六
勝ったと思った。
みんなの仇が打てると思った。
悲願が叶うはずだった。
あの時の戦闘メイドを倒すチャンスだった。
だけどどうして、眼の前にいるのは、戦闘メイドではなく魔法少女なのだろう。
リアは振り上げた斧を、振り下ろすことも出来ずに固まっていた。
カーズと呼ばれる最初の十二人の魔性少女の名を受け継いだリアは、魔法少女の中でも戦闘力がかなり高い。しかしカーズの中には一度も代替わりをしていないのが六人いる。
その中でも絵付きと呼ばれる四人の魔法少女は、もはや魔女と言ってもいいほどの存在だ。今回共に戦ってくれているジルもその一人である。ジルは、リアでは相手にならないほど強いはずだ。
そして絵付きは皆、腕に腕章をつけている。理由は分からないが、そのことは以前から知っていた。そしてジルの変身姿を見て確信した。
ジルの赤い腕章には白地でJと書かれている。ジャックを示す記号だった。
そして目の前の少女の腕にも腕章が巻いてあった。
つまり彼女は間違いなく魔法少女であり、カーズであり、しかも絵付きだった。
赤い腕章には、白い文字がかかれていた。
「ヒメ?」
それは、Qの文字だった。
クイーンを示す記号だった。
絵付きの中で、唯一居場所がつかめていない魔法少女がそこにいた。
ヒメがそこに現れたことは何より驚きだ。けれどずっと恨み続けてきたメイドが、実は魔法少女だったという事実に、リアは言葉もでなかった。
唖然とした。
「さて、これなら貴方にも負けません。すこしチートではありますけれど」
榛名は、いやヒメの武器は、日本刀ではなくステレットであった。
鉄紺色と呼ばれる深い青色の衣装を身に纏ったヒメの気に押され、リアは後ずさる。
ジルに逢った時、ジルは魔法少女に変身していなかったし、敵対してもいなかった。だから、絵付き本来の力を感じたのはこれが初めてだ。
その圧倒的な力の差に、目眩がしてきた。
そして厄介なことに、相手を殺せば自らもその力も失ってしまう。
それが始まりの魔法少女であるカーズに掛けられて呪いである。カーズ同志の殺し合いを避けるためはるか昔に作られたおまじないだ。
だからリアはヒメを殺すことは出来ないし、リアもヒメに殺されることはない。
けれど勝負は決まっている。
リアには何も出来なかった。
逃げることしか出来なかった。
けれど動くことさえできなかった。
「大丈夫ですか」
いつの間にか、ジルがリアの後ろからリアの体を支えていた。
「久しぶりね。桜子。ほんと久しぶり」
ジルが懐かしい友だちに会うかのような優しい口調で相手に魔法少女に語りかける。
「そうね、桜花。二度とこの姿で会いたくは無かったわ」
そして、敵の魔法少女もまた、静かに答えた。
リアはまるで此処が戦場ではない錯覚に囚われた。
戦乙女は、すこし離れた位置で立っていた。
いや正確に言えば、戦乙女の足元にはジルが連れてきた魔法少女が倒れていて、戦乙女はその上に立っていた。
連邦軍の戦車はすべて動きを止めていて、連邦軍でまだ残っているのは、リアとジルだけという状況だった。
今回も連邦軍の惨敗だ。
「積もる話もあるのだけれど、今日はもう帰りますよ」
ジルは、倒れそうになっているリアを抱きかかえてそう言った。
「本音を言えば、もう来ないでほしいのだけれど」
ヒメは、嫌そうにそう答える。
「そう言わないでよ、仲間じゃない?」
「冗談はやめてくれないかな、もう仲間なわけ無いでしょう」
そう言ってヒメは、桜子は魔法少女の変身を解いてメイド服の榛名に戻った。
ジルは、少しの間彼女を見つめてから、抱きかかえていたリアを離した。
「それもそうね。私たちはあの日からずっと敵だった。では帰りましょう、リア。さようなら、……メイドさん」
最後の言葉を選ぶように呟いてから、ジルは短い呪文を唱えた。
*
一瞬で、ジルは、リアとカデレを連れて司令部に戻った。カデレは気を失って、すぐ側に転がっているが、リアはジルの手を振り払うと、乱暴にパイプ椅子に腰掛けた。
リアは、明らかに納得行かない風体だった。
「仲間の魔法少女の仇であるはずのメイドが、実は魔法少女でしたとか、ほんとうに笑えない冗談よね」
リアの横に、ジルは静かに腰掛ける。
「知っていたんですか」
リアが驚いた様子で尋ねる。
「まあね、なんせあれとは魔法少女になる前からの知り合いだからね」
魔法少女になれるのは其の才能も去ることながら、孤児であることが条件だった。最初に魔法少女になった十三人は、同じ孤児院の出身である。ジルもヒメも、初代のリアも幼馴染だった。腐れ縁だった。
「でもなんで、どうして」
だからこそ、リアには納得いかないのだろう。
「知りたいですか、彼女の事。魔法少女がどうして戦闘メイドになったのか」
それは、簡単に出来る話ではない。複雑で、厄介な話である。
説明するのはとてつもなく億劫だ。
本来面倒くさがりではないジルであっても、面倒に思えるほどに。面倒だった。
それでも、リアの名前を受け継いだ彼女には、それを知る権利がある。
それを知る、義務がある。
それは否定できない事実だった。
ならば。
「わかりました。お話しましょう。とっても長くなるけれど」
「はい、お願いします」
興味深々な視線のリアを見ながら、ジルは大きくため息を付いた。




