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HEY!字ャっ部  作者: コダーマ
2月『ユビキリ』

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21/24

2月〈前編〉見付かった、トモダチ?

「事件とか起こらないかなぁ」


 曽良三々がボソッと言った。


 何だ、その独り言。暇なの? 暇なのか?


 事件が起きたところでどうする気だ。(しかもこのニュアンスは殺人事件的インパクトを期待している)解決するのか? そんな書道部はイヤだ!


 それより……、と曽良弟が続ける。


「ストリートで書いてたのがキッカケでテレビ取材を受けて、一躍芸能界デビューってのもいいよね。メン高・イケメン書道家軍団ってフレコミで」


 自分でその名称使うの? ものすごい神経だな、コイツ。そんな書道部はイヤだ!


 第一、ストリートで書いてたって何だ? もしかしてクリスマスに鴨が例の駅前広場で墨を撒き散らしたあの件のことか? あの事件のことなのか?


 もう2ヶ月も前のことだし、それに書いてた(?)のはあんたじゃない。


「いや、それより謎めいた暗号を残して字ャっ部部員が次々と怪死するんだ。まずは原田タロー、それから鴨……まぁ、死ぬのはそれだけなんだけど」


 それだけかよ! 勝手なことばかり言いやがって。それをあんたが見事に解決するのかよ。そんな書道部はイヤだってば! ともかく怪死してたまるか!


 様はこの人たち、ヒマでヒマでしょうがないんだ。


 外は寒いものだから、書道室に持ち込んだ小さな電気ストーブの前から動こうとしない。曽良兄弟にもちろん水口楓、もちろん鴨はじめもそこにいる。みんなして、てんでバラバラに好き勝手へんなこと言ってる。


 ここにいないのはトリ先生ただ1人。


 あの人はボヤを出した倉庫の片付けに行っているのだ。


 教務主任から、そこら一帯の掃除を命じられたという。どうやらトリ先生がこの学校の非常勤講師というのは本当らしい。勝手に学校に住んでいたのは問題だけど、ボヤの後片付けをキチンとするという条件で、何とかクビは免れたということだ。掃除って……うちの学校もどうよ、その処分。


 でもまぁ、助かった。トリ先生がクビになってしまったら、僕としては悲しいわけだし。


 モチを喉に詰めて白目剥いてた彼女を見ていい加減冷めてもよさそうなのに、それでも僕の淡い恋心は生きながらえていたのだ。


 無論そのまま学校に住み続けるわけにはいかない。この件でトリ先生は住む所を失ったのだ。


 途方に暮れる彼女に「うちに来てください」と言いたかったけど、両親と住んでる高校生としては無理な話だ。それでも何とか彼女の力になりたいと、僕は……。


「アオッ……オッオーッ」不意に響いてきた変な声。「アオッ! アオゥッ!」


「……ト、トリ先生?」


 部室のドアを開けると果たしてそこには体操服とブルマー姿のトリ先生が、ベソかきながら立っていた。


「トリちゃん、どうしたの?」


「トリちゃん、大丈夫?」


 皆一斉にトリ先生を取り囲む。何だかんだと字ャっ部の中で彼女の存在は大きいのだ。


「ワシの指……6本の指……」


 例によって、例の泣き言。


「はぁ……」


 わざとじゃないけど僕、大きな溜め息吐いてた。


「見られた。ワシの指……秘密の6本の指……」


 どうやらトリ先生、倉庫の片づけをするのに手袋が邪魔で取っていたらしい。


 そこへボヤの跡を見に来たヤジウマ生徒が現れた。彼女の6本の指を見て「ホントだ!」と叫んで逃げて行ったらしい。


「教え子にあんな目で見られるとは……アオッ! オッ!」


「確かに失礼な話ですよね。まぁトリ先生、気にせず……」


 しかしトリ先生はメソメソ泣いたままだ。


 指のことが彼女にとって大きなトラウマなのは分かるが、それにしたっていい大人が鬱陶しい──あ、いや、別に本気で鬱陶しいって思ってるわけじゃなくて。


 そんな僕の揺れ動く気持ちなど一向に頓着せず、トリ先生は己の左手をじっと見つめる。どうやら住む所を追われたのも何もかも、一切の不運を6本あるその指のせいだと思いこんでいるらしい。


