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Silver Sisters 2 ~HARUNA~  作者: 瑞城弥生
第一章 戦闘メイド
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「ちょっと野暮用が出来た」

 

 戴冠式的なイベントが終わり、女王陛下が金剛と合同庁舎へ戻るのを見送ってから、榛名は暇そうにしていた比叡にそう耳打ちした。霧島はもう居なくなっていた。


「なに、いい男でも見つけたの?」

「ちがうって」


 比叡の軽口を否定してから、榛名は一人でその場を離れた。


 イベント会場である駅前広場を抜けると川があり、大きな橋が架かっている。その橋の中央付近に少し広くなった部分があった。展望広場と呼ばれていて、ベンチなんかも置いてある。ちょっとしたスペースだった。


 その展望広場の欄干には紗英がいて、物寂しげに川面をみている。

 榛名は気づかれないようにベンチに座った。

 夜も近いからだろう、ベンチはすこし冷たかった。

 すぐに紗英は榛名の存在に気づいたようだ。そして紗英は、榛名と視線を合わせないように、その脇を通り抜けていく。

 必要以上に警戒しているのは、榛名がメイド服のままだからだろう。魔法少女にとっては、いや、一般の国民にとっても、この国のメイドというのは特別な存在だ。


「さっちゃん」


 榛名は、紗英の後ろ姿に向かって呼びかけた。

 それは不用意だった。不用心だった。

 なぜそう呼びかけたのか、榛名自身さえ驚いた。

 紗英は立ち止まると首だけで振り返る。

 その表情は、まるで――。


「何をしに、来たのかな――」


 その声も、話し方も、本道紗英とは違うものだ。別人と言ってもいいい。


「桜子」


 紗英の表情からは戸惑いが感じられる。自分の口から出た言葉が信じられないようだった。そして榛名を呼び捨てにした紗英の声は、とてつもなく冷たかった。

 恐ろしかった。

 王家のメイドは社会的地位も一般人より数段上だ。王家のメイドを呼び捨てに出来る存在は、それほど多くは居ない。だが、紗英の言葉から感じる力はそんな生易しいものではなかった。

 紗英が纏っている雰囲気で、榛名は自分の中に芽生えた疑問に対する答えを見つけた。


「顔を見に来ただけ。そう、それだけです、サクラさん」 


榛名は、確信を持ってそう答える。

 紗英はその言葉に動揺し、その後、思い出したようににやりと笑った。

 この国では女王陛下の名前として使われている『ユキ』と同様に、『サクラ』という名前も特別な意味を成す。


 ユキの妹。


 ただそれだけである。

 けれどそれは同時に、ある存在を証明する。


 魔女。


 魔法少女の生みの親。


 奈々子と対峙した時点で気づいていた。けれどその時確信はなかった。

 だが今は疑う余地すらまったく無い。

 紗英のその微笑みが、すべてを物語っていた。

 それ以上触れてはいけない。

 それ以上踏み込んではいけない。

 そう心の声が訴えかけてくる。


「それでは、お元気で」


 榛名は表情を変えずに、そう言い残してその場から消えた。

 いや、逃げ出した。 

一目散に逃げ出した

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