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第二十二話


「話し合いがしたいってのは分かるが、何で俺の部屋でやるんだ?」


 コルツが開口一番にそんなことを言った。


「男性が女性の部屋を訪れるよりは良いわよ」

「まぁそれはそうなんだが……、大差ないぞ?」

「聞かれるわけにはいかないことなんだから仕方ないじゃない」

「それもそう―――なのか?」


 コルツを無理矢理納得させて本題に移る。


「そんなことよりどうすれば良いのよ」

「領主になっちまえば良いんじゃないか?」

「―――それ、本気で言ってるの?」


 もし本気で言ってるとしたら、これからの関係も考える必要がある。


「半分は本気だな。年齢や性別の問題はあるが、討伐に向けて大きく前進することは確かだ」

「―――もう半分は?」

「討伐隊を率いる者がいなくなる。お前の代わりになれるやつなんていないだろう」

「……コルツはどっちの方が大事だと思う?」

「俺個人はお前に率いて貰いたいと思ってる」


 なるほど、コルツは客観的に見れば領主になる方がメリットが大きいと感じている。

 でも、個人的な心情では討伐を目指す方が良いと思ってるんだな。


「それなら私は領主になる気なんてこれっぽっちもないから議論するのは無意味ね」

「そうだな。どちらを選んでもデメリットがあるなら後悔しない方を選んだ方が良い」

「でも、ベルモントとの関係も大事よ。やりたくないから無理とは言えないわ」


 ベルモント領が協力出来ることはそれほど多くないだろう。

 でも、味方が一人でもいれば仲間を増やしやすい。

 いわゆる後ろ盾ってやつだ。

 顔見世を済ませたばかりの私には、そういった関係がゼロに等しい。

 父を通じてという方法もあるにはあるが、子を心配する親を説得するのは難しいだろう。


「要は大きな問題がないからそのままなわけだろ?」

「ええ、恐らくそれで合ってる筈よ」

「なら大問題が起これば変えざるを得なくなるんじゃないか?」


 ―――つまり失脚させてしまえということか。


「王家だって追い詰められれば決断するだろ」

「まだ余裕があると?」

「なんとかなっちまってるから動かないんだ。実際にはかなり追い詰められていてもな」

「なんだか、不正に加担する者の心理みたいなことを言ってるわね」


 王家が不正を働いているとは思わないが、見逃してしまうことはあり得る。

 表面上何とかなってるからこれで正しいと思ってしまう逃げの考え方。


「だが、問題があることには変わりない」

「そこをきちんと認識させられるならば話は変わって来るわね」


 ―――ただなー、それが難しい。

 俺にそんな裏工作を出来る筈が無いし、コルツもミーティアも同様だろう。


「コルツの知り合いに裏工作が得意な人はいないの?」

「―――いないな。そういうやつとは反りが合わん」

「じゃあ、私たちの近くに出来る人はいないわよ」

「まぁまて、俺たちも追い詰められれば出来るようになったりするんじゃないか?お前はどうなんだ」


 ――――――。

 ―――いやいやいや、何の知識もないのに突然やれって言われても無理に決まってる!


「王家はやらないだけで、やろうと思えば出来るでしょ。私たちとは全然違うわ」

「だが、やらなければ伸びることもないぞ?」

「それはそうだけど、だからと言っていきなりやらせる気?」

「実践に勝る訓練はないだろ」


 確かにそうだけど、それが当てはまるのは失敗しても取り戻せるときだけだろ。


「失敗したらどうするのよ」

「別に構わんだろ」

「えっ、そうなの?」

「俺は既に退役して隠居の身だから悪評が立っても痛くないし、お前は顔見世を済ませただけで、まだ社交界に出てもいないからな」


 ―――そうなのか?

 いや、俺は騙されんぞ。


「でも、顔見世したってことはどんな人間なのか皆調べるのよね?」

「それはあくまで結婚相手としてな」

「何の関係があるのよ」

「裏工作が成功しようが失敗しようが、これだけあっちこっち首を突っ込む令嬢なんて微妙だろ」

「コルツ様、その物言いは流石に許せません!」


 ミーティアがコルツの発言に怒り出す。

 まぁコルツの言ってることは「お前もう結婚出来ねぇよ?」って言ってるも同然だから仕方ない。

 ぶっちゃけ俺は体が弱い時点で諦めていたので、今更感はあるが。


「ミーティア、落ち着きなさい。多分、恐らく?体が動くようになった分、以前よりはましになってると思うわ」

「―――ルーティア様、それは自分を卑下し過ぎではないでしょうか」


 ミーティアは呆れたような、諦めたような微妙な表情を浮かべた。


「そうだな。子孫を残せないのはどうしようもないが、それ以外は公爵家の権力でどうとでもなるだろ」

「……ルーティア様、私は一生お側にいますからね?」


 それって結婚出来なくとも、私がいるから安心してってことだよな?

 そうやって深刻にされる方が、より酷さが増している気がするぞ?


「まぁ今結婚の話なんてするときではないわ」

「あぁ、結局やるかやらないかだ」

「その二択なら当然やるわよ」


 失敗しても結婚出来ないだけなら、障害なんて無いも同然だ。

 それに討伐はどんなことをしても成功させる。

 ということは、軍団を率いて討伐してしまう女傑の時点で皆嫌がるだろ。


「決まったな」

「でも、どうしたら良いかなんて私には分からないわよ?」

「―――そこなんだが、お前だって明らかに問題があると分かれば動ける筈だ」


 その問題が分からないから悩んでるんだろ。

 いや、つまりこれからそれを探すってことか?