「頼みがある。ヘタレのワシに代わってこの指を……ワシの6本目の指を切り落としてくれ……っ!」


 思い詰めた様子でそんなこと言うし。


「トモダチ……トモダチ……」


 俯いたまま床の一点を凝視してブツブツ言うトリ先生に、いい加減僕もイラッときた。


「友達ができないのは指のせいじゃないと思いますけどね。指を切り落としたところで同じですよ。第一、そんなことしたら猟奇事件です。イヤですよ。ボヤ起こして喉詰めて、あげく流血事件なんて」


「ナニ……」


 トリ先生、パカッと口を開けて呆けたように僕を見つめる。ああ、表情豊かなこの人の──これは「ショックを受けた」顔だ。


「ワシの……ワシの人間性に問題があるっていうのか!」


「はぁ……」


「トモダチができないのは、ワシの人間性に問題がっ!」


「はぁ、まぁ。いや、その……」


 トリ先生の口が大きく大きく広がっていった。顎がカクカクしてる。


 僕の言葉と態度に相当ショックを受けたらしい。何だかんだ言って、今まで何があっても僕だけはトリ先生擁護の立場を貫いてきたからな。


「…………裏切ったな」低っーい声。トリ先生からすれば僕が態度を翻したように感じたのだろう。「裏切ったな!」


「いや、裏切ってませんって。怖ッ!」


 金属の擦れる音と共にトリ先生、ゆっくりとこちらに近付いて来る。


「な、何ですか? ヒッ!」


 ホラー映画さながら、トリ先生はカランカラン言わせて大振りの鉈を引きずってきたのだ。白目剥いてるし。


「ホレ、切ってくれ!」


「は?」


 僕ばかりでなく、字ャっ部全員がポカンとしてトリ先生と鉈を見比べた。


「つまり、その鉈で6本目の指を……?」


 トリ先生、青い顔してコクリと頷く。


 本気か? この人、ここまで思い詰めていたか。突然、予期せぬ恐慌に走られても困るので僕はとにかく鉈を下ろさせようと慣れない説得を試みた。


「指が6本なのはトリ先生のせいじゃないですから。いちいち気にせず、堂々としてたらいいじゃないですか」


「……この指はワシのせいじゃないだと?」


 トリ先生、チラッとこっちを見る。


「そ、そんなことは分かっておる! でも、イヤなんじゃ! オマエ、考えてみよ。自分だけが周りのみんなと違うってことを。その孤独を……。ワシは指のことだけを言っているのではないのじゃ。人の気持ちというものはじゃな」


「う……」


 説得するつもりが、逆に昏々と説き伏せられてしまった。


「この鉈でソレを切り落とせばいいんだね」ためらう様子なく曽良三々が鉈を振り上げる。「いくよ、トリちゃん」


「あっ、あっ! ちょっと待つのじゃ、曽良ちゃん」


 早ッ! トリ先生、照れ笑いで手を背中に隠してしまった。


「そ、曽良ちゃんはきっと痛いし。ちゃんと……」


 今更ながら言葉を濁す。誰がやったって痛いもんは痛いですよ、トリ先生?


