プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
ストックが尽きるまで毎日投稿予定。20時に投稿します。
「本当に言わなきゃならんのか?」
「当然です。これが私達の最後の戦いになるかも知れないんですよ?」
―――それもそうか。
周りを見渡せば、皆揃って熱い目をこちらへ向けている。
こうも期待されたら仕方がないな。
「お前たち、これが最後だから聞いてくれ」
その言葉に、作業をしていた者たちも立ち上がりこちらを見る。
「矜持は生きてこそ紡がれる―――俺がいつも言っていた言葉だ」
矜持は一本の糸と同じ。紡ぐのを止めた瞬間にぷっつりと途切れてしまう。
だが、つまらない意地でも張り続ければ、それはいつしか布となり、服という形になるだろう。
その形を生きたまま見られるかは分からない。
だが、生き続けなければ可能性すらないのだ。
だから俺は生きることに拘ってきた。
「―――だが!この戦では誰も生き残ることは無いだろう」
それ程にこの度の戦は厳しい。
何せこちらの百倍にも及ぼうかという魔物の大軍勢が相手だからだ。
「俺たちの死がその何倍もの生に繋がる」
自己犠牲なんてクソ喰らえと思ってきた筈なんだがなぁ。
俺は馬鹿だから王の話にあっさり感化されちまったんだ。
「お前たちにも大切な誰かに生きて欲しいからここにいる筈だ。だが、それでも自分のために戦え」
俺たちは傭兵だからな。
後ろ盾を持たない俺たちは、他人に理由を求めることが出来ない。
結果は誰かのためでも構わないが、その根底には自分の信念が必要だ。
「お前たちの大切な人はきっとお前が死ぬことなんて望んでいない。だからそれはお前の願い、お前の欲望だ」
それでも誰かに生きて欲しいと願って何が悪い。
「馬鹿だと嘲られても知ったことか、それが傭兵の生き様だ!」
最後の言葉に向けて思いっきり息を吸い込む。
「覚悟が決まった者から己の衝動に従い突き進め!」
大地を揺るがすような咆哮を後に俺も準備に戻る。
入ったテントには先程声を掛けてきた女性が待っていた。
「お疲れさまでした」
「あんなんで良かったか?」
「英雄の言葉であれば何でも良いのです。傭兵は一人……と言っても支えは必要ですから」
「そんなもんか」
相変わらず小難しいことをよく知っているなと笑ってみせる。
女性は頭の悪い俺とは違って教養に優れていた。
彼女の知識に助けられたことは一度や二度ではない。
今まで助けて貰った。そう思いながら俺は目の前の女性を抱きしめる。
「こうすることが出来るのもこれが最後だ」
「死ぬときは一緒ですよ?」
「出来ればお前には生き残っていて欲しかったんだがな」
「私も傭兵ですから」
そう言われてしまってはもう何も言うことが出来ない。
お互いの気持ちを確かめあい、どちらからともなく離れた。
「よし、行こうか」
―――この日、長年国を悩ませていた魔物の巣が一つ、滅ぼされた。
その立役者として、エクレールの名が語り継がれることとなる。
◇
―――ザシュッ。
渾身の力を込めて振り下ろした剣が肉を穿ち、最後の魔物が倒れた。
静けさを取り戻した大地を見渡せば、辺りは人と魔物の死体の山だ。
だが、もしかしたら生き残りがいるかも知れない。
「うぐっ―――」
揺れ落ちる体を、剣を支えにしてなんとか倒れないように留める。
もう動けそうにない。
この際魔物はもう良い。だが、まだ生きられる人がいるなら助けたいのに―――。
……これが最期か。ならば!
残る気力を振り絞って傍らに倒れた最愛の人を抱き寄せる。
今の今まで生きていたのだろう。
まだ温かさの残る体を懸命に引き寄せる。
「―――すまなかった」
馬鹿な俺の我儘に付き合わせてしまった。
こんな言葉を聞けば彼女は烈火の如く怒るだろう。
だが、どうしても戦争をしなければならないわけではなかった。
俺は多くの命より彼女の命を取ることも出来たのだ。
だからこの結果は俺の責任でもある。
「もし、神がいるのなら、願わくば―――」
来世で彼女とまた会えますように―――。
次こそは絶対に彼女を幸せにする。
だから、どうか―――……。
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