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HEY!字ャっ部  作者: コダーマ
1月『救急掃除機』

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19/24

1月〈前編〉モチを喉に…!

「うどんとさつまにします」


 自分の声で目が覚めた。


 何? 僕、夢見てた? うどん? 全然覚えてないけど、この場合さつまって何? サツマイモなのか、さつま揚げなのかがちょっとだけ気になる所だ。


「何? 貴様の初夢はそれか? 食べたいのか? サツマイモにしろさつま揚げにしろ、すぐにでも叶うだろうな」


 的確なツッこみは曽良三々の声だ。僕はムクリと体を起こす。


 吸い込む空気は砂の匂い。見回す周囲には古い机や壊れた椅子が積み上がる。


 ああ、今日は正月。そして僕、こんな倉庫でうたた寝してた。だって夕べはろくに寝ちゃいない。


 高1の大晦日──どうしてもと竜也がごねるので、往来でマッチ売りの真似事をしたんだっけ。2人で例の駅前広場をウロウロしたのだ。夜中に。


「マッチいりませんか。マッチ買ってください」


 ──もちろん、売れるわけがない。


 大晦日のこの時間という事で、広場はあまり人通りもなく、たまに通る人も僕らを何かのアルバイトだと思ってくれたようだ。


 僕たちはそうやって町内行脚のようにマッチマッチ言いながら年越したわけだ。アケオメ~って竜也に会釈されちゃった。


「最悪のパターンで新年迎えたな……」


 途中、お母さんから電話掛かってくるし。


『アンタ、こんな夜中にどこにいるの。まさか悪いことしてるんじゃないでしょうね』


 悪いことじゃ……。別に悪いことをしてるわけじゃない、よな? イマイチ自信ない。


 ワリに夜更けまで歩き回って、そして竜也は急に満足したように帰って行った。


「…………ハァ」


 新年最初の溜め息。マッチ売りなんかに付き合うことなかった。我ながら人が好いよな。


 酷い事に、朝になると今度は鴨がやって来た。例の赤作務衣着て。僕、ロクに寝てない。


「迎えに来てやったぜ」


 なんて上から目線で言われ、学校に連れて行かれる。


「閉まってます。さすがに学校は閉まってますって! さすがのあいつら……いや、皆さんも今日くらいは家族と過ごし……」


 夢みたいなことを言ってると、この時自分でも分かっていた。あの人たちにマトモな正月が過ごせるとは思えない。そもそもイメージできないもん。




 案の定、きっちり施錠された校門前には見慣れた作務衣集団+ブルマー。


 奴等、パジャマ姿のまま連れてこられた僕を指差して笑ってる。


「あ、明けましておめでとうございます……」


 一応の挨拶をすると、また激しく笑われるし。何でだ? 今までのパターンから、大体想像はついてたけど。でも正月早々、この面子と顔突き合わせるのは……正直ゲンナリだ。


「うんPチョコプレミアムニューイヤーバージョンの鏡餅味は最悪」


 黒作務衣がそんなこと言う。新年の挨拶も何もナシだよ、この人。今年初の会話がコレだよ。


「正月早々またウンPネタですか!」


 きっちりツッこむ自分も何だか悲しい。


 すぐ横で鴨は立ったままクッチャクッチャとショートケーキ食ってるし、竜也は眠そうにマッチを見つめてる。トリ先生も何故かマッチをガン見してる。


「アレ? 水口先輩は?」


 いつもの緑作務衣の姿がないことに今気付いた。


 うん、そりゃそうだ。正月くらいは家にこもって好きなアニメ見てんだろ。うんうん、正しい過ごし方だ。


「じゃ、挨拶もすんだので僕はこれで」


 帰ろうとした僕のパジャマの襟首を曽良三々がガシッとつかんで拘束した。


「これからどこに行こうか?」


「どこに行こうかって……行く所の心当たりがないなら、帰らせてくださいよ!」


「うーん……」


 曽良三々は悩んでしまった。


 学校は鍵が掛かっているから、部室には入れないわけだ。


 無理矢理、侵入しようなんて言い出さずに良かった。最低限、それくらいの分別は持ち合わせているみたいだ。


「じゃあ、ワシの家に来るか?」


 軽い調子でそう言ったのはトリ先生だった。


「え、トリ先生のおうち?」


「トリちゃん、家あったんだ?」


 失礼なことを言われながらも、トリ先生はニコニコ笑ってる。僕と目が合うと、そのニコニコがスッと消えたのがショックだけど。


 でも、トリ先生の家かぁ……甘い匂いしそう。


「こっちじゃよ」


 浮かれて付いて行くとトリ先生は学校の塀沿いに裏門の方へグルリと回り、開いている通用口から校内に入っていった。


