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Silver Sisters 2 ~HARUNA~  作者: 瑞城弥生
第五章 復讐
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 後悔。


 榛名桜子の胸のうちには、久しく生じ無かったそんな感情がうずまいでいた。

 魔法少女の中でも特別な存在であるカーズが三人いたとしても、戦乙女である吉野瑞希の敵ではない。それはわかっていた。

 だから、演算力が足りないのが原因で、戦闘メイドとしての最終形に移行できない榛名は、素直に負けを認めて後ろに下がるという選択肢はあった。万が一にでも倒されたりしたら、再起動に長い時間がかかってしまう。

 それだけは避けたかった。

 けれど、たとえ作戦であっても、自分より格下の魔法少女に再び敗北を期すわけには行かないのだ。それは、戦闘メイドとして許されないことだった。

 とは言え、そのままでは勝てないからと、不用意に魔法少女になったのは明らかに失策だった。

 同じ魔法少女としてであれば負けたりしない。

 そんな思惑があったにしろ、それは禁忌だった。

 戦闘メイドとなってからは、一度だって魔法少女になったことはない。

 それは自分に課してきた戒めでもあったのだ。

 榛名は魔法少女の変身を解き、いつものメイド姿に戻ってから、戸惑っている吉野家のメイドたちに歩み寄った。


「今見たことは忘れなさい」


 メイドとは、霧島や十三番のような一部の例外を除いてとても空気の読める存在だ。

 吉野家のメイドであれば、絶対に他言はしないだろう。

 一般のメイドはとてつもなくデキる子なのだ。


「僕からもお願いね」


 榛名の後ろには、いつの間にか瑞希がいた。

 戦闘態勢を解除し、いつものように如月女学院初等部の制服を着ている。

 そのままの姿であればか弱い女子小学生にしか見えないのだから、笑えない。


「初めてみたんだけれど、すごくかわいいじゃない、魔法少女」


 お付きのメイドには口止めしながら、自分はまたその話題を蒸しかえす。戦乙女の傍若無人さは今に始まったことではない。それに振り回されるメイドたちも気の毒だと桜子は隣りにいるメイドたちをちらりと見やる。

 それから、瑞希に向き直った。


「冗談はやめて」

「冗談じゃないよ~。ねえ、もう一回変身してくれない?」

「嫌だ」


二度と魔法少女には変身するまいと、いま誓ったばかりである。そうでなくとも、あれは本当に追いつめられたときしか使えない。使いたくない。

「そんなこと言わないでさ、一度戦ってみたかったんだよね、絵付きの魔法少女とさ」

 それこそ冗談じゃない。

 いくら絵付きとは言え、戦乙女と魔法少女では戦闘力が違いすぎる。たとえ、瑞希にリミッターがかかった状態だとしてもだ。

 何もできない。

 何もさせてもらえない。


「冗談はやめて」


 榛名はもう一度同じ言葉を瑞希に返した。


「残念だよ~」

「てかさっき戦ったよね」

「あ、そっか」


 先程相手をしていたのがカーズだったというのを瑞希は失念していたらしい。最も、瑞希にとって人間は等しく虫けらのように感じるだろうが。


 この国には、いや世界には瑞希たち戦乙女の相手になるような兵器でさえ、それほど多くは存在しない。世界最大の太平洋艦隊を戦乙女がたった三人で壊滅させた事実は、それを裏付けている。

 とは言え、もとより「防衛」のための戦力だ。その力を持ってすれば世界征服が可能であっても、システム上不可能とされている。そもそも物理的な制約から、彼女たちは、自らの担当地域を著しく離れる事はできなかった。それは、榛名たち戦闘メイドが単独で首都から離れると著しく戦闘力が低下するのと根本的には違わなかった。


「そういえば、さっき中央から連絡があったよ。再起動が完了したんだってさ」


 それは、五人の戦乙女が全員目覚めたということである。つまり、この国の防衛システムの完全復活を意味していた。


「あの人、此処と西を一撃で沈める気だね」


 最強艦隊を殲滅した三人とは、瑞希が中央と呼んだ伊集院蘭、西の守りを担当する柏崎五月、そして、この吉野瑞希だ。

 五人のうち三人だけでも本気で動けば、目の前の連邦軍など瞬殺だろう。

 持って三十九分というところか。


「魔法少女は……」


 榛名は少し言葉に詰まった。

 聞くべきかどうか一瞬迷った。


「連邦にいる魔法少女はどうするの」


 けれど、聞かないわけには行かなかった。何人が連邦軍に加担しているかわからないけれど、少なくとも幼馴染である十条桜花は向こうにいる。そのまま殲滅するのは、少しばかり寂しかった。気がかりだった。


「さあねぇ、手は打ってあるみたいだけど」


 瑞希は一旦言葉を切る。


「間に合わなければ全滅かな。心配?」


 すでに戦闘メイドである榛名にとって、魔法少女を心配する必要などない。彼女たちが自らの選んで進んだ道だ、滅びるなら仕方がない。頭では分かっているし、そんな感情など、とうの昔に捨てたはずだ。


「いや、別に」


 だから榛名はそう答えるしかなかった。

 自分はもう、魔法少女ではないのだから、心配する理由も必要もなかった。

 無いはずだった。


「連邦もしばらくは攻撃しては来ないと思うし。此処はもう私一人で十分かな。榛名ちゃんはもう首都にかえってもいいよ」


 それは規定の事実である。

 瑞希が、戦乙女が完全賦活してしまえば、戦闘メイドと恐れられる榛名といえど足手まといである。それに今は力が完全ではない。足を引っ張ることも考えられる。


「そうするよ」


 だから榛名は、そう言って前線を後にした。

 

 司令部まで戻った榛名は、帰りの車がないことに気づいた。そして運転士の青年を助けられなかったことを思い出した。彼を殺したのが魔法少女であることも思い出さずにはいられなかった。

 本当は、恨んでいた。

 榛名は魔法少女を恨んでいた。

 だから、自分がまた魔法少女になったことを思い出し、ひどい嫌悪感に襲われた。

 あの時も、彼を助けられなかった。

 無残にも殺された。

 簡単に殺された。

 今の自分なら、同じように同じことを、何も考えずにできるだろう。

 けれど過去の記憶と重なって、榛名はその場で倒れ込む。

 感情など、とうに捨てたはずなのに。

 その思いは忘れられない。

 彼への愛は忘れられない。

 無念

 怒り

 恨み

負の感情が榛名の心を支配していく。


「どないしたんや」


 突然の声に反応して顔をあげると、霧島が立っていた。

 背の低い三つ編み赤毛の少女は、いつも通りメイド服で、いつもどうり笑っていた。


「随分とつらそうやな。なんかええことでもあったんかいな」


 榛名の心に渦巻いていた負の感情が消えていく。

 優しげな霧島の言葉が、榛名の心を癒やしてくれた。


「ああ、大丈夫。ちょっと過去に取り込まれそうになっただけ」

「そっか。じゃあ、帰ろうか」

「そうだね。そうしよう」


あの時も、たしか霧島に救われたのだ。

 榛名にとっては、とても大事な同僚だった。

 いや、友人だった。

 普段気を利かすこともないのに、肝心なときには、自然と榛名を支えてくれる。

 霧島は、榛名にとって大切な親友となっていた。

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