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第二十話


 それから二週間。

 俺は最大の壁にぶち当たっていた。

 封書が届いたときは了承していたと思われた父が、遠征を渋るようになったのだ。


「どうして急にそんなことを言うのですか!」

「前とは状況が変わった」

「―――それはなんでしょうか?」

「どうやら襲撃が増えているそうだ。今のままでは足りなくなりつつある」


 マーカスも同じことを言っていた。

 父は元々、俺の遠征中に襲撃はないと思っていたから了承していたのか。


「お前の望みは出来る限り叶えてやりたいと思っているが、今は時期が悪い」

「いつならよろしいのですか?」

「騎士団の遠征人数を増やす方向で調整しているが、半年ほど掛かる見込みだ」

「そ、そんなに掛かるのですか!?」

「遠征には金が掛かる。別のところを切り詰めたり、場合によっては増税も考慮に入れなければならない」


 増税は国民の反感を買う出来れば取りたくない手段だ。

 だが、現在使用している予算を全て見直すとなると、そのくらい掛かってしまうのだろう。


「そんなに時間を掛けて都市が滅ぼされたりしませんか?」

「足りなくなりつつあるというだけで、足りないわけではない。浮いたところから順次投入すれば問題ない」

「ならば、行っても問題ない筈です」

「―――ルーティア。この遠征は本当に必要なことなのか?」


 そう言われると、答えるのが難しい。

 ベルモント領は既に協力を申し出てくれている。

 現状を知るために必要だが、この遠征は討伐のために必須とは言えない。

 だが、本気で討伐をするつもりだという姿勢を見せるのは重要だ。


「私の言ったことが偽りでないと貴族全体に示す必要があります」

「そんなことは私も分かっている。だが、危険を冒してまでやらなくてはならないことなのか?」

「それは―――」


 目標の達成に大きく近づくならリスクを冒す価値がある。

 しかし、今回はそこまで利益にはならない。

 でも、日に日に強くなっていく予感が、絶対に行くべきだと俺に言っている。


「何かあるなら言ってみなさい」

「―――勘です。この遠征で大きく進む予感があるのです」

「勘だけで許すわけにはいかないな」


 父は優しく諭すように言った。

 でも、これで諦めるわけには行かない。


「では、どうすれば認めてくださいますか?」

「……そうだな」


 顎に手を当て、ゆっくり考える父を待つ。


「では、いくつか質問をさせて貰おう」

「はい」


 質問に答えるだけで良いならいくらでも答えてやる。


「正直に答えなさい。お前はこの遠征で魔物を倒すことになると思うか?」

「恐らく倒すことになると思います」

「魔物に襲われたとき、ミーティアやコルツを残して逃げる覚悟はあるか?」

「―――」


 俺はコルツやミーティアを切り捨ててでも自分の命を守れるか?

 倒してしまえば問題ない。

 だが、父が言っているのはそう言うことではないだろう。

 それでもどうしようもない事態に陥ったとき、自分の命を最優先に出来るかと言うことだ。


「それは、出来ません」

「ならば―――」

「近寄りません!」

「それはどういう意味だ?」

「危険に近寄らなければ、コルツもミーティアも危険になることはありません!」

「―――お前にそれが出来るのか?」


 ―――やるしかない。

 二人が死ぬのなんて嫌だ。

 彼らを守るのも俺の義務だ。


「やります」

「そうか、ならばコルツとミーティア。この二人以外は全てを見捨てなさい」

「―――わかりました」


 ―――悔しい。

 父の言葉は、俺には全てを守る力はないことを突きつけている。

 でも、それはどうしようもない事実で、子供のように喚いても変えられない。


「幸い魔物は近くの生物を襲う。人を盾にすれば逃げられるだろう」

「はい」

「何があろうと絶対に帰って来るように」

「はい」

「話はこれで終わりか?」

「はい、失礼します」


 部屋を出た俺は自分の部屋に戻った。

 父には納得して貰えた。

 でも、今の俺には敗北感しかない。


 ―――どうすれば強くなれる?

 ―――どうすれば皆を守れる?


