二
孤児院には十三人の少女がいた。
少女というより幼女だった。物心がついて、それほど時が立っていない純真無垢な幼女だった。
そして彼女たちの前にはスーツ姿の女性がいた。
「ごきげんよう、皆さん」
その女性は魔女だと名乗った。
絵本で見る魔女は、鉤鼻の老婆であり、黒い三角帽に黒マント姿である。
しかし彼女は、目の前の魔女は、そのイメージとはほど遠く、端正な顔立ちで、とてもかっこよかった。
そして魔女は、少女たちに言葉をつなげる。
「あなた達には魔法少女になっていただきます」
魔法少女。
それも絵本で見たことがある。
可愛らしいワンピースに魔法のステッキ。悪を倒すその姿は、憧れの対象だ。
冷静に考えれば、胡散臭いことこの上ない。けれど一体誰が、魔法少女になれるという誘惑を断ち切れるというのだろう。
事前検査の結果、その適正をもとに十二という番号を割り振れられた少女にとっても、それはとても心躍る出来事だった。
麻酔薬を打たれ、しばらく意識を失った後、目覚めると、すでに魔法が使えるようになっていた。
訓練では、主に戦闘力を中心に鍛えられた。回復魔法も幾つか覚えたが、攻撃魔法や攻撃系の補助魔法が多かった。
それはそれでとても楽しかったし、その時はまだ幼子だったから、特段疑問を挟むことなどなかった。
中学過程までは孤児院で、十三人が一緒に学んだ。
高校は、十三人揃って地元の公立に進むことになった。
卒業まで訓練は続いたが、実践は一度もなかった。
外での魔法使用は禁じられていたし、そもそも何のために魔法少女にされたのかも謎であった。それでも同期十三人は、そのことに疑問を感じても決して口に出したりしなかった。
魔法少女になると同時に割り振られた数字は、高校卒業時にそのまま序列として採用された。番号のもつ意味はトランプと同じだった。エースが最強で、キングから二までの順で並べられた。
十二番を与えられた浮間桜子も、魔法少女の中では上位にランクされていたけれど、高校を卒業するまで、実践は一度もなく、魔法を使う機会も殆どなかった。
その当時は、仮想敵すらいなかった。
高校を卒業した桜子は、旅行会社に就職した。同期のうち九人は警備関係の仕事についたが、残りの四人は、普通に、普通の会社に就職した。
桜子は国内専用のツアーコンダクターとして、日々を忙しく過ごしていた。
二年ほど経ったころ、その会社が企画するツアーにある青年が頻繁に参加するようになった。桜子より四つ年上の青年は、大学を卒業したばかりの公務員だった。
大学に進学するのは、公務員、研究者、経営者そして政治家になるような連中だけだ。
その青年は、北見明宏と名乗った。
「浮間さんが担当だとツアー楽しくってね。次はどこに行かれるんです」
北見は、そんなことを言いながら、よく桜子のツアーに参加しては、桜子に声をかけてきた。
エリートだし、顔も悪くない。何度も参加して来るうちに、桜子は北見に心を惹かれてきた。
けれど、それ以上はどうすることもできなかった。
桜子は魔法少女だ。
魔法少女は、魔女と性質を同じくしている。
つまり、生きている時間軸が、一般の人間とは異なっていた。
ほとんど老いることなく生き続ける魔法少女である桜子は、早々と年老いて死んでしまう一般男性と一緒になる事はできないのだ。
だから、魔法少女になったことを、この時ばかりは恨んでしまった。
そしてこの心を、この気持を桜子は押さえ込んだ。
飲み込んだ。
忘れようとした。
忘れ去ろうとした。