「家に案内してくれるんじゃ……?」


 ……ものすごく嫌な予感がする。


 正月早々ヒドイ現実を突きつけられそうだ、僕。


 そうして連れてこられたのが、ここ──体育館裏の倉庫だったのだ。


「ヨダレヨダレ」


 竜也に言われ、僕は慌てて口元を拭った。


 ハッ。寝不足でウトウトしていた。


 せっかくトリ先生の家に案内されて、寝てしまうなんて勿体ない──家なのか? 倉庫に勝手に住んでるらしい。


 どうかと思うが、生徒の僕だって学校のこんな所にこんな倉庫があったなんて知らないのだから。ホコリっぽいのを我慢すれば、確かに隠れ住むには最適の場所かもしれなかった。


「トリちゃん、やっぱり学校に住んでたんだ」


 曽良三々に言われ、彼女は見当違いの笑顔を見せた。これは照れ笑いか。


「まさか……」


 僕は嫌な考えに苛まれた。


 トリ先生、英語の講師だと思ってたけど、もしかしたら。校内で違和感無いくらいに彼女の存在は浸透してたけど、もしかしたら……。


 いやホント、もしかしたら勝手に住み着いただけの不審者とか? ありえない話でもないってところが。


 こっちの引きっぷりを余所に、トリ先生は満面も笑みだ。


「あの、トリせん……」


「何じゃ?」


「あ、いえ……」


 できない。家ないんですかとか、職もないんですか、なんてキビシイ質問は。


 微妙な沈黙──この時間が長いこと。


 ちょうどその時だった。入口付近の廃材がガタガタと音を立てたのは。


「ハッ!」と叫んでトリ先生、ファイティングポーズをとる。


「おお、埃っぽい!」


 現れたのは見慣れた緑作務衣──水口楓である。


 竜也がさっき携帯を触ってたのは、コイツを呼び出すメールを送っていたからに違いない。


「新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します……ハァ」


 律儀に年頭の挨拶を寄越すと、水口楓は露骨に溜め息をついた。よく見ると顔色が悪い。ずっと眉間に皺寄せて、この世の終わりみたいな面してる。


「今朝方パソコンが壊れました。折角購入したあの名作アニメDVDが見られません」


 そりゃ気の毒だったな。この時、この場の全員「ざまぁみろ」と思ったものだ。


「結構長いこと生きてきて、これほど悲しい正月は初めてですよ」


 ブツブツ言ってるが、そもそも何でコイツはこんなに澄ました顔してられるんだろう。


 思い返せば字ャっ部の騒動の原因って大概コイツにないか?


 この前は文化祭潰したし、その前は僕らのバイト代を使い込んだ。反省してます。バイトをして返しますなんて言ったきり、もう忘れてるし。


 鴨はじめがイジメられキャラで、トリ先生がイジラれキャラなわけだけど、本来なら水口楓にこそ制裁を与えるべきではないだろうか。


「昨年のモロモロ、嫌なことは全て水に流して心機一転、今年からまた頑張りましょう」


 なんてものすごく都合のいいこと言ってるし。


 一瞬にしてシラッと静まり返る室内。


「んじゃ、さっさと初詣にでも行きましょうか」


 滞りなく年中行事を済ませようとした僕に、しかし曽良三々が意を唱える。


「面倒臭い うろうろするの 面倒臭い──曽良三々」


 あんたは……。


「いや、先輩方は受験生でしょう! 普通の高3は正月返上で勉強してますよ。今更勉強する気がないのなら、せめて神頼みでもしたらどうですか!」


 我ながら結構キツイこと言ってしまったと思ったけど、この人たちあまり応えていない。


「神頼みだって」


「ウククッ」


 ……まぁな、こういう人たちだって知ってるし。しかし腹立つな。いや、今更怒りに震えるな。自分の身と精神が持たないぞ。


 その時、鴨がこそっと耳打ちしてきた。


「初詣でお願いしようと思ってたんだ。最近、髪が細くなっちまって……」


「はぁ」


「全体量を増やしてもらうか、さもなきゃ髪を太くしてもらうか。どっちがいいだろう」


「はぁ……」


 人知れず心に抱く悩みらしいが、正月早々そんなことをお願いされる神様が気の毒だよ。


 しかし何せボスが動こうとしないものだから、初詣の話は必然的に流れてしまった。


 ……ああ、トリ先生と初詣に行きたかったな。


「ならば、正月らしくモチでも食べましょうか」


 水口楓が切り餅ぎっしり入った袋を出す。用意いいな、この人。


「ワーイ」と曽良兄弟が拍手を始めた。歩いて出かけたり面倒臭い事はしたくないけど、食べる事には手間をかけない傾向だ、この人たち。でもきな粉作ったり、焼いたりするのはどうせ僕なんだろうな。


