流れ星
あっという間に十日が過ぎ、結局お針子が一針も布地に刺すことができないまま、マントを注文した少女がやって来てしまいました。
「ごめんなさい。なんとか刺繍してみようと試みたのですが、私の力不足で、悲しみを縫い込むことができませんでした」
お針子は少女に謝りました。すると、少女は俯いたまま静かにぽろぽろと涙を流しました。
「泣かないで、泣かないで。どうしたの?どうしてあなたは悲しみのマントが欲しいの?」
慌ててお針子は少女に椅子を勧めました。
少女はもたれかかるようにして座り込み、話し始めました。
「私は天に住んでる流れ星なんです。本当は天に住んでるの。時々、いろんな星に遊びに来ているのだけど、でも本当なら帰りたい時はいつでも天に戻れるの。ただ、うっかりこの星の地上に来るときに勢い良く流れ落ち過ぎてしまって、天に戻るのに必要な星の指輪をどこかに落っことしたようなのです。ずっと探しているのだけど、どこにもなくて帰ることができなくて困っています。私の体は夜になると光りだしてしまうから、こうやって厚着しておかないと目立ってしまうの。光を閉じ込めるのは悲しみだから、だから、ただのマントではなくて悲しみのマントを作って欲しかったんです。もう戻れないなら悲しみのマントをまとってここで生きていかなければならないと思ったの」
流れ星はそこまで話し終えるとさめざめと泣き出してしまいました。
困ったお針子とリスがなだめようにもどうしようもありません。
その時、お針子は急にあることを思いついて手をポンと叩きました。
「ねぇ、指輪を落とした場所ってあてはあるのかしら?もし少しでもわかっていれば力になれるかもしれないわ」
流れ星は顔をあげました。
「はっきりとはわからないの。でも、私が流れ降りてきたのは、この先の時雨山っていう山だったから、そこからそうは遠くないと思うの」
「時雨山ね。力になれるかわからないけど、とにかく待ってみてもらえるかしら」
お針子はそう言うと大事にしまっておいたあの銀の呼子を取り出し勢いよく吹き鳴らしました。
しばらくすると何匹もの野ネズミ騎士団が一列に並んで黄昏が丘に駆けてくるのが見えました。
「お針子殿、急ぎ馳せ参じました」
息をはずませながらも大きな声をあげたのは野ネズミの団長です。
「ごめんなさい。お呼び立てして。実はね…」
お針子が流れ星の事情を話すと、
「わかりました。時雨山は騎士団領とは離れておりますが、時雨山の山ネズミたちとは長い付き合いがありますので、指輪を探すように頼んでみましょう。お任せください」
団長はそう言って団員を引き連れ颯爽と行ってしまいました。