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第十一話


 それからミーティアのところへ戻り、用事が済んだのでオリビアと別れた。

 少し早いかも知れないがコルツを迎えに行く。

 まぁいざとなれば訓練を見ても良いしな。

 俺も一緒に参加したいところだが、流石にミーティアが許してくれないだろう。

 また倒れて王城で世話されるわけにもいかない。

 でも、見るだけでも勉強になる筈だ。


「―――」


 あれ、今俺を呼ぶ声が聞こえたような……。

 ―――どこだろう?


 辺りを見回すと、窓の外から聞こえているようだ。

 コッソリ窓を開けて覗き込むと、そこではお茶会が開かれているようだった。

 なんだか今日はこんなことばっかりだな。


 誰とも知れない三人が楽しそうに談笑している。


「そういえば、皆様。もうドレスは用意されましたか?」

「顔見世よね?勿論準備しているわよ」

「私も、伯爵家ほどではありませんが、準備を進めております」


 ははぁ~、ドレスかぁ。

 俺はあの重いドレスを着れないから、準備すらしていない。

 でも、普通の貴族にとっては、五年後のお見合いを成功させる第一歩だもんな。

 それはそれは気合を入れて準備を進めているのだろう。


 一番偉そうにしている女性が伯爵家ってことは他は子爵か男爵ってことだから、良い相手を見つけたいだろうしな。


「でも、今年は幸運ですわよね!」


 ん?誰か狙い目でもいるのだろうか?


「本当よね。何せあの公爵令嬢がいるんですもの!」


 ん?俺?

 俺がいると何故幸運なんだ?


「どうせみすぼらしい服を着て来るんでしょう?それに比べたらどんなドレスでも映えるわよ」


 隣で一緒に見ていたミーティアが立ち上がる気配がする。

 俺はすぐに袖を引っ張って座らせた。


「ルーティア様!どうして止めるのですか!?」

「そのまま突撃しそうだったからよ」

「主が馬鹿にされてるのですから当然です!」


 怒ってはいるが、声を潜めてくれているのだけは助かった。

 でもなぁ、みすぼらしいって言い方はあれだけど事実だし。

 コルツがあーいうのは無視して良いって言ってたから、割とどうでも良い。


「それに伯爵如きが王城のカフェテラスを占有しているのも非常識です!」

「そうなの?」

「カフェテラスの使用には公爵以上の同席か王族の許可が必要です」

「王族の許可を貰っているのでは?」

「王の謁見が予定される日に許可なんて出す筈がありません」


 あー、俺も前世で謁見があった後、王妃にお茶会へと招待されたっけ。

 作法とか全然わからなくて、王や王妃に何度も笑われた記憶しかない。

 だけどそのときの二人は子供のように笑っていて、だからこそ、その顔が記憶の片隅に焼き付いている。


 あの隣国の王子とお茶会なんてあり得ないだろうけど、変に勘繰られないために空けておくだろう。


「なるほど、でも私たちは公式に王城へ来たわけではないわよね」

「それは、そうですが……」


 俺は今日謁見があることを知らない筈なのだ。

 だから、王からの許可が出ていると思わないと「何故知っている?」と言われかねない。


「あまり覗き込むのも失礼だし、そろそろ―――」

「―――公爵令嬢と言えば王女もそうですわね!」


 ―――はっ?

 王女も?今、〝も〟って言ったのか?


「当日は公爵令嬢に付き合ってみすぼらしい格好をしてくるのよね?」

「そうそう!公爵と王女が勝手に落ちてくれるのですから、助かりますね!」


 ……。


「作りに行くわよ―――」

「ル、ルーティア様?申し訳ありません、聞こえませんでした」

「ミーティア、ドレスを作りに行くわよ!今すぐ!」


 ミーティアは一瞬呆気に取られていたようだったけど、すぐ「畏まりました」と言って歩き出す。

 王城の前に行くと、ミーティアに言ってすぐに馬車の準備をさせる。


「あれ、ルーティア?何でこんなところにいるの?」


 振り向くとエクレアがいた。


「エクレア、悪いわね。今忙しいの」


 エクレアは何故か嬉しそうだ。

 断られたのに喜ぶってどういうことなんだ。


「今日はエクレアって呼んでくれるのね!」

「それなら後で謝ります。今は気が立っているので―――」

「ほっほ~う、ってことは今日は呼び捨てしてくれるんだ」


 エクレアが会心とも言えるにやけ顔をしていた。

 ―――めんどくさいなぁもう。

 俺は今やらないといけないことがあるんだ。

 ルーティなら俺の性格解ってるだろ!?


