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悲しみのマント

 ところが、お針子の貰うお礼はそれからもリスの言う実のあるものばかりではありませんでした。

次にやってきた泉の精霊の依頼は、枯れてしまった泉のために豊かな水源を刺繍してほしいというものでした。ほとばしる透明な水の色を刺繍するのは難しくお針子はとても苦心しましたが、お礼に貰ったのは、古ぼけた精霊の壺でした。

 その次の依頼は虹を見たことがない子供に虹を見せてやりたいという金鉱掘りのドワーフからの注文で、お礼はラピスラズリの原石でした。


「どうするんだよ。役に立たないものばかり貰ってさ。次こそは金貨五百枚くらいふっかけておくれよ」

 そうリスが言った途端、トントンと扉を叩く音がしました。

 お針子が扉を開けるとそこにはモコモコと何枚ものふわふわな服を着込んだ少女が立っていました。

「こちらにとても腕のたつお針子さんがおいでと聞いてお願いにきました。どうか私にマントを作ってくれませんか?」


 お針子は少女を中へ案内し、椅子をすすめました。少女は椅子にちょこんと腰掛けると言いました。

「マントが欲しいのです。光を通さない暗いマント。悲しみのつまったマントを作ってもらえませんか?」

「悲しみのマントですか?」

 お針子はこれはまたなんと難しい依頼だろうと思いました。今までは目にみえるものを刺繍で表現することばかりでしたのに、目に見えない悲しみをどうやって刺繍すればいいのでしょう。考えてみてもとても難しそうです。

「悲しみをマントに刺繍するのは私にはまだ無理かもしれません。お引き受けする自信がありません」

 お針子は少女に正直に言いました。すると、少女は小さな石のかけらを取り出して言いました。

「いいのです。あなたが無理だったのなら諦めますから。十日後にまた来てみます。お礼にこの星のかけらをさしあげます。これはとてもめずらしいものですから、是非、悲しみのつまったマントを私の為に縫ってください」

 そう言い残すと少女は立ち去ってしまいました。



「悲しみなんてどうやって刺繍するのさ」

 リスが呆れ顔で言いました。

「しかも星のかけらなんてちっとも役に立ちそうもないし。どうしてしっかり断らないんだよ」

「だって、あの子はとても困ってて思いつめた様子だったわ。それにしても悲しみをマントに縫い込むなんて初めてだわ。どうすれば悲しみを刺繍であらわせるのかしら」


 お針子は、考え込んでしまいました。

 いつものように糸の色すら、すぐに選ぶことができません。

 頭の中で悲しみとはどういうものか、必死で考えるのですが、考えれば考えるほど、わからなくなっていきます。

 光を通さないマントが欲しいということでしたので、黒い分厚い生地を選び、黒い糸、白い糸、銀の糸などをその上に並べてみましたが、まるでしっくりきません。

 染め粉の棚をしばらく眺めてもどこを見ても悲しみのヒントにはなりませんでした。



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