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Silver Sisters 2 ~HARUNA~  作者: 瑞城弥生
第三章 カーズ
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「圧倒的じゃないか我軍は」


 ソーニャ連邦の前線基地で、連邦軍の司令官は目の前に並んだ自軍の戦車隊を眺めながら笑っていた。

 リアは、司令官の隣のパイプ椅子に座ったまま、大きくあくびをする。

 佐官級の軍服を着たリアは、見た目には少女である。にも係わらず、軍服はよく似合っていたし、その態度も軍人そのものだった。

司令官は戦況を楽観視していた。

 味方の戦力は、単純に計算しても敵の五倍はある。普通に考えれば、自分の出る幕はないだろう。そのほうがリアとしてはありがたい。リアは別に戦うことが好きなわけではないのだから。

 ただ、少しばかり、人より強いだけである。


「せっかく来てもらったのに、悪いな、魔法少女さんよ」


 司令官は本当に楽しそうだった。確かに、これだけの戦力差であれば、嬉しくなるのも無理はない。

 それでも油断はできないと、リアは少しばかり気を引き締める。

 王国にはメイドがいる。特に戦闘メイドの力は侮れない。

 アレはたしかに強かった。強すぎた。

 リアは司令部で、まずは戦況を見守ることにした。


「全体すすめ!」


 戦車隊長の合図とともに戦闘が始まった。百両からなる戦車隊の進軍は圧巻だ。

 戦場の状況は、戦車と一緒に飛行しているドローンに搭載されたカメラでリアルタイムに中継されている。

 敵は中央に三人のメイドを配置し、その左右に各十台の戦車を並べている。その圧倒的な戦力差を前に、それでも相手は恐れている様子がない。


「さすがだなぁ」


 三人いるメイドのうち、真ん中にいるのが戦闘メイドだろう。髪の毛の色がほかの二人とは違っていた。メイドは通常、区別つかないほど同じような容姿である。その違いを考えれば間違いない。


「あれは」


 けれどリアには、其の戦闘メイドに見覚えがあった。

 以前戦ったことのある戦闘メイドだ。

 随分昔の話である。

 けれど、リアはあの顔を忘れたりしない。


 味方の砲撃が始まった。けれど砲弾は相手陣地に届かない。戦闘メイドが展開している防御壁が味方の砲弾をすべて防いでいた。

 厄介だ。

 戦闘メイドが攻撃を防いでいる間に、二人のメイドと王国の戦車隊がちまちまと連邦の戦車を潰していく。時間がかかるとは言え、確実な戦法だ。それにしても、メイド一人が戦車一台分の戦力とはよく言ったものだ。ただのメイドのはずなのにやたらと強い。

 確実に味方の戦車は減っていった。


「まずいな」


 いつまで続けるつもりかわからないが、味方のほうがジリ貧だ。戦闘メイドが防御に徹しているからまだかろうじて持ちこたえているだけだった。戦力が並べば、こちらの負けが現実味を帯びてくる。