 あぁ、ルーティはこういうときほど嬉々として面倒を見てきた。

 それに助けられたことが何度もある。

 こういうときは大人しく従った方が上手く行く。


「―――これから服を作りにいくの」

「それなら、私も行くわ!」

「隣国の王子の相手は良いの?」

「丁度見送ったところよ。あいつ、私が見送らないとうるさいのよ」


 うわぁ、めんどくせぇ……。

 エクレアも鬱憤を発散したいってわけか。


「それでこんなところにいたのね。良いわ。でも、今日は気を遣えないから覚悟して」

「勿論、その方が嬉しいわ」


 そこへミーティアが戻ってくる。


「準備が出来ました」

「ミーティア、エクレアも行くことになったわ」

「よろしくね」

「―――はい、お世話させていただきます」



  ◇



 それから急いで仕立て屋へ向かった。

 一応どこが良いか聞いたが、王家と公爵家は同じ店を使っていることが分かったのでそこへ向かう。


 入店すると気品のある豪華なインテリアと、壁沿いに並ぶ大量の服が目に飛び込んできた。

 流石は王都一の仕立て屋というべきか、展示された商品には煌びやかな装飾が施されている。

 ―――しかし、店員がいない。

 王家も利用するような店では珍しい。

 顔見世の準備で多くの貴族が訪れ、その対応に追われているのだろう。


「あのー、お客さんですか?」


 呼ばれて振り向くと、店の雰囲気には合わないどう見ても平民の女性が立っていた。


「ええ、そうよ。あなたは?」

「ここで服を作っています。今、立て込んでて―――」

「ならあなたで良いわ。ドレスをオーダーメイドで作って頂戴」

「ええっ!?急に言われてもどうすれば良いか―――」


 そこへ店員と思われる男が駆け寄ってきた。


「お待たせして大変申し訳ございません。このようなみすぼらしい者に相手をさせてしまい大変恐縮です」

「へぇ……、私も今丁度みすぼらしいって言われてきたところなの」


 悪いね、今の俺はお前にだけは相手されたくない。

 言葉に詰まる店員を無視して、言葉を告げる。


「決めたわ。そこのあなた」

「わ、私ですか!?」

「そうよ、あなたが相手して頂戴。エクレアもそれで良いわよね?」

「ええ、良いわよ」


 エクレアの了解が得られたので、平民の女性に向き直る。


「私はルーティア。あなた、名前はなんていうのかしら?」

「サ、サーシャです!」

「エクレアよ」

「サーシャ、あなたの仕事場へ案内しなさい」

「わ、わわわ、わかりました!」


 慌てて案内するサーシャについて、奥へと向かう。

 そこには作り途中と思われる布が大量に置かれていた。


「汚いところですみません」

「あなたが良いって言ったのは私よ?このくらい織り込み済みよ」

「ありがとうございます。それで、どんな服が良いんですか?」

「それを言う前に、私の体を見てどう思う?」


 質問に質問で返すのは失礼だが、これは重要なことだ。


「随分貧相な体をしていますね」


 一切隠さずに言ったな。

 あの店員も相手させたくないわけだ。

 でも、今の俺にとっては話しが早くて良い。


「正直に言ってくれてありがとう。私は見ての通り、重いドレスは着れないの」

「ではなるべく軽く作れば良いんですか?」

「いえ、この際だから余計なものは抜いて、極薄のドレスにするわ。コルセットも付けない」


 コルセットが浮き出てしまうくらい薄ければ、コルセットなんか付けてられない。

 でも、俺のこの貧相な体なら、そもそもコルセットなど要らない。


「それだと体のラインがモロに出てしまいますが……」

「それならこの際、全身そうするわ。ズボンみたいなスカートのドレスにして」

「ズボンの股下を繋げた感じにすれば良いのですね」

「ルーティア、それだと歩けなくなるわよ」


 今まで静かに聞いていたエクレアから声が掛かる。

 確かに、足首までそうしてしまうと全く歩けない。


「エクレア、どこまでなら歩けるかしら?」

「膝下が動けば何とかなるんじゃない?」

「なら、膝辺りまでそれで、その下からは少し広げて」


 どうせほとんど椅子に座っているのだ。歩きづらくとも問題ない。


「肩は出しますか?」

「そこは隠して頂戴。流石に骨が浮き出てるところは見せられないわ」

