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第三十一話


「―――」

「―――」

「なんでセルフィがいるのかしら?」


 ミーティアに聞くと、困ったような顔をする。

 まぁセルフィはミーティアの義姉だからまだ分かる。

 コルツは言わないでも、来るだろうから気にするだけ無駄。

 この二人はフリーダムな性格してるから百歩譲って許そう。


「ルーティアみたいな子は一日見ないとどんどん先に行っちゃうわ」

「だから毎日見たいと?」

「毎日とは言わないわ。でも普段どんな訓練をしてるか知りたかったの」


 だからって連絡もせずいきなり来るか?

 コルツと言いセルフィと良い、父に説明するのが大変なんだが……。


「別に構わないけど連絡くらいして頂戴」

「―――なんで?」


 本当に分かっていない様子のセルフィに、思わず溜息を吐いてしまう。


「話が終わったんなら、さっさと始めるぞ」

「―――」


 こいつらに貴族のマナーなんて言っても無駄だよな。

 気を取り直して、剣の訓練を始める。

 今日は意識して身体強化を使った。


「お?今日は随分動きが良いな」

「身体強化って言うらしいわよ?」

「そんな便利なものがあるんだな」

「でも、使い過ぎるとすぐ疲れちゃうみたい」

「なるほどな、万能の力ってわけじゃないわけだ!」


 そう言いながらコルツはかなり強く打ち付けてくる。

 それをしっかり受け止めてから反撃に移る。


「どうした!?動きが鈍ってるぞ!」

「だーかーら、すぐ疲れちゃうんだってば!」


 長時間使うとすぐ疲労を感じてしまう。

 それでもなんとか食らいついては見たものの、十分もしない内に息が上がってしまった。

 かなり早いが休憩に入る。


「今はこれが限界ね」

「普段のと違って、流れる魔力を増やすと無駄が多いわね」

「ん?どういうことだ?」


 セルフィの呟きにコルツが声を上げた。

 普段からやってる身体強化は意識出来ないほどに自然だって言ってたからな。

 でも、この身体強化は強く意識しないと出来ない。


「この子、普段から身体強化を使ってるのよ」

「そのお陰でやっと人並みに動けてるみたい」

「つまり、さっきのは全力疾走してるようなものってわけか」


 コルツが深く頷いた。

 元々動けているならそのサポートだけで良いけど、俺の場合は魔法に頼ってる部分が多い。

 無理をする時間はなるべく短くしないとすぐ息が上がってしまう。


「今は魔力を鍛えてるの」

「魔力も鍛えれば体と同じように長時間動けるようになるわよ」

「ふむ、使えるものは何でも使っていけば良い」


 体力と魔力、その両方を使えば俺でも光明が見えてくる。

 でも今は両方とも使ってしまったから休みたい。


「それはそうと、私はしばらく動けないから、ミーティアを見てくれないかしら?」

「わ、私ですか?」

「そうね、良いわよ」


 急に言われてミーティアは困惑するが、セルフィは乗り気だ。

 そこへコルツが小さな声で俺に話しかけてくる。


「メイドに魔法なんか覚えさせてどうするつもりだ?」


 コルツは暗に「戦場へ連れて行くつもりか?」と言っていた。

 そこまでするつもりは今のところないのだが―――。


「ミーティアが私についてきたいっていうかも知れないからね」

「―――大事なときに、自分の意志で選ばせるためか」


 ミーティアは例え力が無くてもついてこようとする気がする。

 俺にとんでもない力があって、100%生きて帰れるなら「待ってろ」って言えるんだけど……。

 今の俺にミーティアを安心させられるだけの力はない。


「生きて帰る目標を変える気はないけど、余裕でとはいかないかも知れないわ」

「それがあいつの生に繋がるなら間違っちゃいない」

「ええ、そう信じてるわ」


 そうこうしている内に、ミーティアは拳ほどの火球を生み出すほどになっていた。


「それが空気中の魔力を集める感覚よ」

「―――えっと、それでこれはどうすれば?」

「霧が晴れるように、ゆっくり霧散していくイメージで―――」


 なるほど、空気中の魔力を集めることが出来ると、あれくらい簡単に出来るようになるのか。

 でも、その火球は不安定で、今にも弾けてしまいそうだ。

 自分以外の魔力を扱うってのはそれだけ危険を孕んでるんだな。


 しばらく見ていると、徐々に火球は小さくなり消えていった。

 ミーティアの額には汗が浮かんでいる。


「上出来よ。少し休みなさい」

「―――はい、ありがとうございます」


 二人はこちらへやって来ると、椅子へと腰かけた。

 折角なので、お茶を注いであげようとすると、ポットをミーティアに奪い取られてしまった。


「もう!折角入れてあげようと思ったのに」

「どんな状況であろうと、ルーティア様にやらせるわけには行きません!」

「むぅ―――」

「頬を膨らませても駄目です!」


 そう言うと、ミーティアは全員分のお茶を注いだ。

 でもまぁ、今日はミーティアも座って休んでるからまだ良いか。

 今日のところはそれで納得しておこう。


「そういえば今日来た目的を言い忘れてたわ」

「何かしら?」

「あなた魔物の巣の討伐をしようとしているのよね?」

「ええ、そうよ」

「それ、私たちも参加するわ」


 私たちってことは、魔法の研究者全員ってことか?

