一
「そっか。じゃあ、帰ろうか」
霧島柊樹の言葉に、榛名桜子は素直に従った。
魔法少女にはもう用はない。あとは、戦乙女である吉野瑞希の仕事だった。
駐車場には軍用車が一台停まっていて、運転席と助手席の扉の前にはそれぞれ若い兵士が立っていた。二人の兵士は榛名たちを見つけて敬礼する。まるでお手本のような素敵な敬礼だった。
ちょっとばかり、此処に来るときの運転手を思い出す。
「お疲れさまです」
二人はそれぞれの後部座席のドアを開き、榛名たちを誘導した。
「おおきに」
霧島はそのまま運転席の後ろに座った。
けれど、榛名は車に乗るのを躊躇していた。すぐに乗り込むことが出来なかった。
ドアの前で立ち止まり、ゆっくりと振り返える。
それから戦場と、その先にある敵陣地へと視線を向けた。
「どないしたん」
いつまでも乗り込まない榛名を心配したのだろう。車の窓を開けて、中から霧島が声をかけてきた。
「いや」
できるだけ冷静を装ってそう答える。
だけど、霧島には気づかれていた。
「心配なんやろ。行ってきたらいいやん」
心配なんかかしていない。
そのはずだった。
だけど、心が落ち着かない。
彼女たちを置いて行くことはできなかった。
魔法少女を見捨てることは出来なかった。
魔法少女などとっくに捨てたはずなのに。
だけど、でも……。
榛名は決心した。
「悪いな」
「ああ、行って来い」
霧島はそれに答えて軽く手を振る。
細かいことにこだわらないのは霧島の数少ない美点である。
少なくとも榛名が霧島に対して好感を持っているポイントではあった。
「あまり遅うならんといてや。今夜は戦勝パーティーやからな」
多分そうなるだろう。いや、戦乙女まで出ているのだ、勝ち戦はまったくもって確定事項だ。料理担当のメイドが、すでに準備を初めているに違いない。
その点は心配していない。
「ああ、遅れないように気をつけるよ」
榛名は霧島にそう答えたけれど、なんとなく死亡フラグっぽかったと反省した。
けれどそんな考えはすぐに忘れ、前線基地へと足を運んだ。