「フレアみたいにゆったりした感じのボレロがあれば良いかもね」

「フレア?ボレロ?」

「フレアは花みたいに広がっていく形で、ボレロは肩から胸辺りまでを覆う服よ」


 なるほど、そういう服もあるんだな。

 俺としては肩回りを隠せれば問題ない。


「それで良いわ」

「なるほど、大体わかりました。ただ―――」

「何かしら?」

「本当に歩けるか確認したいので、何度か来て貰えると助かります」

「分かったわ。いつ来れば良いかしら?」

「ちょっと待って。面白そうだから私にも一着お願いするわ」

「エクレアまで合わせる必要はないわよ?」

「良いじゃない。ペアで着てたら注目されるわよ」


 おいおい、本当に良いのか?

 俺はどうせ馬鹿にされるなら、そっち方向に振り切ってエクレアを目立たなくしようってだけだったんだが……。


「私はコルセットを付けるから、なるべく目立たないものを用意して。後は多少肩が出ても良いわね。あっ、極薄のドレスにするなら下着も浮き出ちゃうから、同じように目立たないものを二人分お願い」

「わかりました」


 そう言うとペンを取り、サラサラと何やら書いて行く。

 しばらくしてこちらに向けると、それは二枚の絵だった。


「こちらがルーティアさんのドレスで、こちらがエクレアさんのドレスです」

「なるほど―――」


 あれ、思ってたより様になってる?

 貴族が良く着るドレスに比べたら豪華さは足りないけど、落ち着いていて良い雰囲気だ。


「思ったより良いわね。昼間のパーティには合わないけど、夜会なら丁度良いかも」

「そうなの?」

「ええ、昼間は豪華なドレスが好まれるけど、夜は少し落ち着いた雰囲気のドレスが好まれるわ」

「でも私たちが参加するのは昼間のパーティよ?」


 ドレスとしてアリだとしても、結局合ってないことには変わりない。


「良いの良いの、悪く言う人は何したって悪く言うんだから」

「まぁそれはそうだけど……」


 人を貶す者は、貶すことが目的で理由なんて何でも良いからな。

 だから、直しても別の悪い部分を探す。そしてその内、家柄など直しようのないことを言い出す。

 一方そうでない者は、気になるところだけを悪く言うし、直せば意見が変わる。


「でも、エクレアまで付き合う必要ないわよ?」

「今回の私はサポートよ。主役はあなたなんだから」

「でも―――」

「今日は私に気を使えないんじゃなかったの~?」


 元はエクレアが馬鹿にされたことに苛立ってドレスを作ることにしたんだぞ。

 エクレアが俺に付き合って馬鹿にされるなんて本末転倒だ。

 ―――でも、隠したいことほどすぐバレるんだよなぁ。

 そして気付いたが最後、絶対に意見を変えてくれない。


「―――わかったわ」

「あら、今日はすぐ折れるのね?」

「私も賢くなったの」


 前世は細かいことを考えるのが大の苦手だったけど、この体は頭が良いからな。

 あの頃気付けなかったことでも、今なら気付ける。


「ふーん」

「な、なによ」


 エクレアはこちらをニヤニヤと見てくる。


「いーえ、何でもないわよ」


 何でもないわけないだろ!……ないけど。

 こんな挑発的な顔、ルーティの頃は見たことがない。

 俺の頭に「これ以上触れるな」と警鐘が鳴り響く。


「と、兎に角採寸を済ませるわよ!?」

「ふふっ、そうしよっか」


 エクレアの手が伸び、俺の頬に触れた。

 ―――お、襲われる!?


「採寸ですね。わわっ、押さないでください!」

「良いから良いから!」


 早く行ってくれ!お願いだ!

とりあえず最初に用意していたストックは終了しました。

ですが、もうしばらくは毎日投稿を続けられそうです。

目標はそのままなんだかんだで今月いっぱい毎日投稿ですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 中身おっさんがドレス選び こんなの滅多に見れるもんじゃない 楽しませていただきました( ̄∇ ̄;) にしてもいい事言う。 悪く言うやつは何やったって悪く言う……ほんそれです。 [気になる…
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