 ありがたいんだけど、大丈夫なのだろうか。


「大丈夫なの?」

「元々そのために作られたわけだしね」

「そうだったんだ―――」

「魔法を使えば魔力を消費出来るわ。そうすることで魔物の出現を抑えられる筈」


 確かに、魔力は魔物の源だ。

 それを全部使ってしまえば、魔物が現れることはない。

 核を壊した瞬間に生み出される大量の魔物はどうしようもないだろうけど、復活は防げるかも知れない。

 それだけでも戦略が全然変わってくる。


「セルフィが協力してくれるなら心強いわ!」

「前に出て戦うような力はないから、あなたにはきちんと人を集めて貰わないと困るけどね」


 前に出なくても魔法は強力な武器にもなる。

 使えば疲れてしまうから弓と同じように有限だけど、その威力は段違いだ。

 遠くにいる魔物を攻撃して数をどんどん減らせるなら、前衛に掛かる負担も減らせる。

 もしかしたら、思ってたよりずっと多くの者を生還させられるんじゃないか?


「どう?役に立ちそう?」

「役に立つなんてものじゃないわ!」


 巣の討伐はその数も脅威だが、強力な魔物が数多く生み出される。

 これは俺の想像でしかないが、多分魔力が濃ければそれだけ強い魔物になるのだ。

 襲撃と言えばゴブリンやウルフばかりだが、巣の討伐ではゴーレムなど滅多に見ない魔物も出現する。

 そんな凶悪な魔物に対して弓では歯が立たない。

 でも、魔法なら強力な魔物にも効果が期待出来る。


「でも良いの?言ってはなんだけど、私はただの公爵令嬢よ?」

「運命を感じたって言ったでしょ。回復魔法の使い手が途中で諦めるなんてことないわ」


 自分の命を顧みずってやつか。

 魔法使いには魔法使いの信じる理由があるってわけね。


「それに、個人的にあなたに興味あるしね」

「えっと、それはどういう―――」

「ミーティアにここまで信頼されるなんてねぇ」


 セルフィはニヤニヤと笑いながら、肩に手を回してきた。

 そして耳元で囁く。


「どこまで行ったの?」

「えっ!?」


 ミ、ミーティアとはそういうんじゃない!

 それに俺には心に決めた人がいるし!


「顔が真っ赤よ。まさか本当に―――」

「ち、違うわ!」

「あー、そいつ好きな奴がいるぞ?」


 コルツが助け舟を出してくれた。


「だ、誰でしょうか!?」


 だが、今度はミーティアが食いついてしまう。


「そりゃ、王女様に決まってんだろ。こいつは王女様の為に魔物の巣を討伐しようとしてるんだぞ?」

「コルツ!」

「ルーティア様、女性同士は、その―――」


 あーもう!分かってるって!

 だから誰も言わないようにしてたんだろ!?


「ミーティア、良かったじゃない。愛人ならいけそうよ?」

「義姉さん!私とルーティア様はそういうんじゃありませんから!」


 ミーティアも顔を真っ赤にしている。

 ……もう勘弁してくれ。


「―――休憩はもう良いだろ。次は俺たちが行くぞ」

「ええ、そうするわよ!」

「お前やる気出し過ぎじゃないか?」


 そりゃここから逃げられるならなんだってするぞ俺は。

 あーでも、張り切り過ぎても駄目なんだった。


「魔力は回復してないから手加減してね」

「分かった。いつも通りで良いよな?」

「ええ、それで大丈夫よ」


 ……話に出たから思い出しちゃったな。

 エクレアは今どうしているんだろう?

 フィデリア王国へ行ってからもう二週間以上経つ。

 重要な外交とは言え、そろそろ帰って来ても良いんじゃないか?


「おい、何ぼけっとしてんだ!」

「何でもないわよ」


 おっと、こんなこと考えてたらエクレアに笑われてしまう。

 帰って来たときに驚かせるくらいになってないとな。


「はああああっ!」


 俺は気合を入れて剣を振った。

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