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HEY!字ャっ部  作者: コダーマ
2月『ユビキリ』

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22/24

2月〈後編〉人間のシリ~ 人間のシリ~♪

 朝練の為、部室のドアを開けると珍しく朝から来ている曽良三々が、鴨はじめの鼻の穴に豆詰めてた。


「………………」


 エット。何?


 冷静にナレーションしよう。うん、やり直し──ガラリ。


 部室のドアを開ける。曽良三々が凛々しい感じでこっちを見た。手に豆を持っている。うん、先週は節分だったもんな。字ャっ部でも豆を大量買いしたもんな。そして彼の前には鴨が座っていた。曽良三々、豆を鴨の鼻の穴に詰め始める。


「ごじゅういち、ごじゅうに、ごじゅうさん……」


「うっ……うんっ! うっ……」


 鴨の奴も縛られてるわけでもないのに身動きせず、辛そうな(?)喘ぎ声をあげている。その様を水口楓が至近距離でじっと見てる。


「何やってるんですか。どういうプレイですか」


 努めて冷静に、僕は言った。


「豆、どれくらい入るかと思って」


「んっんっ……んんっ❤」


 ──ああ、ツッこみたい。


 言いたいことがいっぱいだ。


 でも僕は敢えて我慢した。無言で堪える。これ以上奴らを見てると僕自身、何を口走るか分からない。視線を逸らせたところで、沈黙する。


「ブツブツブツ……」


 トリ先生が部室の隅の方で、例の白いドビラのワンピ着て小さく座ってる。


「ブツブツ」小声で何か言ってるし。「ブツブツ……反省しておる。自らに罰ゲームを……」


 だからって僕の前で罰ゲームとして、その服を着なくてもいいじゃないですか。


 贈った僕が言うのも何だけどトリ先生、それ着るとニューハーフみたいだ。


 例の『6本目の指がトモダチ』騒動から既に1週間。


 トリ先生の手は軽くテーピングするだけの状態に回復していた。小指と6本目の指を合わせてグルグル巻きにされているので今は一見、5本指の生物に見える。


 それでも相変わらず人間のトモダチはできないし、むしろ例の騒動で学校中からひどく顰蹙を買ったらしい。


「ブツブツ……すごく反省しておる」


「ろくじゅうなな。ろくじゅうはち……」


「んっ……んんっ❤」


「ブツブツブツ……」


 ──何だ、この部室。


 何だろな。世間じゃもう大概の人に受験の結果が出てる筈なんだけどな。エリートの僕としちゃ、他人のそういうことがものすごく気にかかるところなんだけど

な。でもこの部室、そういう話題が1個もでてこない。


「明日の体育、持久走だってよ」


「10メートル走るのだってイヤ。疲れるの、イヤ」


「そうですね。登校時だって、走るくらいなら遅刻しますよ。我々は」


 うちで飛び交う話はそんな程度。


「あんたら、受験はどうなってるんですか!」


 僕は遂に黙っていられなくなり、叫んだ。


「大学にコネでもあるんですか? ダブって、また来年もこのメンバーでやり直しかぁ、トホホーなんてオチはナシですからね!」


 曽良三々がキョトンとこっちを見た。


「トホホって何?」


「いえ、あの……」


 しまった。何だかものすごく恥ずかしい。


「トホホって何なの?」


「いえ、すみません」


 イジメのターゲットがこっちに移ったみたいだ。とりあえずその場から逃げ出そうとにじり寄った扉が、突然バンと開く。


「に、兄ちゃん……」


 唐突にやってきたのはピンク作務衣──竜也だった。


 何があった? びしょ濡れでカタカタ震えている。