 一歩一歩進んで行くしかないことは分かっている。

 それでも、今すぐ強くなりたい。



  ◇



「はぁぁああ!」


 一瞬の隙を突き、振り切った木剣がコルツを捉えた。

 お互いの時が止まり、しばらくの後に離れる。


「形になって来たな」

「ええ、今のは良かったわ」

「もう一本行くか?」

「いえ、少しだけ休ませて」

「そうだな。今は一番良い動きを体に覚えさせるときだ」


 コルツの強烈な訓練のお陰か、最低限は動けるようになってきた。

 まだ体力に不安は残るが、こればっかりは時間を掛けるしかない。

 コルツの言う通り、無理をしたからと言ってあまり身に付かないこともある。

 今は一瞬だって無駄にしてる余裕はない。


「ここまで来れたのはコルツのお陰よ。感謝するわ」

「一応形になっただけだから、間に合ってないんだがな」

「何も出来ないよりは良いわよ」

「そうだな。自分の身を守ることくらいは出来るだろう」


 それだけ出来れば十分だ。

 何かが起こる―――。そんな日に日に強くなっていく予感はある。

 もしかしたら功績のために戦場に出てくれと言われるかも知れない。

 しかし、ベルモント領だって襲撃の対策をしているだろうから、後方で見てるだけで良い。

 それが父から出された条件だ。それ以上は許されていない。


 その程度ならば考え得る最悪でも、こちらに向かってきた一匹二匹を相手にするくらいだろう。

 それならば一人でも対処する自信がある。


「コルツが隣にいて危険なんてないでしょ」

「そりゃそうだ」

「後はベルモント領がなんて言って来るか次第ね」

「ルーティアは戦場に駆り出されると思っているのか?」

「仮に何かが起こるとしても、そのくらいしか考えられないでしょう?」


 それだって規模によっては断るつもりだ。

 絶対に生きて帰れと言われた以上、慎重に行動しなくてはならない。

 これで自分から危険に飛び込むようなことがあれば、例え助かっても父に何もさせて貰えなくなってしまうだろう。


「そうだな。俺もそう思う」

「油断するわけじゃないけど、気楽に行きましょう」

「あぁ、一応何が起こっても良いように当日まで休んでおけ」

「……そうね、そうするわ。コルツもきちんと準備しておきなさい」


 休むことも大事だ。

 たかが数日頑張ったところで劇的に変わることなんてない。

 それよりも、今は判断を間違えないようにしなければ。


「ルーティア」

「何かしら?」

「あまり気負い過ぎるなよ」

「―――」


 コルツにまで心配を掛けてしまった。

 そんなに深刻そうな顔をしているのだろうか?


「大方お前の父親に何か言われたんだろう?」

「―――そうですね」

「何かあっても俺が守るから気にする必要はない」

「ええ」


 そうかも知れない。

 でも、俺だってコルツやミーティアを守りたいんだ。


「お前はやりたいようにやれば良い。そのために俺を仲間にしたんだろう?」

「―――ええ」

「この前も言ったが、お前は他人を巻き込むのが才能がある」

「そうなのかしら?」


 コルツに言われても実感がない。

 確かに前世では多くの仲間が出来た。

 でも、意識して集めたつもりは全然ない。


「やるべきことだけは忘れないようにな」

「そうね、そうするわ」


 前世では喧嘩ばかりしていたが、お前良いヤツだったんだな。

 まぁ立場が変われば違った姿が見えてくることもあるか。


「ま、時間はもう少しある。その間にもう一度考えな」

「ええ、ありがとう」


 俺に出来ることか。

 今までやるべきことをずっと考えてきた。

 前世ではそれが出来ないなんてことはなかった。

 無鉄砲でも失うのは自分の命だけだった。

 でも、今は出来ることも考えていかなきゃいけないんだな―――。


 こうして遠征当日を迎えた。

十八話と矛盾していましたので、やっつけではありますが直しました。

もう少し自然になるよう細かい調整をするかも知れません。

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― 新着の感想 ―
[一言]  割烹を先に読んでいたので、どの程度の矛盾があるのかと思っていましたが、私は違和感なく、父親の言葉を受け入れていました。
[良い点] ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ それ言われっと辛い…… [気になる点] やはりここは魔法ですかね…… 非力な今の体でも役に立つでしょと思う私(…
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