「はい、お1人500円です。モチは高いんですよ」


 しかも水口楓、みんなからモチ代回収してるし。1人500円はボリすぎだろう──そう思いながら僕も渋々お金を払った。


「500円は高くないですか?」


 おお、立派だ。竜也はちゃんと抗議してる。しかし水口楓は冷たく目を細めた。


「お金を払わない人にはあの白ビラワンピを着てもらいますよ」


「う……」


 あれ以来、罰ゲーム的に着る為に部室に置いてある例のドビラのワンピ。僕、まったくいたたまれない感。


「し、仕方ない……」


 ドビラワンピに屈した竜也、兄の分と合わせて1,000円を支払った。


「でも、どうやって焼くんです?」


 電子レンジもなけりゃ、トースターもコンロすらないこの家(家か?)で。


「火ならあるのじゃ。焚き火じゃ!」


 マッチを握り締めたトリ先生、足元に火をつけた。


 そこらの廃材や壊れた机の木切れを素手で割って、焚き火にどんどんくべだすし。


 誰も手伝おうとしない。ポーッと彼女の手元を見守るだけ。あまりの展開に、さすがに呆気に取られたわけだ。


「て、手伝いましょうよ」


 我に返った僕が廃材を手にすると、みんなチラッとこっちを向いた。


「面倒臭い。トリちゃんにやってもらおう。友達チラつかせたら、あの人諾々と従うから」


 竜也が耳打ちしてくる。


 あんまりだ! 今年もトリ先生、そういう扱いなのか?


「燃えろ、燃えろ! ヒャハハハハ!」


 トリ先生はトリ先生で、新年早々不吉な感じだし。


「ぼ、僕は手伝いますから」


 するとトリ先生、ギロリとこっちを見る。


「オマエはきな粉でも作っておくのじゃ」


「はい……」


 水口楓が買ってきたきな粉と、トリ先生宅に置いてあった砂糖を混ぜる。ついでに砂糖醤油もつくってやろう。海苔や、あと餡子もあれば完璧なんだけど……まぁ、この家(家、でいいのか?)であまり贅沢は言えないな。


「今年こそ書道部らしいことやりましょうよ」


 少しでも場の空気を明るくしようと、醤油と砂糖をグルグル混ぜながら僕は言った。うん、去年は毎日集まってるわりに大したこと何もしなかったもんな。


「この6人でいられるのだって、残り僅かなんですから……ウッ!」


 な、何だ? 不覚にも涙が……。


「原田?」


 僕の涙を見て、曽良三々がニヤついている。水口楓も俯いているところをみると、どうやら笑っているらしかった。


 クソッ、コイツらこういう奴だよ。分かってたよ。僕の純粋な涙を返せよ! むしろさっさと卒業しろよ!


 なんてやってる間に火はボンッと燃え上がり、天井を焦がした。


 モチの焼ける良い匂いが、建物が焦げる嫌な臭いにかき消される。急速に視界が白い煙に覆われ始めた。


「ちょ、ちょっとヤバくないですか? 今更だけど室内ですよ、ここ」


 僕の注意なんて誰も聞いてはくれない。焼けた(焦げた)モチを、みんな嬉しそうに頬張った。


「ちょっと待って? 何で僕にはモチがないんですか? 納得がいかな……ああ、トリ先生。ちゃんと噛まないと。ほぼ丸呑みじゃないですか。咀嚼を……!」


 ああ、色々忙しい。仕方なく僕は袋から生の切り餅を取り出した。


 いいさ、残り火使って自分で焼くさ。だが、僕にそんな暇はなかった。


 突然、トリ先生がのた打ち回る。


「ゲッ! ゲッ!」


 喉を押さえて苦しみだしたのだ。


「ど、どうしたんですか、トリ先生!」


 何と言ってもヨダレがものすごい。


「クェッ! いきが……息ができな……」


 見る間に真っ青になっていく。ま、まさかモチを喉に詰まらせて?


「お約束ぅ」


「異国の地でトリちゃん……哀れな最後だったな」


 曽良兄弟が怖いこと言ってる。


「何落ち着いてんですか。救急車……救急車を!」


 燃える小屋の中、僕の絶叫が響き渡った。

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