「にいちゃんっ! 何で竜也のこと起こしてくれなかったんだよ」


 よろける足取りで黒作務衣に近付くも、曽良三々は弟をチラッと見やっただけだった。


「あ、いなかったんだ。竜也」


「!」


 さすがにショックを隠しきれないお兄ちゃんっ子の竜也、しかし負けない。露骨に涙を見せながら兄の元へ走り寄る。


「知らないオバチャンに水かけられたんだよ~」


「何で?」


「何でかは、むしろ竜也が聞きたいところだよ」


 どうやら遅刻して来る途中、悲劇に襲われたようだった。


 バケツ振り回して水まきしているオバチャン、狭い道路を占領している。


 竜也はその時、何か嫌な空気を感じ取ったらしい。でもオバチャンが満足して水まきを止めるまで待ってはいられない。既に朝練にはかなり遅刻していたからだ。


「スイマセン。通ります」


 一呼吸おいてからソロソロ通ったのに、見事にバシャーンと掛けられた。


「イヤやわ、若い子は」なんて言われたらしい。


「何で竜也が非難されなきゃなんないんだよ!」


 憤慨している。うん、それは確かに理不尽だ。なのにその場の皆──反省中のトリ先生まで──なぜかニヤニヤしながら奴を見てる。


「敏捷性がたりないんじゃねぇか?」


「更に竜也君、最近ちょっと太ったんじゃないですか」


「うん、顔の大きさが違うかも」


「えっ?」


 (兄も含めた)上級生のイジリのターゲットが鴨やトリ先生から突然自分に移ったことに、竜也は戸惑い顔だ。


「竜也、太って見える? あ、確かにこの前ピザやパスタ食べ放題に行ったから少し太ったかも。だけど、兄ちゃんも一緒だったし……てか、兄ちゃんのが竜也よりずっと沢山食べて顰蹙買ってたくらいだし」


 なのに太ったのは竜也だけ?


 弟の嘆きを、満面の笑みで受け流した曽良三々、おもむろに立ち上がる。


「よしッ!」えらく勘違いした風に気合の声をあげた。「いいこと思いついた。極上の企画」


「……何ですか?」


 この人の極上、すごく怖い。

 

 かくして『おもしろダイエット企画』なるものが立ち上がった。


「何ですか、それ。僕ら書道部なんだから、書道をしましょうよ」


 無駄と知りつつ訴えるも案の定、みんな聞いちゃいない。曽良三々の統制の元、こういう時だけ固く結束する字ャっ部。手際よくヨガボールを膨らましてる。


「ジャンケンして負けたらヨガボールに1分。満面の笑みで乗って、即興で曲作って歌わなきゃならない。そういうダイエット」


 何ですか、その罰ゲーム的ダイエットは。いろんな意味で痩せる思いだ。


 それなのに僕を除いてみんなすごくノリ気で、早速ジャンケンが始まった。


 出さなきゃ自動的に負けになるらしいので、慌ててグーを出すも僕はやはり見事に負けてしまった。周りから突つかれてヨガボールに乗ったものの、即興で曲なんて思いつくわけがない。


「テーマを……せめてテーマをください」


 必死になって食い下がる僕。何だかやる気満々のようで、我ながらどうかと思う。


「テーマか……」


 曽良三々と水口楓が顔を見合わせた。


「私の生い立ち、はどうでしょう」


「うん。じゃあソレ。1分で」


 決定早ッ! すごい適当だ。


「ハイハイ♪ ハイハイ♪」


 みんなの手拍子に追い立てられ、僕はヨガボールの上で尻を振った。



 ♪生まれた時からエリートの僕だけど モテたことない

  人間にモテたことない

 ♪犬にもネコにもハムスターにもモチたことないのさ

 ♪唯一の例外 それは春先の蜂

 ♪毎年刺される

  必ずと言っていいほど刺されるのさ……エット。


 ──1分って長っ!