 何か手を撃たなければと、リアは楽観的な思考を投げ捨てた。


「出ましょうか?」


 リアは、明らかにテンションが落ち始めている司令官に問いかける。

 それなりに優秀な司令官だ。さっきまでの気楽な様子はもう無かった。今の状況を正確に判断できているのはありがたかった。


「ああ、よろしく頼む」


 できれば魔法少女などに頼りたくなかったという司令官の本音は、苦渋の表情から察することが出来たが、もはやそうも言ってられない状況になってしまった。


「了解です」


 リアはパイプ椅子から立ち上がると、斧を具現化させてから、前線へと向かい走り出した。戦闘メイドの死角である戦車の隙間を縫うように走り、一気に距離を詰めていく。

 振り上げた斧に、太陽の光が反射した。

 戦闘メイドは、それに気づいていた。


「先手必勝」


 リアは魔力を全開にしてメイドに向かって飛び込むと、持っていた斧を勢い良く振り下ろした。

 軍服姿のままだから、魔法少女としての力を完全には出せなかった。けれど今は、まだそれで十分だった。

 斧に全体重を載せて、戦闘メイドの防護壁へと叩き込む。

 防御壁は、ガラスのように砕け散った。


「榛名様!」 


 別のメイドが驚いて叫んだ。


「やっぱり、榛名か」


 思った通り、リアの知っている戦闘メイドだ。


「魔女と契約せし乙女」


 榛名が、リアを見て呟いた。


「よくわかったわね。さすがメイドさん」


 リアの言葉に顔をしかめつつ、榛名は呪文を唱える。


「ダーレ=フォルザ」


 王国の国章が現れ、榛名は真っ黒い甲冑姿に変身した。


「相手が白銀シルバー四姉妹シスターズとは、願ってもないことです」


 榛名という戦闘メイドが、白銀の四姉妹の一人だということは、知っている。

 其の強さは、相手として申し分ない。あの時も、黒い甲冑姿のメイドに沢山の仲間が殺された。魔法少女が殺された。

 だから、リアにとって、榛名は仲間の仇である。

 リアは楽しくなって来た。

 震えるほどに嬉しかった。

 やっと仇が討てるのだ。


「マギーヤ・オトクリーティエン」  


 だから、魔法少女に変身する。

 紫色の魔法少女に。

変身が完了すると同時に、リアは全力で榛名を襲う。

 戦闘メイドを相手をするのは、リアにとっては二回目だった。

 相手は強く、簡単には倒せない。それはよく分かっている。

 けれど、リアの力はあの時と違っている。もう普通の魔法少女ではないのだから。

 戦闘力では榛名と互角、いやリアのほうがやや優勢だろう。このまま戦い続ければ、リアの勝利は確実だ。


「チッ」


 それを悟ったのか、榛名は基地全体の防御を諦め、二人のメイドを匿うように小さめの防護壁を作り上げた。

 すでに撤退を考えているのだろう。その切り替えの速さには感心する。ただの戦闘馬鹿ではないようだ。


「やりますね」


 けれど簡単に逃しはしない。

 リアは斧を巨大化させると、再び榛名へとそれを振り下ろす。

 強化されているはずの榛名の防護壁が砕け散り、二人のメイドは、その衝撃で後方に飛場されていった。

 しかし榛名はその場に残り、日本刀でしっかりとリアの斧を受け止めていた。


「案外と頑丈なんですね」


 それが素直な感想だった。


「丈夫さだけが取り柄なのでね」


 榛名は攻撃より防御に特化しているのだろう。前回の戦いでもそうだった。簡単に榛名に傷は付けられない。

 リアは斧を振り回し、今度は真横から叩きつける。

 榛名はもう一度リアの斧を刀で受け止めたが、その衝撃に抑え切れず、吹っ飛んだ。


「終わりです」


 転がっていく榛名を追いかけ、リアはもう一度斧を振り下ろす。


「え?」


 斧は、榛名ではなく別の硬い物に遮られた。

 王国軍の軍用車が、二人の間に割り込む様に突っ込んできたのだ。


「榛名様。撤収です」


 運転手が、榛名に向かって叫んでいる。

 リアに怒りの感情が湧き上がった。


「邪魔をするな」


 一瞬で、リアの斧が運転手の首をはねる。

 榛名は、しばらくその男を見ていたが、突然、力任せにリアに刀を打ち込んできた。

 いつの間にか、榛名は全身が白銀に輝いている。

 ヒステリックなまでに取り乱した榛名の姿は、冷静冷血と言われた戦闘メイドに似つかわない。リアでさえ動揺するほどだ。

 そしてなぜだか、さっきよりも戦闘力が落ちている。

 一体何がそうさせたのか不思議だった。


「あの男か」


 リアは、軍用車の側に転がる男の死体に視線を移す。

 その時、死体の横で何かが光った。

 それを榛名が拾い上げる。


「コンポジゾーネ」


 榛名は、その光るものに手をかざし、呪文を唱えた。


「なにを」


 リアは、何か面倒なことが起こる前に榛名を倒すことを決断し、即座に榛名の後ろから斧を振り下ろす。

 これでやっと仇が討てる。

 そう思ったが、そうはならなかった。

 今度もまた、何か硬いものに止められた。


「ごめんね。遅くなっちゃった」


 それは日本刀だった。

 しかし、榛名のものとは形が違った。大きさが違った。

 別のメイドが応援に来たのかと、刀の所有者へ視線を移す。変身した魔法少女と対等に戦えるのは、戦闘メイドぐらいしかいないはずだ。

 けれどそこにいたのは、メイドでは無かった。黒いゴシックロリータ風のドレスを来た少女がリアに背を向けて立っている。


「ほんとごめんね。比叡ちゃんてば、僕を五月より後回しにするんだもの」  


 比叡という名前は聞いたことがある。戦闘メイドの一人である。

 ならばこいつは一体何だ。


「さあて、お仕置きの時間だね」


 ゴスロリ少女が榛名からリアに向き直る。

 見た感じは小学生ぐらいである。

 とても美しい少女だった。


「何だお前は」


リアは思わずそう叫んでいた。

 榛名にも劣らない、いやそれ以上の威圧感。

 自分より遥かに強い存在だと、リアはすぐに悟っていた。

 勝てない。

 勝てるはずがない。


「ものを知らないってのは、それだけで罪なんですよ。おばさん」


 小学生のような少女からすれば、魔法少女の姿であっても、おばさんと言われるのは仕方がない。だが、その挑発にやすやすと乗るほど、リアには余裕がなくなっていた。

 身の丈ほどもある少女の大きな日本刀が繰り出す衝撃波は凄まじく、あっという間に味方の戦車は五台まで減らされていた。


「そろそろ終わりだね」


 静かな、そして冷たい声で、少女は告げる。

 リアの負けは確実だった。

 次なる手は、一つしか思いつかない。


「確かに、今回は、わたしの負けかな」


 強がりまじりにそう言い残すと、リアは瞬間移動でその場から撤退した。

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