第三十八話
今回上手く切れなかったので短めです。
戻ってきたエクレアは不思議そうな顔をしていたが、周りを一睨みしてそれ以上話させなかった。
それ以降は無難な話をして採寸は終わらせる。
仕立て屋を出た俺たちは、その場で解散をした。
屋敷へ戻った俺はミーティアに話しかける。
「ねぇ、ミーティア」
「どうされましたか?」
「あなた、討伐に参加するつもりよね?」
ミーティアは少し迷った様子だったが、やがて覚悟を決めたように話始める。
「―――はい、そのつもりです」
「そう」
「どれだけお役に立てるかはわかりませんが……、でも、少しでも力になりたいのです!」
―――ん?
あぁ、そういうことか。
ミーティアは俺に断られると思っているんだな。
「私はあなたを止めるつもりはないわよ」
「そうなのですか?私はてっきり―――」
「ミーティアが嫌々やろうとしてるなら止めるけどね」
その結果どうなるかをきちんと理解した上で、覚悟を持ってやるなら止めようとは思わない。
俺の知らぬ間に黙ってついてきて、いつの間にか死んでたなんてなったらどれだけ後悔することになるか。
そんなことになるくらいなら、ずっと一緒にいた方が良い。
「私から言うのは二つだけよ」
「なんでしょうか?」
「一つは私の知らないところで勝手に参加しないこと」
「はい」
「もう一つは私が死ぬことも覚悟して」
「それは―――」
どうせ「私が守るから」とか言うんだろう?
まぁミーティアは「俺が死ぬより自分が死んだ方が」と思っているのかももしれない。
ミーティアにその覚悟があるなら、俺にはどうすることも出来ない。
「駄目よ。あなたが守れると思うなら守れば良い。でもね、あなたも私も死ぬんじゃ意味が無いわ」
「……」
「命を捨てに行くようなことだけは駄目だからね?」
「承知いたしました」
どれだけ気を付けていても体が勝手に動いてしまうこともあるからな。
無駄死にさえしなければ、後はミーティアの自由意志に任せる。
「ま、あなたは魔法使いだから、守るのは私の方だけどね」
俺は指揮官だから基本は後ろだけど、戦うとなったら前衛だからな。
後衛に守られる前衛はいない。
「ルーティア様が私より前に出る必要は……」
「何もなければ後ろにいるわよ。でも討伐では何が起こるか分からないわ」
「―――はい」
「いきなりすぐ側に発生することもある筈よ」
いきなり目の前に現れたら、前に出るのは俺だ。
ルーティアの後ろに隠れているわけにはいかない。
「その辺は討伐までに少しずつ覚えて行けば良いわ」
「はい、そうします」
討伐では色んな状況が考えられる。
それらにすぐ対応出来なければ、こちらの戦力は少しずつ削られてしまうだろう。
―――そういえば俺の他にも指揮官を何人か決めておかなきゃな。
討伐は長丁場だ。俺がずっと指揮を執り続けることは出来ない。
コルツは問題なく出来るだろうが、セルフィは全体の指揮をするには心許ない。
ウィルも多分出来るだろうけど、騎士たちがどの程度聞いてくれるかだな。
それはこれから次第ではあるけど、どうしても聞いてくれないようなら他に考えなければ。
これはエクレアもにも言える。
エクレアの場合は傭兵の方が言うことを聞いてくれるか分からない。
でも、エクレアなら俺よりも指揮は上手いから、是非とも信頼関係を得て欲しい。
「授与式が終わったら、本格的に訓練を始めないとね」
以前父にお願いした演習場は、用意しようと思えばいつでも用意できるだろう。
というか、俺が何も言わずとも王が用意してくれる筈だ。
「ルーティア様も忙しくなってしまわれるのですね」
「私が中心になるんだもの。仕方がないわ」
あまり時間を掛ければローデンフェルトが動くかもしれない。
支援をするって言っているのに、大規模な訓練を何度もすれば十分察せられるだろう。