 途中でリズムが止まった僕に、周囲から大ブーイング。


「しかも面白くない」


「自虐ネタを入れたらウケると思ったら大間違いですよ」


「オマエごときが蜂にモテるんだっていう、その傲慢さが腹立たしい」


 ──何でだろ。僕、ヒドイこと言われてるし。


 不服を露にヨガボールから降り立つ。


「じゃあ、見本見せてくださいよ!」


 次に背を突かれてボールに座ったのは鴨はじめだ。さすがのリズム感でいい具合に跳ねている。


 ♪麺類大好き センタクメン子

  手打ちじゃないと我慢できない

  それがセンタクメン子なの

 ♪枕の中はメンがギッシリ

  鼻に詰めるパスタ 髪を束ねるソウメン

  それが アァ それがワタシ

  センタクメン子 センタクメン子~


 コイツ、1分歌い切った。しかも満面の笑顔で。


 ある意味スゴイ奴だと息を呑んだ僕の眼前。


 憐れにも奴はボールから蹴り落とされる。


「校歌のパクリだろ。ダメ!」


 曽良三々、かなり手厳しい。


「それに生い立ちじゃないですしね。どれ、曽良君、見本を見せてあげてください」


「うむ」


 水口楓の言に曽良三々、黒作務衣の袖をまくった。ゆっくりとヨガボールにまたがるなりパカッと口を開け、弾ける笑顔。


「歌います 曽良三々は『たくましく』──曽良三々」


 久々の五七五だ。タイトルがどうやら『たくましく』らしい。何だそりゃ。


   『たくましく』     曽良三々・作


 ♪腰を抜かしたお父さん 一緒に髪も抜けてきた

  どうしたの お父さん

  食べてたジャムパンの中から

  カワイイねずみが飛び出してきた

  お父さん大丈夫

  驚いたけど大丈夫 髪が抜けても心は折れない

  お父さん たくましく


 ♪頭の中真っ白 お母さん 当然髪も色抜けてきた

  どうしたの お母さん

  今やってたこと 全部一瞬で忘れちゃった

  アンタのせいよと逆ギレ

  お母さん大丈夫

  いつものことさ 大丈夫 思い出すまで忘れていようよ

  お母さん たくましく


 ♪顔面スゴイ様子お姉ちゃん 当然髪も爆発だ

  どうしたの お姉ちゃん

  メイクを失敗した どう見てもツギハギモンスター

  お姉ちゃん大丈夫

  ダメージないよ 大丈夫 むしろいつもと一緒じゃない

  お姉ちゃん たくましく


「………………」


 何、その嫌な完成度は。ある意味才能が開花している?


 2分を越える熱唱に、トリ先生と竜也が感動の涙を流して拍手する。水口楓と鴨はじめも目を充血させていた。感性も分からん、この人たち。


「どう?」


 得意気な曽良三々、ヨガボールから起き上がった。いや、確かに完成度高いよ。でも生い立ち関係ないし。


 次いで水口楓がボールに乗ったものの。



 ♪コレ、ドイツんだ? オランダ♪


 それだけで言葉が途切れて不発に終わった。一瞬静まり返る部室。


「に、兄ちゃんについて歌うよ!」


 今度は竜也。張り切ってボールで弾む。



 ♪うちの兄ちゃん、朝は洗顔

 ♪うちの兄ちゃん、冬は団欒

 ♪うちの兄ちゃん、爪は深爪

 ♪うちの兄ちゃん ゴマは黒ゴマ

 ♪うちの兄ちゃん 筆は大筆

 ♪うちのうちの兄ちゃんッ



 何コレ? 一瞬、シン……とした。


「はい、次」


「兄ちゃ……?」


 当の兄ちゃんに何のコメントもされなかった事に、竜也はショックを受けたようだった。


 続いて名乗り出る者がいなかった為、曽良三々は再び自らヨガボールに座る。今度の曲は『人間のシリ』というタイトルだ。



   『人間のシリ』曽良三々

 南国のお面をかぶった神が出てきた

 ウホウホ言ってる 槍を振り回して人間追い回す


 人間の尻が好物

 肉が最高 ほど良いやわらかさ ほど良いかたさ

 人間のシリ~ 人間のシリ~


 冬になると尻がかゆい カサカサ~ カサカサ~

 足に白い粉ふいてかゆい カンソウ~ カンソウ~

 顔にもでる それをハタケというらしい

 カサカサ~ カサカサ~



 下ネタじゃん、とツッこめない微妙なライン。


「ハイハイ!」


 ノッてきたようだ。自ら激しく拍手する曽良三々。


「体重1キロ減るまで、今日は帰れないよ。さぁ、どんどん乗って。ヨガボールに」


 僅か1分程の即興曲で体重1キロを? どういう企画なんですか。どんだけストイックなんですか! むしろスパルタですか!


「ハイハイ! ハイハイ!」


 曽良三々の興奮が、何だかみんなに伝播した。

 

 キェーッ、イェーッ!


 雄叫びあげながら奴らはみんなでヨガボールを抱えあげる。


「人間のシリ~ 人間のシリ~♪」


 歌いながら郊外へ飛び出した。


「あっ、ちょっと! みんな、早まらないで!」


 僕の制止はいつものように無視られた。


「人間のシリ~ 人間のシリ~♪」


 確固たる足取りで、向かうはいつもの駅前広場。


 お神輿のようにヨガボールを抱え、人間のシリ~と連呼する色とりどりの作務衣集団+ブルマーの女神。さすがに周囲から人は消えていた。


 ──警察が来たのはそれから10分後のことだった。


「き、君たち、麺達高校の生徒だろ。何やって……ブッ!」


 ヨガボールが警官の顔面に叩きつけられる。


「人間のシリ~ 人間のシリ~♪」


 何かの宗教のように歌い続ける奴らを前に、警官も引き気味だ。僕はポストの影から変な集団を見守るだけ。


 結局、補導された奴らは翌日昼過ぎまで帰って来なかった。

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