二
「随分やられたのね」
司令部に戻るとオンダがいた。
カーズのエイトを受け継いでいる魔法少女だ。彼女は今回の此処での作戦には参加していない。別の戦場に駆り出されていたはずだった。
「何しに来たのよ」
リアと同じく連邦の軍服を身に纏った見た目だけは少女である。オンダのニヤついた表情から、からかいに来たのだろうと想像はついた。
「お見舞い」
「冗談でしょ」
それには答えず、オンダは肩をすくめただけだった。
「そっちの状況は」
オンダは、西の港町の襲撃を担当していたはずである。
ここにいると言うことは、作戦は終了しているということだろう。
「一時徹底だよ」
あっちも同じ結果に終わったのだろう。
「ところで、一体どうしたのよ」
右腕の傷をちら見しながら、オンダはリアに問いかける。
「ゴスロリ幼女にやられた」
リアは事実をそのまま報告した。
「ゴスロリ幼女? このあたりで出現するとなれば、たぶん瑞樹ね」
オンダはリアよりも長く生きている。そのせいか王国の事情にもかなり詳しかった。
「瑞樹?」
「戦乙女よ」
「何それ」
聞いたことのある言葉ではあったが、それが何なのか、リアはよく知らなかった。
「戦闘メイドが、対人戦闘を前提としてるのであれば、戦乙女は兵器を相手に戦うためのものよ。もう兵器よね。兵器そのものよ」
兵器と言われても、あの容姿からは想像できない。ただ、強さは本物だった。
「たった三体で帝国の主力艦隊を壊滅させたという伝説があるわ。三十年前の連邦侵攻の時には出てこなかったから、絶滅したんだと思っていたのだけれど。あれが出てきてたら連邦は全滅だったろうけれどねぇ」
連邦が王国を占領できたのは、戦乙女と呼ばれる兵器がいなかったから。そして魔法少女が協力したから。それが一般的な歴史学者の見解だった。
「そんなのが相手じゃ、勝ち目なんてないな」
あの力は規格外だ。ほんの僅か対峙しただけで理解できた。
それに、瑞樹はまだ力を出し切っているようには見えなかった。
「魔法少女が束になっても無理でしょうね。残念だけれど」
「じゃあ、どうすればいい?」
それは、この戦には勝てないということだ。無駄な戦いに参加するほど、リアは連邦に恩義など無かった。そこまでの義理もなければ、必要性も感じなかった。
だとすれば、このままバックレるのが一番かしこいやり方だ。
ただ、あの戦闘メイドだけは倒したかった。
仇討ちはしたかった。
「なんとかならないの」
だからこのまま尻尾を巻いて逃げるのは嫌だった。
「全く無理ではないはずよ。絵付きの連中なら、ある程度の相手はできるわ」
絵付き。
始まりの魔法少女と言われる十三人の魔法少女をカーズと呼んだ。リアもオンダもその中の一人である。代替わりはしているけれど、その能力を受け継いでいるため、他の一般的な魔法少女とは一線を画すほどの力がある。
カーズのうち、戦闘力・魔法力共に優れた上位の四人は、トランプのジャック、クイーン、キング、エースになぞらえて絵付きと呼ばれていた。
絵付きであるジン、ヒメ、ケイ、そしアイの四人は特別だった。
色々と特別だった。
「でもねぇ、アイは隠居しているし、ケイは連邦に対していい感情は持っていないでしょう。ヒメは行方知れずだから、期待できないわ。でもジルの居場所なら――」
可能性があるならすがりたい。
「何処にいるの」
リアは問い詰めるようにオンダに迫った。
「王国内にいるわよ」
魔法少女は本来王国にのみ存在する。リアたちのように他国の戦力として協力しているような魔法少女を除けば、王国内にいるのは当然だ。
「王国内の魔法少女は殲滅されたと聞いているけど」
「カーズは特別よ。ましてや絵付きともなればね」
単純に強いこともあるだろうが、カーズが王国にとっても特別な存在であるのは間違いない事実だった。それはリアにも理解できる。
「それで、王国の何処にいるよの」
「シスカよ」
ここから意外と近い場所だった。