だから、動くならば一気に動かなければならない。
「ローデンフェルトに余計な横槍を入れられる前に終わらせるわよ!」
「はい」
「ミーティアも協力お願いね」
「微力ながら、お手伝いさせていただきます」
目標は半年以内。状況次第ではもっと早くなるかも知れない。
でも、皆の協力を得られた以上、後はやり遂げるだけだ。
◇
それから三週間が経ち、俺は王城へと訪れていた。
王城に来たことがないというウィルを迎えに行き、共に王城へと入る。
コルツとセルフィとは王城に直接来る予定だ。
今日は授与式に向けての最終確認を行う。
授与式に着るための服はサーシャの頑張りのお陰でもう既に出来ている。
儀礼用の剣は王国で使う正式なものがあるということだったのでそれを用意して貰った。
「へぇ、王城ってのはこういう風になっているんだな」
「ウィルも中の構造くらいは覚えて置いた方が良いんだけどね」
「それはどうしてだい?」
「魔物が王都へ進入するなんてことがあったら、あなたも守りに参加するからよ」
「―――なるほどね」
ウィルは納得したように頷く。
王都は元は魔物に対抗するための砦として建てられた。
そのため前世の俺が討伐した北の巣と、これから討伐する南の巣の丁度中間に建てられている。
まぁ前世の俺が生まれた頃には既に城塞都市があったから攻め込まれることなんてなかったけどな。
でも、俺も王から一応そういうことがあるかも知れないと言われて、城の守りについて教えて貰った。
ウィルも知っておいて損はないと思う。
「ま、そんなことはもう起こさせないけどね」
「巣の討伐さえ達成すれば、危険はなくなるからな」
「ええ、その通りよ」
とは言え、ローデンフェルト王国やノースバロニア王国の件もある。
彼らが攻め込んでくるならば、全く必要ないってわけでもないんだよな……。
「でも、折角安全になっても今度は人と戦わなきゃいけなくなるかも知れないのよね」
「……流石に、その戦争に傭兵は参加させたくないな」
「やっぱりそうよね」
「あぁ、先の戦いで傭兵はほとんどいなくなっちまって、今いる傭兵は普段は農作業などをやってる者も多い」
―――もしかしたらと思ってたけど、やっぱりそうなんだな。
ウィルがこの前の防衛戦に連れて来た傭兵は数百人だった。
きっとそれくらいしか、連れてくることが出来なかったのだろう。
普段は自分の住む村の為に働いて、有事のときだけ戦争に参加する傭兵が今はほとんどなんだ。
「でもま、そんな村人たちが俺も戦うって言ってくれてるのは、エクレールのお陰なんだけどな」
「―――そうかもね」
確かにそのお陰で多くの参加者を集うことが出来ている。
でも、そもそも俺が生きて帰れば、参加する必要なかったんだよな……。
今更後悔しても仕方ないとは言え、どうしても考えてしまう。
「お前が気にする必要はない。皆覚悟は出来ている」
「―――そうね。その覚悟を無駄にはさせないわ」
しばらく待っていると、コルツとセルフィもやってきた。
「よう、待ったか?」
「たった今来たところよ」
皆が揃ったので四人で王城を歩く。
そのまま謁見の間へと向かった。
応接室を使わないのは、授与式が謁見の間で行われるからだ。
どうせ謁見の間に移動するのに、応接室を使う準備をする必要はない。
「良くぞ参った」
謁見の間へ入ると、王は既にそこにいた。
慌てて頭を下げる。
「おまたせしました」
「気にする必要はない」
「そうよ。お父様ったら楽しみで早く来過ぎちゃったのよ」
隣にいるエクレアがそんなことを言った。
王は「これ、言うでない」なんて言っている。
「―――それでは、授与式の確認を始める!」
王の一声で、俺たちは一斉に動き始めた。
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