五
「悪いけど戻ってくれへん?」
霧島は、嫌な気を感じて、運転手に声をかけた。
「よろしいんですか」
「かまへん」
前線基地から二十分くらい走っただろうか。急ぐ必要はないけれど、確認はしなければならない。
車が前線基地に戻るのに、当然同じだけ時間がかかった。その間、霧島は一言も話さなかったし、運転手も、助手席の女性も話しかけたりしては来なかった。
霧島がそんな雰囲気を漂わせていたからだけれど、それを感じて、きちんと対応してくれた二人には感謝した。
「着きました」
「おおきに」
車を降りた霧島は、まず最初に吉野瑞希を探した。
見た目は小学生のあれが、とてつもない兵器だというのは知っている。その本性を見たことはないけれど、共有アーカイブの映像記録で確認してある。メイドで戦闘力最強を自負する霧島でも、瞬殺されるほどの機動力と攻撃力だ。間違っても怒らせたたりしないように、と少しだけ注意するよう心がけた。
瑞希は小高い丘の上で、敵の司令部があるであろう方向を眺めていた。
瑞希は霧島に気づいても、視線をを動かしたりしなかった。
「戻ってきたんだ。そんなに榛名のことが心配なのかな」
図星だ。
だけど簡単に認めるのは癪だった。
「そないことは」
「ああ、めんどくさいのが来たみたいねぇ」
瑞希には、敵の前線基地の様子が見えているらしい。
それくらいのことは、こいつならやってしまいそうだった。
「なんやそれ」
けれど、めんどくさいものについては気になった。
「魔女よ、魔女」
「魔女?」
魔法少女の生みの親とである魔女は、長い間姿を現していない。もはやその存在自体不確かなものである。魔法少女の間でさえ、都市伝説と呼ばれているほどだった。
その魔女が現れたというのであれば……。
「榛名がヤバイんとちゃう?」
「そうだね。でももう遅いかな」
チクッとした痛みが霧島の頭に走る。
「ブローチごと破壊されちゃった」
戦闘メイドとフェアリーズは、ブローチを破壊されると体を維持することができなくなる。そしてブローチの再生には一定の時間がかかる。戦闘メイドの場合は、数年、早くても一年はかかるはずだ。榛名の戦線離脱は確定だった。
仇討ちに霧島が行ったところで意味はない。それがわかっているから、霧島は何も言えなかった。
「相手が魔女さんでも関係ないので、そろそろ私は行くですよ」
如月女学院の制服姿の少女が右手を前にかざす。
「ダーレ=フォルザ」
それは戦闘メイドと共通の呪文だった。
国章とともに、瑞希は一瞬でゴシックロリータ少女に変身した。
全身真っ黒で、見るからにまがまがしい。
けれど彼女の顔立ちだけは美しかった。
美しすぎた。
瑞希は軽く手を上げて挨拶すると姿を消した。
そして静寂が訪れた。
しばらくしたら瑞希は司令部司令部に殴り込むだろうし、王都にいる伊集院蘭が遠隔操作による大量破壊兵器で、前線を文字通り消滅させるだろう。
戦争は終わる。
霧島は大きくため息を付いて、王都に戻るため再び車へ戻ろうと歩き始めた。
「失礼します、霧島様」
途中で、伝令の兵隊が霧島を見つけて走ってきた。
「なんや」
「敵軍の魔法少女が投降してきました。我々では対処できないのでお願いします」
本当は瑞希を探しに来たのだろう。
でも彼女はいま敵陣だ。命令系統の順位的に霧島になるのは仕方ない。
「ええで」
司令部前の広場には、魔法少女が4人いて、全員その場に座っていた。
特別拘束はされていない。
一般人が魔女を拘束するのは不可能だ。
吉野家のメイドでも、それは変わらなかった。
「なんや桜花やあらへんか」
四姉妹と絵付きとはわずかながら交流がある。お互いの顔と名前ぐらいは知っていた。
「久し振りやなぁ。一緒に王都のイチゴパフェを食べに行って以来やな」
その言葉に、桜花以外は驚いていた。
魔法少女と戦闘メイドの対立についてはいまや国民の誰もが知るほどだ、魔法少女だけでなく吉野家のメイドでさえ、二人が仲良くパフェを食べるところなど、想像できはしないだろう。
「そうね。あなたがいてくれて助かったわ。私たちは投稿します。伊集院蘭様にそう伝えてくれないかしら」
一人は意識を失ったままだし、他の二人も反抗する気はなさそうだった。
「蘭が身元引受なん」
多分そういう話はついているのだろう。
「ええ、そういう話は吉野様ともついているわ」
疑うだけ無駄なのは分かっていた。
「まあええけど、あれは今忙しいから」
今頃は高度な演算処理中だろう。話しかけたらどやされる。
霧島は、宇宙を見上げた。
その時、宇宙からやってきた一筋の光が、連邦の前線基地に落ちていった。
巨大な爆音と共に爆風が、霧島たちのあたりまで吹いてきた。
「そやね、一緒に王都まで行こうか。話はそれからや」
決着はついた。
もう急ぐ必要はない。
「そうしてくれますか。お願いします」
桜花が深く頭を下げた。
「しゃあないわ」
後は事後処理だ。
戦争が終わったことを、霧島は実感した。




