三
魔法少女にとって、王国への潜入は簡単だった。と言うより、王国の入国管理はザルだった。国際的な犯罪者であっても、割りと簡単に入り込める。
ただし、疑わしき人物は完璧な監視下に置かれていて、ほんの些細な犯罪でも即刻逮捕されてしまう。それだけ警察力は優秀だった。場合によっては、その場でメイドよって処刑されることもある。
そういう理由で、リアでも簡単に入国できた。
シスカ国際空港は、シスカの街なかからバスで三十分ほどの立地に有る。駅前で連絡バスを降りたリアは、早速オンダに教えられた店へと向かった。
駅前の商店街を南へ進み、アーケードの途切れたところを右に折れてから、細い路地を進んでいくと、怪しげな店があった。
看板には雑貨と書かれている。
取り扱っている商品は、たしかに雑貨に違いないが、外観からして怪しかった。店内はいかにも魔女がいそうな雰囲気で、常人には近寄りがたいディスプレイになっていた。
しかしどういうわけか、店の中は制服姿の女子高生で溢れかえっている。
こういう場所に来るのだからと、リアも久しぶりに軍服を脱いで、可愛らしいワンピースでやってきた。自分では似合っているとは思わないが、同室の同僚には好評だった。
確かに十代の頃にはこういう服装にも憧れた。見た目は十代とは言え、実際はアラサーであるリアにとっては、少々ハズカシイ服装ではある。
「あれ、可愛くない?」
すれ違う女子高生にそう言われ、リアの顔が赤くなる。ハズカシイという感情も、随分久しぶりだった。
リアは、店内の商品の奇抜さに顔をしかめながら、それらには見向きもせず、まっすぐとレジへ向かう。途中、店員は何人かいたけれどみな若かった。リアは一番奥のレジで、一番偉そうにしている娘に狙いを定めた。
他の店員とは雰囲気が少し違った。
「いらっしゃいませ」
店員は輝かんばかりの笑顔になる。
店の雰囲気とはかけ離れた爽やかさだ。店のコンセプトが全く不明である。
「ちょっと聞きたいんだけれど」
そんな考えをかなぐり捨てて、リアは店員に問いかける。
聞くべきことは一つだけだ。
「はい、どのような商品をお探しですか」
店員は、ただの客だと思ってそう答えた。
「いや商品ではなく」
しかしリアが探しているのは物ではなく、人である。
「はい?」
「ジルに会いたい」
店員がかすかに動揺した。
通常なら見逃してしまうほど僅かな反応だった。
「申し訳ございません、そのような人物は当店には――」
冷静を装うために笑いながら、店員はリアに対して否定で答える。
「ジルを呼んでくれ、私の名前はリアだ。そう伝えてくれればわかる」
店員の笑顔が消えた。
「お客様、申し訳ございませんが、一旦お引き取りください」
その言葉とほぼ同時に、リアの端末にメールが届いた。
『本日二十二時に、裏の公園に来てください。ジル』
メールを確認したリアは、店員を一瞥する。
店員は、今度は冷たく微笑んだ。
「分かったよ。ありがとう」
回れ右して店を出たリアは、アーケードへと戻ってから、夜まで喫茶店で時間をつぶすことにした。