「俺たちに裏工作が出来る人間なんていない。なら正面から突撃するしかないだろうな」

「警戒されたりしないかしら?」

「仮に警戒されたとして、今より状況が悪くなることなんてないだろ」

「それもそうね。それならヴァリアント領に行くってわけね」

「あぁ、帰りにでも寄れば良いだろ」


 えっ、そんな急に言っても良いのか?

 行くときは予め予定を確認したりするのが普通だろ。


「急に行って大丈夫なの?」

「急に行かなきゃ準備されちまうだろうが」

「―――それもそうね」


 いきなり行ったら相手にされないかも知れない。

 でも、いきなりいかないと隠されてしまうってわけか。


 ―――それなら前世の感覚で行った方が良いのかもな。

 今はなまじ知識をつけてしまったせいで動きが鈍っている。

 無知な方が可能性があるなら、今ある知識は全部無視してしまった方が良い。

 大丈夫、あの頃と随分感覚が変わってしまったけど出来る筈だ。


「それなら出来るだけ早い内に行きたいわね」

「今から行くと、日が暮れちまうぞ?」

「それなら明日一番に出るわ」


 時間があるならマーカスに挨拶を済ませれば良い。

 まだ会議が終わってそれほど時間は経っていないから、屋敷にいる筈だ。


「ミーティア、ベルモント伯爵に連絡を取って頂戴」

「畏まりました」

「コルツはどうする?」

「―――今回は遠慮しておく、入れ知恵をされたと思われたら面倒だ」


 あくまで彼らを率いているのは俺だ。

 助言を聞くことはあっても、傀儡になってはならない。

 そして、マーカスにそんなことを思われるわけにはいかない。


「分かったわ」


 コルツの部屋を出てミーティアの帰りを待つ。

 しばらく待つとミーティアがメイドを連れて来たので、応接室へと向かった。


 応接室へ入ると、そこには既にマーカスが待っていた。


「帰りたいとのことですが、何かございましたか?」

「そう仕向けたのはあなたでしょ」

「―――その通りですけどね」


 マーカスは申し訳なさそうに答える。

 動くよう仕向けたのは事実だが、本当にやるとは思っていなかったというところか。


「明日一番でヴァリアント領に向かいます」

「上手く行きそうですか?」

「―――当たって砕けろ、ね」


 ここで取り繕っても仕方がない。

 せめて顔だけは笑って答えた。


「そうまでしていただけるのであれば、私も答えを出さなければなりません」

「何かしら?」

「成否に拘わらず、ベルモント伯爵の名においてルーティア様に協力することを誓います」

「あら、良いの?」

「少なくとも公爵令嬢が動いたという実績にはなりますからね」


 無知な令嬢が暴走したって思われるだけじゃなかろうか?

 でもまぁ、それも使い方次第か。


「分かったわ。精々上手く利用して頂戴」

「―――怒らないのですね?」


 マーカスは意外そうな顔をするが、別におかしいことは何もない。


「そんなの上手に出来る人がやった方が良いに決まってるわ」

「それ、他の貴族に言ったら揉めますよ」


 そりゃあ揉めるだろう。

 俺の言ってることは能力があるなら公爵より伯爵を優先して良い。

 それは貴族よりも平民と言い換えることも出来る。


「貴族主義に拘っていたら、いつまで経っても巣の討伐なんて出来ないわよ」

「―――そうかも知れません」

「それに、そんなことしているから英雄に掻っ攫われるのよ」


 マーカスは突然笑い出した。


「その言葉を他の貴族にも聞かせてやりたいですね」

「言っても無駄よ。言って分かるなら掻っ攫われたりしないわ」


 その声は徐々に大きくなり、最早大声になっている。

 そんなに可笑しいことを言ったつもりはないんだが……。


「確かに、言って駄目なら思い知らせるしか方法はありません」

「そういうことよ。まぁとりあえず落ち着きなさい」

「これは大変失礼しました」


 マーカスは笑うのを止めたが、楽しそうな雰囲気を崩さずに口を開く。


「こう言ってはなんですが、ルーティア様は大分愉快な人だ」

「それって褒めてるの?」

「褒めているとは言えませんが、好ましいことは確かです。俄然協力する気になれました」

「そう、それなら良かったわ」


 貴族なら面子も大事だろう。

 俺の取った行動は貴族として落第も良いところだ。

 でもそれで笑ったってことは大いに共感したってことなんだろう。


 ……また変わり者が仲間になったってわけだな。

 前世で思っていた貴族とは大きく違う。蓋を開ければ変わり者ばかりだ。

 いや、だからこそマナーなどと言って無理矢理揃える必要があるのかもな。


「改めて、これからよろしくね?」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 俺は自然と手を差し出し、マーカスと握手を交わした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  マーカスの台詞の 「褒めているとは〜(略)〜協力する気になれました」 は良いですね。  この辺は言い回しが作者が使いたくて使った感じがします。  常日頃、ほほほさんはカッコ良い言い回しを…
[良い点] ミーティアさんが健気で涙を誘う…… [気になる点] いよいよ気になるヴァリアントへ。 さてさてどうなることやら 確かに不意を突いた方がいいかも [一言] どの人も腹に一物ありそうでっっ …
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