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Silver Sisters 2 ~HARUNA~  作者: 瑞城弥生
第二章 戦乙女
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 女王陛下の復活から一週間が過ぎた。

 その間は、特に特別な出来事はなかった。一度撤収した連邦も、横から狙っているははず帝国も皇国も、王国に対して攻撃を仕掛けてきたりしなかった。

 魔女も、その手下である魔法少女もあれ以来現れた様子はない。

 それはとてもありがたかった。

 平和なのは喜ばしく、それはいつまでも続いてほしい。

 榛名桜子は心からそう願っていた。


 合同庁舎三十二階の執務室で、王家所属の戦闘メイドである榛名は自席のパソコンを使ってゲームをしながら時間を潰していた。榛名が好んでやるのは、街を作るシミュレーションゲームである。時間つぶしにはこういった類か、さもなくば、錬金術師が活躍する作業ゲームが適している。

 金剛は、復活以降二十四時間、ずっと女王陛下につきっきりだし、比叡は地下のメインフレームの調整に余念がない。とは言え、調整しているのは比叡本人ではなく、伊集院梨絵というシステムエンジニアを中心としたチームである。けれど、そんなことは榛名にはどうでもいいことだった。霧島も、いつも通りどこかに居なくなっていた。

 ゲーム内の都市の人口が十万人超えたところで、ドアをノックする音がした。


「どうぞ」

「失礼します」


 入ってきたのは、王家復活に際し、新しく雇ったメイドだった。

 王家のメイドは定員が二百五十六名と決まっていた。そのうち榛名を含めた上位四人を除けば皆、服装はもとより、髪型を始めとした容姿に大きな違いはない。それこそ見分けがつかないほどである。だからメイドは襟元のブローチと、襟の数字で区別をした。彼女は王家のメイドだから、当然のように雪の結晶のブローチを付けている。襟の番号は二十番だった。名前は知らない。データベースを検索すればすぐわかる。しかし、検索するのも面倒で、特に覚えるつもりも無かったし、必要など無かった。


「榛名様、軍の司令部の方がお見えになっております」


 二十番は、深く礼をしてから、そう言った。採用したばかりなのに、とても訓練されている。流石に番号が若いだけはある。通常、十六番までは副メイド長で、十七番から四十八番までは主任という位置づけだ。


「お忙しいところ恐れ入ります」


 彼女の後ろから、軍人が現れた。将校ではあるようだったが、制服に切られている感は否めなかった。


「北方国境線に連邦軍が集結しているという情報が入りました」


 彼は挨拶もそこそこに本題に入る。慣れてはいないはずなのに、その男は全くもって軍人だった。


「随分遅かったな」


 連邦軍が再び攻めて来るのは時間の問題だった。本当のところ、翌日にでも来ると思っていた。東部方面の司令官を殲滅したから、人事に手間取っていたのだろう。少なくとも占領軍の司令官は有能だった。榛名は直接対峙しては居ないけれど、陸軍の司令官もそれなりに賢明な男だった。魔法少女に殺される直前の対応は、賞賛に値する。そう感じた。


「それで」


 連邦が責めてくるのは規定事項だ。わざわざ榛名に報告するべきことでもない。何かお願いごとがあるのあろう。そしてその内容も、榛名には予想できた。


「実は、我軍の戦力は、その……。まだ」


 軍人は、言いにくそうに言葉をつなぐ。

 もともと王国軍は、軍隊としては大した規模ではない。言ってみれば世界最小だ。兵隊の数も少なかった。そして占領期間中に、その数はさらに減っていった。実質、無いに等しかった。

 連邦軍を殲滅したあと、急遽王国軍の再編を行ったが、退役軍人と志願兵が半々のとても実戦向きの軍隊とは言えなかった。しかも、志願編は新兵である。訓練はまだこれからだ。それでやむを得なく、各貴族が匿っていたメイドを最前線に送っている。それでも数は多くない。

 けれど、あれがいれば、そんな問題は起きないはずだ。


「間に合ってないのか」

「はい。そこで、榛名様にご協力をお願いしたく」


 予想通りの言葉だった。

 ここに来る以上、それ以外の要件はないだろう。

 けれど、榛名にとっては、嬉しくない提案だ。


「霧島は」


 あの戦闘狂であれば、喜んで行くだろう。そう言った案件は彼女の領分だ。


「霧島様は既に西方に」


 二十番のメイドが即答する。

 再度、連邦が責めてくるとしたら、西方の海上からが一番早い。その対応に霧島が呼び出されたのは、無理のないことだった。


「そう」


 とは言え、霧島にしては動きが早い。船を沈めるのが気に入ったのだろうか。


「蘭はどうしてるの」


 あいつが行けば、榛名など問題にならない戦闘力だ。あれは兵器だ。メイドとは根本的に異なっている。


「蘭様は、南部の護衛についておられます」


 またもやメイドが即答した。

戦力を北と西に集中すれば南ががら空きになる、それ乗じて帝国や皇国が責めてこないとは限らない。そのための保険だと思えばやむを得ないことだ。

 それは理解できる。

 つまり、選択肢はもう残っていなかった。 


「分かった」


 仕方なく、榛名は了解する。

 ほかの二人が動けない以上自分が行くしか無い。戦乙女ほどではないにしろ、今の王国軍にとって、榛名が大きな戦力たりうるのは、自分でも理解している。


「下に車を用意しております。我が隊の者が前線までお送りします」

「ああ、よろしくたのむ」


 きれいに敬礼をして、その軍人は部屋を出ていった。


「ご準備は整っております」


 榛名が指示する前に、メイドがそう回答する。やっぱりこのメイドは優秀だ。無理だと分かっているが、自分の近くにおいておきたいと思った。


「ありがとう」


 そう言って榛名は、コンピューターをシャットダウンしてから部屋を出た。都市をセーブするのを忘れていたのに気づいたのは、エレベータに乗った直後だった。

 王室に向かい、金剛に状況を説明し、女王陛下に許可をもらった榛名は、その足で地下駐車場へと向かった。メイドがすべて準備してくれたおかげで、問題なく出立できる。

 地下のモータープールには、軍用車が停まっていた。


「おつかれさまです。月形軍曹であります」


 運転手である若い兵隊は運転席からび出して敬礼すると、そう名乗った。もともと運転手だったのだろう。軍人的な泥臭さは感じられない。

 だが、その男の顔を観て、榛名は息を呑みこんだ。

 似てる。

 あの男にそっくりだった。

 榛名の知るその男はもうこの世に存在しない。他人の空似だとわかっていた。

 でも、懐かしく、嬉しかった。

 この男をしばらく独占できるのだ。

 久し振りに心が踊った。


「あの」


 月形は、不思議そうに榛名を見ていた。


「ああ、よろしくな」


 榛名は、思い出したように返事をしてから助手席に座った。

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