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クローバーと木苺のベッドカバー

お針子は早速仕事にかかりました。

まず糸選びから始めます。初めにクローバーの葉に使う緑色の糸を何本も取り出します。

そして花の白の色、薄い桃色やクリーム色を選んでゆきます。

欲しい色がない時は糸を染めることができるように、染色用にたくさんの植物や木の実も貯めていますので、木苺の色を出す時に使えそうな赤い実や葉の色に使えそうな青緑の実などから使えそうな実も選びます。

お針子はそうやってまず糸の準備をしながら、頭の中では図案を考え始めました。


「そうね、四隅に木苺の茂みを刺繍しましょう。そして一面のクローバー畑。うまく広がって根付いてくれるといいのだけど…」


糸と図案さえ決めることができればお針子の仕事はとても早いものです。

夢中になって一針一針心を込めて刺してゆきます。

と、エプロンのポケットがまた急に揺れだしたと思うと中から何かがトンッと出てきました。

リスです。


「全くもう。勲章と呼子でいいなんて呆れちゃうよ、ぼくは。どうして金貨五百枚とかふっかけてくれないんだい?また妙なものばかり集めちゃってさ」

 リスはふてくされています。

「だってあの呼子見た?凄く細かい細工がしてあって、とても綺麗で立派なものだったわ。あなたは金貨金貨と言うけれど、私は綺麗なものや珍しいものが好きなのよ。刺繍のお礼が金貨じゃつまらないでしょ?」

「なにがつまらないものか。金貨がたくさんあれば、このボロ家の屋根だって修理できるし、町の大きなホテルでディナーだっていただけるんだぜ」

 愚痴っぽいリスに、お針子は針を置いて手を休めようと、お茶のテーブルへ向かいました。

「とにかくお茶にしましょう。難しい話はなしよ。私、今はこの仕事に夢中なの。」

 


それから毎日お針子はこの仕事に取り組みました。

麻の薄茶色の布地に次々と色鮮やかなクローバーの緑の葉と白い花が刺繍され、まるで今にも匂ってきそうなほどの素晴らしい出来栄えです。

最後に四隅の木苺の茂みを刺繍し終わり、ようやくベットカバーは完成しました。

長い間根を詰めて疲れたお針子は、気分転換に騎士団領まで散歩がてら届けることにしました。


山を一つ越えるとそこが野ネズミ騎士団領です。通りがかった野ネズミにベッドカバーが完成したことを伝えるとすぐに団長が大喜びでやって来ました。


「もう完成したとは驚きです。早速荒地へご案内いたしましょう」

 荒地は野ネズミの団長の言ったように岩だらけの物寂しい光景です。

ここにクローバーのカバーを広げたところで、しっかり根づいてくれるのかしらとお針子は少し心配になってきました。

 団長はお針子の渡したベッドカバーをうやうやしく広げます。集まってきた騎士団員も三十匹ほどで団長を手伝います。みんなでカバーを荒地にふわっとかけた途端……


 刺繍されたクローバーの葉や花が麻布から起き上がるかのように、ざわざわと風をうけ揺れ始めました。

四隅の木苺の茂みは縮こまっていた枝を伸ばすように広がり、赤いツヤツヤとした実をいっそう輝かせています。まるで魔法のようにクローバーや木苺に命が吹き込まれ、荒地に緑が広がってゆきました。ベッドカバーの空間がゆっくりゆっくり、荒地に広がっていく、この不思議な光景を、騎士団長も団員も息をのんでみつめています。


「お針子殿、感動いたしました。ありがとうございます。これでこの荒地は生まれ変わることができます。まだ、広い空き地のたった一部分だけの緑ですが、きっとこれからもっともっと広がって美しい緑地となってくれることでしょう。本当になんとお礼を申し上げてよいか」

 団長はお針子を下から一生懸命見上げながらそう言いました。お針子は感激した団長団員に見送られ黄昏が丘に帰りました。


それからというものお針子は騎士団長に貰った勲章と銀の呼子を眺めてはニコニコするのがやめられません。リスはお針子に呆れ顔で言いました。

「次はもっと実のあるお礼をお願いしてよ。そんなものばかり貰っていては、ぼくたち干上がってしまうよ」


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