い時間で休憩を取ることと、素早く前後を入れ替える技術を覚えるくらいだ。


 でも、今は難しいことはせず戦闘をさせる。

 俺の回復魔法の訓練もしたいしな。

 勿論エクレアも。

 エクレアの魔法については色々検証を重ねたが、俺より更に使いづらいものだった。


 エクレアが魔力を渡せる相手は俺しかいない。

 相手がすぐに使えるような魔力を送る能力だから、魔力の性質が近いものでないとほとんど効果がない。

 段階が上がれば、もっと色んな人に魔力を渡せる可能性もある。

 しかし、エクレアの性格を考えればそういう方向へは行かない気がする。

 色んな人に対応するより、性能が強化されるんじゃないだろうか。


「怪我人がいたら今のうちに言って!」


 俺がそう言うとゾロゾロと俺の方へ歩いてくる。

 かすり傷を負った者から、腕から血を流している者など色々だ。


「傷の深い者からこっちへ!速度優先で、ある程度は適当で良いわよ!」


 そういうと大体傷の重い人からこちらへ来る。

 その者たちを俺はどんどん回復していく。

 俺が回復魔法に慣れたこともあり、ものの十分で二十人の傷を回復した。


「ルーティア、随分頑張ってるわね」


 隣にいたエクレアが声を掛けて来た。


「あの絵本では腕を失ったものですら、一瞬で治していましたから」

「あれは無理じゃない?」

「そこまでいくことは無理かもしれませんが、早く治せるに越したことはないわ」

「それもそうね」


 治すのも早いに越したことはない。

 治すのが遅れている数分の間にも血が流れ続けているのだ。

 流れる血が少なければ、その分早く戦線に戻れる。


 そんなことを二~三回繰り返した後、傭兵たちに円陣を組ませた。

 外側に一枚防御を置いて、中に魔物が生まれても良いように遊撃が何人か。

 一番中心に俺や衛生兵などが入る。

 今回は用意していないが、本番はもう少し小さくして、前衛は半分ずつ休むことも想定している。


「魔物と戦うときはこの陣形が基本よ!」


 迫りくる騎士たちに傭兵たちが少し気圧されていた。

 まぁ最初だから仕方ないけど、慣れて貰わらないと困る。


「騎士は怪我人を出し過ぎないように圧力を掛けて!」


 すると、騎士たちが咆哮を上げて、突っ込んでくる。

 かなりの衝撃だったと思うが、なんとか戦線が崩れることはなかった。

 しかし、既にかなりの疲労が溜まっている者もいる。


「もう少し頑張って!」

「おう!」


 傭兵は必死で声を上げるが、既に限界近いのはその声からも分かる。

 俺の予想通り、十分ほどで円陣は瓦解してしまった。


「そこまで!ウィル、傭兵たちを集めなさい!」

「あぁ、任せな」


 ウィルは素早く傭兵たちを集める。

 ほとんど平民と変わらないのに彼らは傭兵として参加している。

 戦うことが仕事の騎士とは違って、ちゃんと労わないと士気が落ちてしまう。


「良く頑張ったわ。今はまだ少ししか守れなくとも、訓練を重ねることでもっと長い時間を耐えることが出来るようになるわ」


 傭兵たちは深く頷いた。


「それに騎士は仲間だから彼らから教えて貰っても良い。今はまだ溝があるかも知れないけど、少しずつ埋めて行ける筈よ」


 今度は周りにいた騎士が頷いた。


「皆が心にわだかまりを抱えていることは私も知っているわ。それらが無くなったとき、我々は生還に限りなく近づけるわ」


 俺の言葉で静寂が訪れる。

 まだ皆心から納得してるわけじゃないから仕方がない。


「それだけ言ってくれれば十分だ。後は俺に任せな」

「騎士は俺に任せろ」

「魔法師団は私ね」


 三人の仲間が声を上げてくれた。

 俺だけでは難しいかも知れないが、彼らの協力があればきっとなんとかなる。


「ええ、お願いね」


 そう言って、俺も休憩に入る。

 近くに設営されたテントの中に入った俺は「ふぅー」と鋭く長い深呼吸をした。


「大分疲れが溜まってるみたいね」

「魔力が足りなくなってくると感じるダルさは慣れないわね」


 魔力が無くなってくると、体を動かすのも億劫になってしまう。

 ただ疲れているだけなら気力で動くんだけど、その気力が奪われてる感覚。


「ちょっと待ってね。今私の魔力をあげるわ」


 そう言ってエクレアは俺の肩に手を置いた。

 エクレアの魔力が体に入ってくると、大分楽になってきた。 


「もう大丈夫よ」

「まだ半分だけど、残りも頑張れそう?」

「かなりきついけど、やるしかないわ」


 集団戦になれない内はまだまだ怪我人が出るだろう。

 せめて重い傷くらいは全員治さないとな。

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