最後に…君を愛してる。
思いつきで書き殴った感じですので、
生温かい目で、お読みいただければと思います。
「エレナ話がある、裏庭に一緒に来てほしい」
卒業を3ヶ月後に控えた放課後、私は婚約者、フラン・ジルベルトから呼び出されて裏庭に連れてこられた。
彼がこちらを振り向く。
「お話とはなんでしょう?卒業後のことでしょうか?」
「あぁ、そうだ。君にはすまないが、婚約を白紙に戻させてほしい。」
何でもない顔でそういうフラン。
「…っなぜです?!私、なにか悪いことでも「していない。君は何一つ悪くはない。」
「ではなぜ?!」
よっぽどの理由がなければ到底納得はできないわ。私はフランを愛していますのに…!
きっと今私はすがるような目をしてしまっているのでしょう。
彼は私から顔を背けた。
「君を巻き込むわけにはいかないからだ。」
「何にです?」
なるべく感情を押し殺したような声で呟く彼に更に問う。
「うちの没落だ!父がまた騙されて連帯保証人として判を押していたんだ。それも…とても返済しきれない金額だ…今度ばかりは…もうどうしようもないんだ…!未来ある君を巻き込むわけにはいかない。すまない。」
感情が抑えきれず、声に悔しさを滲ませる彼。
「そんな…!それでは貴方は、フランはどうなりますのっ?」
おじ様は人がよすぎる。困っている人を見ると放っておけないし、そういう話を聞くだけで確かめもせず、援助をしようとしてしまう。
フランとおば様が何度阻止しても、二人がいない隙に騙されていいように使われてしまうような人なのだ。
そして、首の回らなくなったジルベルト家に我が家も一度援助をしたことがあった。
あの時おじ様はもう二度とそういうことはないようにするとおっしゃっていたはずなのに!
「僕は……いや僕のことは気にするな、エレナ。君は僕のことなど忘れて他の誰かと幸せになってくれ。」
「いやよ!そんなことおっしゃらないで!私は貴方を愛してますのに!お父様に言ってなんとか「2億7千万ベポルだ。しかも借金の相手はあのミランダ商会だ。…僕と結婚すれば間違いなく君は…」
そう言って彼は項垂れた。
「…そんな………ミランダ……商会…そう、そうでしたのね…貴方をいくら愛していても貴方の妻になれたとしても…貴方の傍にいられないのね…。」
よりにもよってあのミランダ商会、普通の買い物客としてなら良心的。
けれど、ひとたび借金をすれば高利で厳しく取り立てる。
連帯保証人に返済義務が移ると本人ではないことから利息はそれ以上増えなくなる点も良心的といえなくもない。
ただ、連帯保証人に返済義務が移るのは1億5千万ベポル以上、返済不可申告書類が商会に届いた日付までに滞っていた利息分まできっちりとられる。
期限以内に返しきることができない場合、その家に客を取れそうな年齢の男女がいれば即系列の娼館行きになるというのは有名な話…。
では、期限以内に返せないとおば様とフランは……!いやよ!フラン…フラン……。でも、私には何の力もないし、何もしてあげられないわ。2億7千万なんてうちにもないもの。
どうして、どうしてそんな連帯保証人になってしまわれましたの、おじ様…!
「君はまだ間に合う。婚約を破棄して、僕にはもう二度と関わるな。僕を愛してくれているのなら、君だけは逃げ切ってくれ。いいね?」
諭すように言われてしまいましたわ。
「…わかりましたわ。フラン、指輪を…婚約の証としていただいたこの指輪をっ……お返しします。少しでも返済に役立ててくださいませ。この石は希少なものですから500万ベポルにはなりますわ…」
指輪を外す手が震えます。
そういえば、貰った時も嬉しさと恥ずかしさで手が震えましたわね。
あの日はフランも緊張で震えて…今でも鮮明に思い出せますのに。
あぁ、だめね、涙も溢れてきましたわ。
でも私とフランを繋いでいた証がなくなってしまうのですから当たり前ですわね。
震える手で差し出される指輪を辛そうな顔で、けれど無言で受け取ったフランに最後に抱きついて、
「フラン、愛していました。さよなら。」
そのままぎゅっと一度だけ強く抱きしめて泣き声にならないように涙を堪えてささやいた私は彼の顔を見ないようにして離れ、そのまま走り去った。
「…エレナ……愛してるんだ。このまま眠って、二度起きたくないよ……」
裏庭に一人残された彼が先ほど私に抱きしめられた体をその感覚ごと抱きしめるようにして呟いた言葉は私に届くことはなく、雪の降り始めた空に消えていった。
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