三
目の前で崩れ落ちていった成子を見届けてから、桜子は本命の相手を探す。
涼子はもう姿を消していた。
近くに気配も感じなかった。
「逃げ足は早いわね、相変わらず」
魔法少女としての桜子は、正直強かった。十番より下ならば瞬殺できた。やったことはないけれど、多分間違いないだろう。
そしてこの新しい力があれば、エースにも勝てそうな気がした。
だからといって、エースを相手にするつもりなどない。
現時点では、そうする理由も、意味もなかった
止むを得ず成子を殺してしまったけれど、その情報を持ち帰った涼子はどうなるのだろう。独断専行を諌められるか、それとも魔法少女の総意としてあくまでも桜子を排除しに来るか。
いずれにしても戦うしか無い。
桜子にとって、魔法少女は、古くからの友人ではなく、この瞬間から敵になった。
敵としか思えなかった。
「どやった?」
遠くから様子をうかがっていたであろう霧島が、楽しそうに笑いながら現れた。
桜花あたりが来ていたら戦況も微妙だった。桜子より戦闘力が長けている霧島が控えてくれていたから、安心して対決に望めたのは大きかった。
「素晴らしい力ですね」
それでも、そんな心配をする事がないほどの力だった。
「そら良かった。それで、どないするんだ」
桜子の復讐はまだ終わっていない。
倒すべき涼子は、逃げてしまったのだから。
「仕方ないです。次の機会を待つとしましょう」
「せやな」
桜子は、両手を失い倒れている成子をみて思いついた。
「そうですねぇ」
そして彼女の死体を担ぎ上げた。
それを見ていた霧島が怪訝な顔をする。
当然だ、そんなもの持ち帰ってどうするのだろう。
霧島は何も言わないけれど、桜子には霧島の気持ちがよくわかった。
「ちょっと実験をしてみたいんですよね」
だから、普通に説明した。
「実験ってなんや」
説明になってなかった。
「多分博士も喜んでくれると思いますよ」
魔法少女と言えども蘇生の魔法は使えない。どう考えたって、人間は生き返ることなど出来ないのだ。
ただ、桜子は考えた。
蘇生がだめでも再生なら可能かもしれない。再生というか再利用と言うかリサイクルというか。伊集院博士の研究成果を応用すれば、この死体は立派な戦力と成るだろう。
「意外とじぶん、やばいやつやなぁ」
それを聞いて、楽しそうに霧島は笑った。
「わたしはね、本当は普通の人間の生活をしたかったんですよ。普通に生きたかったんですよ。普通にOLをして、普通に恋をして……」
だから、桜子は涼子を許せない。
涼子が壊したものは、それが不可抗力だとしても、桜子にとっては大き過ぎた。
「だからもういいんです。どうせ叶わぬ望みなのだから、これからはずっと女王陛下のために尽くすつもりですよ」
桜子は決心した。
もう後には戻れない。
戻る気もない。
「まあ、まだ女王ではないんだけどな」
霧島がツッコミを入れる、
「それは些細な事ですね」
そう。桜子は、すべてをユキに捧げることに決めたのだ。




