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Silver Sisters 2 ~HARUNA~  作者: 瑞城弥生
第一章 戦闘メイド
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 駅前の合同庁舎の二十一階から三十九階までは、王家の関連施設であり、三十二階が榛名たちの執務室兼居室である。

 魔女から逃げ出してきたは榛名は、まっすぐと執務室に戻った。

 戻る場所はそこしか無い。


「ああ、おかえり」


 事務室には七つの机があるが、今埋まっているのは一つだけだった。


「珍しいな、霧島だけか」


 通常は、金剛と比叡が在席で、霧島だけがいないパターンが多かった。おとなしく机の前で仕事をするなど、霧島には似合わない。


「留守番や、留守番」


 女王復活の直後であるから、それぞれ忙しいのだろう。


「金剛はお姫様のご機嫌取り、比叡は地下室にこもっとる」

「そうか」


 彼女たちは自分のすべきことをしている。霧島にできることは、今はない。

 そして榛名がすべきことは――。

 すぐに思いつかずに自席に座った。


「榛名、あんた」


 霧島が立ち上がり、隣までやってきてから榛名の顔を覗き込む。


「なんか、魔女にでも逢ったような顔しとんな」


 どきりとした。

 それだけで、霧島には気づかれてしまった。 


「魔法少女を一掃したんや、魔女が現れてもおかしくないか」


魔法少女を絶滅に追い込むなら、その根源の魔女を倒さなければ終わらない。けれど榛名には、いやメイドには、魔女を手に掛ける事は許されない。

 それは、ユキから与えられた制約だった。

 いや、そうでなくとも榛名では魔女には勝てない。魔女の力には抗えない。


「せやけど」

「なに」

「いや、別に」


 霧島は、何かをいいかけて止めた。

 榛名も別に追求したりしない。言いたいことはわかっている。伊達に長い間共に生きてきたわけではないのだ。


「ちょっと付き合わないか」


 ふと思いついて、榛名は霧島を誘ってみた。


「ん?」


 榛名は無言で部屋を後にする。霧島も黙ったまま着いてきた。


 合同庁舎の三十三階には訓練場があり、主にメイドの研鑽に使われている。防音だけでなく、壁面は必要以上に強固に出来てる。この部屋でなにをしようが問題ない。多少の爆発程度ではびくともしなかった。

 榛名はそこに霧島を連れてきた。霧島は榛名の意図に気付いている。


「どういう風の吹き回しやねん」

「たまにはいいだろ。相手してよ」


 訓練所の中央へと榛名は向かった。それから日本刀を実体化させて霧島を待つ。

 戦闘メイドは他のメイドより戦闘力に於いてずば抜けている。その為、本気で相手できるのは同じ力を持つ戦闘メイドだけである。フェアリーズでは物足りず、戦乙女は少しばかり強すぎた。

 けれど、戦闘メイドの四人は、序列されることを好まない。いや、認められていないという方が正しかった。故に、練習試合すら滅多にしない。

 しかし今日はそんな気分である。

 少しばかり発散したい気分だった。


「ええで。うちもすこし暴れたいとおもってたんや」


 霧島も、同じように日本刀を実体化させる。

 訓練場の空気が張りつめた。

 まともにやりあって霧島に勝てるわけはない。単純な戦闘力で言えば、四人の中では一番だ。榛名にはそれを打ち破るようなものはなにもない。

 金剛のような戦術も

 比叡のような戦略も

 榛名は何も持っていない。何一つ使えない。

 自分の長所に思い当たらず、どうして戦闘メイドの一人としてここにいるのか、それさえも分からなくなって――。

 榛名は考えるの止めた。


「では、行くよ」


 作戦も何も無しで、ただ、霧島に向かって飛び込んだ。


「おっと」


 霧島にとって、それは意外だったのだろう。一瞬だけ対応が遅れた気がする。

 それに付け込み刀を振るが、その程度で霧島の隙きをつけるはずなど無い。

 榛名はまだ本気を出していなかったが、当然霧島も余裕だった。


「ウォーミングアップはもうええかな」

「ああ、問題ない」


 霧島の動きが加速する。榛名はほとんど防御に徹するしかない状態だった。だが、そこで思い出した。榛名の長所は防御だったことに。

 だから、霧島の攻撃は、榛名にとって致命傷には成りえなかった。


「調子いいんじゃないか。戦乙女との対戦は楽しめたようだな」


 魔法少女殲滅戦の過程で、霧島は魔法少女渉外部のナンバーワンとして活躍してた大谷地八千代と対峙した。しかし彼女は記憶を改ざんし、魔法少女として潜入していた戦乙女の伊集院蘭であった。霧島はそれを知っていながら、戦いを楽しんでいたらしい。


「ああ、あれな。せやけど本来の力を封印されてたんやから、大したことなかったわ」


 軽口を叩きながらも、霧島は攻撃を緩めない。

 その攻撃はやっぱり洗練されていて、隙きがなかった。


「失礼れいしま――」


 緊張感を打ち破るかのように、突然誰かが訓練所に入ってきた。メイドである。見覚えのある顔ではないから新人だろう。

 運悪く、霧島のはなった斬撃がその新人のメイドを襲った。新人では、いや新人でなくとも通常のメイド程度では、霧島の攻撃に対処できるはずもない。


「危ない」


 榛名が叫ぶ。

 雇ったばかりの新人を不注意で失うのはもったいないし、申し訳ない。過失とは言え、あとで金剛に嫌味をいわれるのは間違いなかった。

 しかし、その斬撃は、新人の目の前で弾かれて霧散する。


「大丈夫ですか」


 新人メイドを庇うように、長いナイフを握ったメイドがいた。

 第六席の加江理ヨシアだ。

フェアリーズの中で、最も戦闘力の高いと定評の彼女であれば、流れ弾程度なら弾くことは可能だろう。たとえ霧島の放った斬撃であったとしても。


「すまんな」


 霧島は刀を散らして、ヨシアに謝る。


「いえ、こちらの落ち度です。申し訳ありませんでした」


 ヨシアがそう謝っている後ろで、新人のメイドは固まっていた。その後ろにもう三人いるようだが、言葉も出ないようだった。

 王国独立によりメイド禁止令が廃止されたことを受け、王室でも四十八名ほどメイドを緊急採用した。まだ研修中だから、その一環としてここに来たのだろう。この部屋はヨシアの管轄だった事を、榛名は思いだす。

 驚かせて悪いことをした。

 すぐに終わると思ったから、オンラインの予定表に書き込むのを忘れていた。完全に榛名の落ち度である。しかし立場的に謝るのはヨシアの方であるし、それは組織として間違ってはいなかった。

 けどまあ、悪いとは思っている。

 思っているだけだけど。


「きょうはここまでにしよか」


 霧島はもうやる気を失っていた。


「ああそうだな」


 榛名もそれに同意する。

 異論はなかった。


「ほな」


 何事もなかったかのように、霧島は先に部屋を出ていった。

 榛名とヨシア、そして新人三人がその場に残された。


「珍しいですね。お二人で模擬戦なんて。どういった心境の変化ですか」


 不思議そうな表情でヨシアが尋ねる。

 霧島とは、最初の頃は何度か対戦したことがあった。けれど、最近は全くだ。珍しいと言えば珍しい。


「時には、そういう気分になることもあるのさ」


 けれど榛名は、どうしてそういう気分になったのか自分でもよくわからなかった。

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