「じゃ、じゃあ竜也がやるよ」


 おそるおそるといった様子で竜也が兄の手から鉈を受け取る。


「や、やってくれ。さあ!」


 トリ先生、ギュッと目をつむって腕を差し出す。


「うっ……」鉈を振り上げる竜也、突然その動きを止めた。引き攣るこめかみ。見る間に両目に涙が溢れてくる。「で、できないっ!」


 取り落とした鉈が床に落ちて、カランと小気味良い音を立てる。


「だってピクピク動いてるんだもん。ムリっ!」


 6本目の指。コレが多分彼女の意思とは関係なく、時々ピクッと痙攣するのだ。


 次に鉈を持った鴨も、そのピクピクを見て泣き出す始末。みんな結構見掛け倒しだ。


 しかし水口楓が鉈を持った時はさすがに僕、止めた。


「ストップ! ストップです。水口先輩、やめてください!」


「何を言ってるんです。ボクは本気でいきますよぉ!」


「いやいや、おかしいでしょうが!」


 この人、怖い。ある意味、本気でやりかねない。


「順番にトリ先生の指を切っていくなんて……これは一体どういう企画なんですかッ!」


 僕は怒鳴っていた。さすがに怒っている。周りのみんなに、そしてトリ先生自身にも。


 だけど水口楓も何だか怒っていた。こんな機会、またとないのに、とか言ってる。曽良三々はボーッとしてるし、あとの2人は泣いている。我に返ると、何だ? この部活。


「鉈で切り落とすなんて、確かに残酷です。うん、刺激が強すぎますね」


 正気を取り戻したのか、水口楓が真っ当なことを言い出した。


「液体に漬けて(この場合、液体とは硫酸などです)指を徐々に溶かしていくというのはどうでしょぅか」


「やめてぇ!」


 竜也が号泣する。


「ではまず皮を剥いで……」


 水口楓、イキイキしてる。かなり嫌な奴だ。


 その時だ。今まで黙ってうんPチョコなめてた曽良三々が不意に顔をあげた。


「トリちゃん、6本目の指をずっと曲げてたらいいよ。そしたら目立たないし」


 ものすごく真っ当な意見。しかしトリ先生は悲しそうに首を振った。


「……動かないのじゃ。コレ、飾りみたいに付いてるだけなのじゃ」


「うわ、本当に役に立たない指なんだ」


 曽良三々が吐き捨てた。トリ先生、本気でショックを受けてその場にヘナヘナ座り込む。


「みんな、あまりにも……あまりにも……」


     ※


 結局、トリ先生の指をどうするかで今日という日は潰れたわけだ(どうするかって言ってもなぁ)。でもみんな、それでいいと思っている。


 ……これでいいのか、僕らの字ャっ部?


「いや、いいんだよ。どうでもいいよ。帰ろう」


 副部長の号令に、みんな荷物を持って立ち上がる。信じられないことに、僕も「どうでもいいか」という気分になったのだ。


「じゃあトリ先生、さようなら」


「トリちゃん、また明日ね」


 ゾロゾロ出て行く僕らにトリ先生、いきなりギャオーッ! と吠えた。怒ってるみたい。


「オマエら……ウグッ! オマエら、あまりにも冷たいッ。ウググッ!」


 言葉にならないのか。僕らを押しのけ、出口に突進した。勢い良くドアを開けた瞬間。


「うギャごォッ!」


 ひどい悲鳴。指を詰めたらしい。


「ぎゃグォガげへッ!」


 とっさに当てたタオルが見る間に真っ赤に染まり、床にポタポタ赤い雫が落ちる。負傷は思った以上に深刻だ。


「キャーッ!」


 竜也と鴨が叫び、そして再び救急車が出動した。正月じゃないので今度はギャラリーも多い。


そんな中、手を血まみれにして運ばれていくトリ先生。僕らもただ諾々と付いていくだけ。前と同じ救急隊員が、トリ先生を見てちょっと青ざめた。


 例によってたらい回され、例によって再び中村医院へ。


 カクカクしながら出て来た老医師、しかしトリ先生の指を見て今度は失神した。指の状態に肝を潰したのか、指の数に慄いたかは僕たちには知る由もない。


 しかたなく再び救急車に逆戻り、今度連れて行かれたのは幸いなことに名の知れた救急病院であった。


「グムーッ、グムーッ!」


 血だらけのタオルを抑えて唸るトリ先生。


何もできず僕らはゾロゾロと救急治療室に付いて行き、そして医者に追い出された。


 待合で待っている間にも次々と急患が運び込まれてきてる。扉向こうから、医者や看護師のキビキビした声が漏れてくる。それに混じってトリ先生のものすごい悲鳴も聞こえてきた。


「イヤじゃあ! やめてくれ~!」


「でもね、トリさん?」医者の声。これは幾分呆れた調子だ。「いらない指なんですから、切断しても問題ないんですよ」


 怪我した指──6本目の指のことだな。


 ヒィ! と、トリ先生は悲鳴をあげる。


「いらない指なんかじゃナイ! いる! いるのじゃ!」


 アレ? トリ先生、言ってることかなり違う。


「生まれた時から、ワシとこの指とはトモダチなんじゃあ~!」



 トリ先生があまりにうるさく言うもので、結局指は縫合された。


 傷口が潰れていて、かなり難しい手術だったらしい。


 今、彼女の手はグルグル巻きに包帯をされ、グローブみたいになっている。


 しばらく休んでから学校に復帰してきたトリ先生、僕らの姿を見ると照れくさそうにちょっと笑った。


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